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酒と焚火

 キャンプファイヤーが組まれて、巨大な炎が辺りを温める。俺は少し距離を置いた場所で、出されたオーガ族の酒を口にする。

 香りはあまり強くないが、口の中に含むと、口の中いっぱいにアルコールの味が広がり喉へと熱い液体が流れ落ちていく。


「クゥー」


 自然に喉を通った酒に声が出る。


「魔王様は米酒が好きなのですか?」

「米酒?」

「はい。我々オーガ族が作る酒は稲から取れた、米から作り出した物なのです」


 なるほど、オーガ族は純和風な衣装だけでなく、米も作っているのか。なら、これは日本酒ということになるんだな。


「飲みやすくて美味いな」

「そういって頂けると嬉しく思います」

「ドワーフが出してくれた火酒は濃くて、喉に絡みついてくるようで美味かった。城で飲んだワインはフルーティーな物や、枯れ木のような味がして少し苦手だった。

 アルコールは色々あるが、俺はこれが一番好きかもしれないな。アカイシ、よかったら今度城にこの米酒を分けてくれないか?」


 俺はコップを傾けながら、もう一度米酒を口に含んだ。


「そんなに気に入って頂けるとは。本当に嬉しく思います。我々は戦闘力により、国境沿いの土地を与えられましたが。土地は広く豊かでした。その広大な土地で我々は主食としている米を魔物から守りながら作っております。毎年死人が出ることもありますが、苦労して造った物を評価して頂けるのは心から嬉しく思います」


 アカイシは一気に酒を飲み干して、涙を流し始める。それは嬉し涙だと思うが、語りに熱を帯び始めアカイシが酔っているのが伝わってくる。


「アカイシ兄さん。もう、弱いのに飲むから」

「俺は酔ってないぞ。魔王様が酒を褒めてくれたんだ!」


 アカイシが叫びながら、二杯目を口にしようとするが、モモによって気を失わされた。


「魔王様、大変失礼しました」

「いいさ。それにしても美味い米酒だな」

「ありがとうございます。兄や皆が心を込めて作ったものですから、私も嬉しく思います」


 本当に嬉しそうに笑う鬼娘は美しいと思う。


「そうだな」


 モモがアカイシを連れて去った後、俺はコップを傾ける。辺りが完全に暗くなり、子供たちが寝静まる頃には、ガンテツとのっぺ、それにゴーリキが近くに座って酒を飲み始めた。


「魔王様とこうして酒を飲むことになるなんて思いもしませんでしたね」

「ん」

「ガンテツは相変わらずだな」


 無口なガンテツと、陽気なのっぺに挟まれて俺は美味い酒に舌鼓を打つ。ゴーリキは少し離れたところで、何も語ることなく、ただ酒を楽しんでいた。


「さぁ、出発の時刻だ」


 一夜明けた馬車の前には、アカイシが元気な声で出発の合図をする。昨日まで酔っぱらっていたとは思えない元気な様子で、馬車の運転へと向かっていく。

 ガンテツもいつもと変りなく馬車に乗り込み。ゴーリキは二日酔いで気持ち悪そうな顔をしていた。


「魔王様って、思っていたよりも穏やかですね」

「俺はどうだろうな?穏やかでありたいとは思っているが、元魔王様は優しい方だったぞ」

 

 今朝もモモが会話の口火を切り、三人の会話が始まる。


「そうなのですか?ぜひ、お話を聞きたいです」

「俺も、いいですか?」


 フェルが恥ずかしそうに手を上げたので、俺は国境までの旅路を魔王ベルハザードの話をした。

 俺にとって短い付き合いながらも、この世界の父親みたいな人物だ。思い出だけでなく、武勇伝もたくさんリリス師匠から聞かされた。


「止まれ」


 アカイシが声を張り上げ、馬車を停車させる。国境と言っても、兵も、壁も、何もない。あるのは、小さな川が流れているだけだ。


「ここから先が獣人王国です」

「ここまで苦労をかけたな」

「いえ、魔王様の案内が出来たこと、心から嬉しく思います」

「米酒の件、頼んだぞ」

「はっ、喜んで城へ運ばせて頂きます」


 アカイシは片膝を突いて、別れを惜しむように頭を下げてくれた。モモも膝を折り、アカイシと同じように頭を下げる。


「どうか無事に帰ってきてくださいませ。まだまだ我々とお話したいと思いますので」

「ああ、元魔王様の話が出来たこと嬉しかった。息災でな」


 美しいモモとの別れは寂しいが、またいつか会えるだろう。


「あなたも、魔王様の護衛ならまた会うことでしょう。次は負けませんよ」

「ふん、俺はもっと強くなる。お前じゃ勝てなくなるさ」

「私は負けません」


 どうやらモモとフェルはライバル関係になったようだ。オーガ族との別れを惜しみながら、国境である小川の橋を渡れば、獣人の使節団が出迎えてくれる。


「魔王様、よくぞお出で下さいました」

 

 使節団を代表して黒い豹の獣人が前に出る。


「ああ、ここからは王都コロッセオまでの案内を頼んだ」

「はい。獣人王国騎士団長クロイセンが、問題なく安全な道のりをご提供いたします」


 クロイセンは片膝を突いて名乗りながら力強く頷いた。使節団が用意してくれた馬車は大きく、全員が乗ることができので、俺も獣人の子供たちと同じ用荷馬車に乗ろうとして呼び止められる。


「申し訳ありません。魔王様はこちらへ」

 

 案内された先にはオーガ族が用意した者よりも一回り大きな馬車であり、乗り込めばベッドが置けそうなほどの広さを誇っていた。


「最新鋭の馬車です」


 外は頑丈、中はゆったりとした空間をしている。どうやら要人警護用の馬車ということらしい。


「ああ、道中は頼んだ」


 俺は何か言うことなく馬車へと乗り込み。フェルも俺と同じように乗り込んだ。


「小僧はあちらへ乗れ」 

「小僧じゃない。魔王様の護衛だ」

「護衛はこれから我に代わる」


 どうやら馬車の外で、フェルとクロイセンがもめているようだ。俺は溜息を吐きながら顔を出す。


「フェルは俺が信を置いている護衛だ。共に乗らせてくれ」

「魔王様がそう言われるのであれば」


 クロイセンは俺の言葉を聞いて渋々引き下がった。馬車が走り出せば、これまで乗ったどの馬車よりも揺れは少なく優雅な気分で旅が出来る馬車だった。

 しかし、優雅な気分は俺には向かないモノなのだろう。無粋な集団が使節団を取り囲んでいた。


「魔王一行だな。この場でその命もらい受ける」


 どうやら狙いは俺のようだ。数はそれだけで暴力となる。現れたのは組織された獣人の軍隊だった。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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