イッタンモメンとヤマビコ
驚いていた二人にスキルの使い方を説明する。すると、二人は緊張した面持ちになり、不安そうな顔をする。
「本当に大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だ?二人は自分たちのスキルを信じてくれればいい。後は俺次第だからな」
俺の言葉に二人は不安そうな顔から、魔王の言うことならばと覚悟を決めてくれた。そして、俺はイッタンモメンに乗り込み、ヤマビコへと手を差し出す。
イッタンモメンのスキルは浮遊と風操作。風魔法と違い。彼の身体は少ない風でも空を舞うことができる。
そのため浮遊させた体に二人で乗り込み、風の力で舞い上がる。空から大勢の人を見下ろせば、城の前にある広場には種族を問わず様々な人間が集まっていた。
「ヤマビコ、いくよ」
「はいです」
「イッタンモメン、頼んだぞ」
「はいな」
二人に声をかける。そして、俺は大勢に話しかけるようにヤマビコへ向いて、ゆっくりと話し始めた。俺の発した言葉を拡張させて反射させていく。
「此度は集まってくれたこと心より感謝する。我こそが新たに魔王となったベルハザードだ」
俺の声がヤマビコによって広場へと伝わっていく。さらに、イッタンモメンの上で立ち上がり覇王滅殺波を天空へと放てば薄暗くなっていた空が明るくなる。
注目を集めるのに十分な効果があったようだ。大勢の視線が俺に注がれ、俺はゆっくりと語りかけた。
「皆に問う。この世界は好きか?」
「うおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」
「なら、俺と共に世界を守るため働いてほしい。希望者は自分の名前、年齢、性別、住所、職業、できる仕事を書いて提出してもらいたい。自分で字が書けない者はこちらで代筆させる。書ける者は記入用紙を用意するからしばらく待っていてほしい。住所のない者や性別にとらわれない者は未記入でも認める」
俺は必要なことを伝え。広場に集まる者たち向けて手を上げる。
「ただ、どうしても審査には数日の時間がかかる。それでもいいと言う者だけ残ってくれ」
俺の数日という言葉に、広場に集まっていた三割ほどが帰ってしまった。どうやら急ぎ雇って欲しい者たちがいたようだ。それでも一万人近い人々が広場に残ってくれている。
「ここに残った者たちは待ってでも俺と共に働いてくれる者たちだな。なら、先ほど言った用紙を用意する。もうしばらく待ってくれ」
俺はイッタンモメンに頼んで城の中へと戻っていった。
「エリカ、ジェシー。聞いた通りだ。用紙の用意と代筆できる者を急いで用意してくれ」
「かしこまりました」
エリカが頭を下げて、ジェシーもエリカに従うように頭を下げる。
「当分は人材採用に追われる。この間のような獣人区域の火事みたいな大きな事件がない限りは後回しにしてくれ」
「承知しました」
「二人もご苦労だった」
俺は放心状態であるヤマビコとイッタンモメンに労いの言葉をかけた。
「あっいえ、あんなに大勢の前に出るなど考えていなかったので、緊張しました。でも、貴重な体験をさせてもらいました」
ヤマビコが俺に頭を下げてくる。
「何を言ってるんだ?これからも大勢の前で話すことは多くなるぞ。お前のスキルは役に立つ。自覚してれ。こういう大勢を前にしたときヤマビコには常に俺の傍で拡張を使ってもらいたい」
「えっ?これからもですか?」
「そうだ。頼んだぞ」
「はっはい。微力ながら」
ヤマビコは半信半疑というよりも戸惑いがまだまだ抜けないらしく。困った表情をしていた。
「イッタンモメンもだ。普段の仕事もあるだろうが、俺が近くの移動をしたいときイッタンモメンに協力してもうこともあるだろう。そのときは頼んだぞ」
「有難いお言葉」
イッタンモメンは嬉しそうな声で返事をしてくれた。
「まずは、二人もエリカとジェシーに協力してやってくれないか?二人のスキルがあれば、大勢いる人間達にも言葉が届きやすいだろう」
「「かしこまりました」」
二人が片膝を突いて礼を尽くしたので、俺は片手を上げてその場を離れた。
俺が去った後、二人の妖怪族は涙を流して喜んでいたと後でエリカさんから聞かされた。
「まっ魔王様に、あんなにお褒め頂くなんて思ってなかっただ。私嬉しいだ」
少し訛った口調で涙ぐんだヤマビコに、イッタンモメンも、ヤマビコと同じような態度になったらしい。
「ワシとて、掃除しか能のない奴だってバカにされていた。ワシをこんな晴れ舞台に出させていただけるなど。魔王様のためならばどんなことでも致しますぞ」
妖怪族は八百万と呼ばれるほど、様々な種族が存在する。そのため同じような種族は少なく。個々で存在しているため、族として何かを意見することない。それぞれが勝手気ままに生きているのだ。そのため領地はあるが、力のあるものが支配して、それ以外の者たちは虐げられていることが多い。
ヤマビコやイッタンモメンは魔王城で働いているが、個々の存在である彼らに高い地位が与えられているということは少ない。
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