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ゴーリキ

 それから五日ほどは募集者たち全員の書類作成に追われることになる。半分以上の者たちは字を書くことができなかったので書ける者に協力してもらい、何とか全ての書類をまとめ上げることができた。


「さすがに一万枚の書類は大変だったな」

「はい。数日分の仕事をまとめてした気分です」


 シェリーが疲れた声を出すが、城に勤めるメイドや執事たちにも、手伝ってもらったのでこれでも短縮できたほうだ。


「だが、本番はここからだ。書類の一番上の者から基準値に達しているか見ていくぞ」


 さらにそこから十日かけて書類選考を行い、三百名まで人員を絞り込む。さらに五十人づつに分けて六日かけて面接を行っていった。

 面接官は俺を含めた。執事長のセバス。秘書長のエリカ。メイド長のハウス。


 メイド長のハウスは、元々ノーマルで幽霊として生まれ変わった妖怪族なのだ。ノーマル族らしい欲が削ぎ落され、代わりに元々備わっていた厳格な性格と規律を重んじる礼儀正しさから、メイド長まで登りつめた女性なのだ。


「これで最後の面接です」


 シェリーが面接会場の扉を開く。最後の面接相手である獣人が部屋へと入ってきた。入ってきたのは、獣人区域でノーマルに場所代を支払えと言っていたゴリラがいた。


「マウンテン族のゴーリキだ。俺は獣人の顔役をしている。今回は魔王の下で働くうえで伝えておきたいことがある。獣人は今、過激派と穏健派で対立している。俺はあんたを知っていた。だから、あんたの下に付くことで穏健派の者たちを守ってやりたい」


 ゴーリキは仮面をつけていた俺を魔王と調べたのだろう。俺に拳を突き出し、熱弁を語った。


「どうか、頼む。獣人を守ってくれ」


 そして、最後にゴーリキは魔王に向けて頭を下げた。


「まずはメ、あなたは間違ってますメ」


 まず口を開いたのは羊の顔をしたセバスだった。燕尾服の襟を正したセバスは、ゴーリキの熱弁に対して否定から入った。


「魔王様は共に働く者を求めておられるのですメ。獣人を救うたメにこの場を開いたわけではありませんメ。さらに、過激派や穏健派など、笑わせないでいただきたいですメ。あなた方は元々争いを好む人たちですメ。そんな畏まった言葉を使わなくても常に争っておられるではありませんメ」


 セバスも悪魔族であり、獣人への反発心を持っているのだろう。言葉がかなりきつくなる。


「グゥー」


 ゴーリキもセバスが言うことが事実だと分かっているから、反論せずにセバスを睨みつけながら唸るばかりだ。さらに追い打ちをかけるようにハウスが口を開いた。


「人に助けを求めるのであれば、身なりや口調など、それに相応しい行動や言葉遣いを学ぶべきですね。何より、自分は助けるに足る人物であることを証明できないのであれば、あなたを助けることもできません。もしもあなたがご悪人ならば、魔王様が悪党を助けたことになります。あなたという人物を分かってもらう努力をしなさい。それから意見や主張だけを述べるならばよし。自分の言いたいことを言いだすだけならば、あなたはバカです」


 セバスとは違う論点からハウスに切り捨てられて、ゴーリキは唸ることもやめて項垂れた。


「それで?お前は何ができる?」


 俺は二人と違って助け船を出してやる。これはあくまで面接会場なのだ。書類選考を行い。基準値に達していたからこそ、このゴリラはこの場にいるのだ。


「けっ計算、交渉、文字が書ける。それ以外の雑用も言われればある程度はできる自信がある」


 このゴリラは見た目に反して、教養を身に着けている。計算や文字などは誰かに習わなければ書くことができない。両方ができるというのは貴重な存在なのだ。

 その点もこれからの課題に挙がって来るだろうが、今回はどちらかが出来る者を書類で選んだ。字がかけなくても計算ができるなら面接するということだ。


「ふむ。それで?自分を売り込むポイントは?」

「売り込む?」

「そうだ。ここは面接会場。そう、ここは自分を売り込み。雇ってもらう場所だ」


 状況をわかっていないゴリラに、俺はもう一度丁寧に説明を繰り返した。


「どうする?やめるか?それとも続けるか?」

「雇ってもらえたら、俺たちを救ってくれるのか?」

「それはお前次第だ」

「あんた!いや、魔王様。俺を雇ってください。過激派はおかしな宗教に騙されているだけなんだ。元々は気のいい奴らだった。確かに俺たちは強い奴に従う主義だが、気に入らない奴には従わない」


 ゴーリキは両手をついて俺に頭を下げた。


「だが、魔王様はノーマルを救っていた。魔王様なら、俺たちも救ってくれんじゃねぇかと思った。だから、どうか頼む。俺たちを救ってくれ。俺を、どうこき使ってくれても構わない」


 先ほどまでの横柄な態度を改め、ゴーリキは不慣れな敬語を使って、自らのことよりも仲間を想う気持ちで、俺を真っ直ぐに見つめてきた。


 本来なら、こいつは獣人の中でも強者に分類されるのだろう。だが、プライドを捨てて他者に頼ろうとしている。


「私は反対ですメ。彼らは本能のせいで、裏切ることも裏切っていると思っておりませんメ。そんな感情で動くものたちは信用できませんメ」


 セバスが反対を口にする。しかし、ハウスは先ほどまでの打って変わった言葉を発した。


「態度を改め、自らの間違いに気づいた者は救うに値します。魔王様の采配にお任せしますが、私は彼を救う対象だと判断します」


 セバスとハウスが意見を終わったところで、俺はエリカを見る。悪魔族である彼女の意見を聞きたいと思った。


「エリカも反対かい?」


 エリカは目を瞑っていたが、俺に声をかけれて、ゴーリキに視線を送ってから俺を見る。


「個人的には反対です。ですが、以前魔王様が言われてた。どんな人材であれ受け入れるという言葉を借りるのであれば、彼を試してみる価値はあると判断します」


 エリカは意外にも賛成を口にした。


「そうか。なら、決定だな。賛成3、反対1により。ゴーリキ、お前は採用だ」

「えっ?おっ俺を雇うってことは助けてくれるのか?」

「俺が力を貸すだけだ。助かりたければ自らで動け。差し当たって、お前が言っている宗教の全容と過激派たちの情報を書類でまとめて提出しろ。それがお前の初仕事だ」

「あっありがとうございます!魔王様のために誠心誠意務めさせて頂きます」


 ゴーリキは深々と頭を下げてから胸を叩きながら喜んだ。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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