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救済

ミツナリが獣人の子供たちと信頼を確かめ合っている間。街では教祖ビノが演説を行っていた。


「前代未聞の大災害が起きてしまった。しかし、我々はこの程度の事で負けるはずがない。今こそ協力してこの危機に立ち向かわなければならないのだ。

 私は、皆の手伝いをしたい。この災害で、家を壊された者、大切な者を失った者、そして家や家具下敷きになり、今すぐに救いを求める者よ。我の名を呼べ。我こそはドラモン教の教祖ビノである。君たちを救いにきたものだ」


 教祖ビノは崩壊して逃げ惑う人々をドラモン教の名を唱え信者たちに助け出させた。瓦礫に埋もれる者、家を失い財産を失った者、大切な人を失い悲しみにくれる者、そんな不幸を抱えた者たちに手を貸し、肩に手を添え寄り添い言葉をかけていく。


「さぁ、我々は皆兄弟。助け合えるはずだ」


 教祖ビノは自ら陣頭指揮を執って炊き出しから、人命救助の指示を行った。それまでドラモン教を知らなかった獣人たちは、教祖ビノの献身的な態度に心打たれ、教祖ビノから発せられる言葉を信じるようになっていく。


「この未曽有の大災害を巻き起こしたのは誰なのか?我々の平穏な生活を脅かすのは誰なのか?我の声を聞け。我の問いかけに対して考えよ。そして、この災害が起こる前に現れた人物は誰だ?」


 教祖ビノは、悲しみに暮れる人々の心に優しさという武器を持って浸透していき、一人の敵を作り出す。

 獣人が忌み嫌う悪魔族の手先であり、獣人王国に不幸をもたらした者。それは誰なのか。教祖ビノはその人物の名前を決して口には出さない。

 だが、教祖ビノが言いたいであろう人物を、獣人たちは思い浮かべることができた。


「そうだ。魔王だ。あいつが我々に不幸をもたらしたのだ」


 それは民衆から発せられたのか、はたまた教祖ビノが連れてきた信者から発せられたのか、そんなことは関係ない。生まれたのは一つの問題である。

 その声によってこの場で演説を聞いていた者たちは、魔王を敵として認識したことだろう。


「悪魔族の手先が我々を邪魔者と火を放ったに違いない」


 彼らの心に共通して生まれた感情は、怒りであり、怒りはどんな力よりもエネルギーを生み出す。


「魔王を見つけ出して殺せ。魔王を王国から生きて帰すな」

「魔王を見つけ出して殺せ。魔王を王国から生きて帰すな」

「魔王を見つけ出して殺せ。魔王を王国から生きて帰すな」


 一人が叫び声を上げれば、それは広場中に広がっていき、すでにその場に教祖ビノの姿はなかった。

 教祖ビノは次の場所へと移動していき演説を行い。人々に偽りの優しさを振りまいていく。

 日が沈む頃には獣人王国の王都コロッセオでは、魔王を殺すため傷ついた獣人たちが街を徘徊するようになっていた。

 

 演説を聞いていたゴーリキは、この事実を知らせるために魔王たちが待つ宿へと足を急がせた。


「穏健派のゴーリキだな」


 しかし、ゴーリキの目の前には闘技場にいるはずの二人の人物が立ちはだかった。


「貴様らは、どうして貴様らがここにいる」

「そんなことが聞きたいのか?死ぬ前に聞きたいことにしては残念な質問だな」

「死ぬ前だと。舐めるなよ。マウンテン族のゴーリキ。そうそうたやすくやられる気はないぞ」


 ゴーリキは全身に肉体強化を施した。しかし、戦士ではない彼の肉体強化は目の前に立つ人物たちからすれば随分とお粗末な肉体強化に見えたことだろう。


「本当にそれしかできないのか?」


 指をポキポキと鳴らしているゴウダはつまらなさそうな顔になり、後ろに控えるホンダを見た。


「おい、ホンダ。こんなつまんねぇ奴を相手にしたくねぇよ。頼むわ」

「んん」


 ホンダはゴウダの言葉に片目を開けて、ゴーリキを見た。


「舐めるなよ。二人ともここで始末してくれる」


 ゴーリキは後ろを向いたゴウダへと襲い掛かる。その手には背中から出した剣が握られており、マウンテン族の怪力と太い剣をいかした斬撃は、ゴウダに真っ直ぐ襲い掛かった。

 しかし、その見た目からは想像できない動きで、ホンダが斬撃を受け止めてしまう。


「なんだと」

「ぬるい」


 ホンダの分厚い掌は剣を握り潰した。


「なっ」

「果てまで飛んで行け。十万トン張り手」


 ホンダの張り手がゴーリキの胸を捉えて吹き飛ばした。ゴーリキは自身の肋骨が砕け散る痛みと衝撃によって吹き飛ばされる。


「片付いたな。いくぞ」

「ん」


 二人の強者がその場を離れ、吹き飛ばされたゴーリキは自身の死を確信する。

 

「大丈夫ですか?」


 そんなゴーリキを見下ろしている者がいた。もう、眼も霞んで相手が誰なのか認識できない。


「誰でも言い。頼む。魔王様に危機が迫っていると伝えてほしい」

「あなたの最後の言葉。必ず届けましょう」


 相手の優しい言葉にゴーリキは安堵し、息を引き取った。ゴーリキの最後を看取った相手は黒いボンテージに身を包んだ見目麗しい悪魔族の女性だった。


「あなたの忠義、しかと魔王様にお伝えします」


 そういったエリカは演説が聞こえる広場の様子を伺い、その姿を闇へと消した。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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