方針
この世界の話を聞いても、吐き気しか湧いてこない。なんだよ精霊族って、なんだよ魔族って。結局戦争して滅んだってことだろ。ヤバすぎだろ。
ノーマルって、結局人間のことだろ?人間が世界を滅ぼそうとして、結局魔族に滅ぼされたって話だろ。そんなの自業自得じゃねぇか。俺に関係ねぇだろ。
ハァー、なんで俺が召喚されんだよ。勇者はマサキだろ。だったらマサキだけ召喚してろって話だ。巻き込まれ召喚とか終わってるだろ。
だいたい、他の奴はチート能力を手に入れたみたいなのに、どうして俺にはないんだよ。俺の職業、バイトリーダーだぞ。なんで、ここだけ現実的なんだよ。もっとファンタジー的な職業あっただろ。この職業で、どうやって戦うんだよ。これのどこがチートなんだっての。
マサキが持ってるスキルとか、俺よりも強力な奴ばっかだし。マサキがもってなくて俺がもってるのなんか、器用貧乏と腰巾着、後は小心者だろ。どれが戦闘に使えるっていうんだ。
「どうかしたのか、ミツナリ?」
考え事をしていたら、目の前にマサキがいやがった。勇者様はお気楽でようござんすね。俺は生き抜くためにどうすればいいのか考えをまとめてるんですよ。
「別になんでもねぇよ」
俺は絶対生き残ってあの快適な世界に帰ってみせる。
「そっか。体調とか悪いなら言えよ。トシもだぞ」
「おう」
「フルヤが騒ぎだしたときはどうなるかと思ったな。でも、なんとか上手くいってよかったよ。これでMー109さんを救えるぞ。よかったよかった」
マサキはいつもこうだ。自分が正しいと思ったことに一直線に向かっていく。周りの迷惑も考えない行動が上手くいくのは主人公だからだろ。俺は中学からの付き合いだ。こいつは、昔から天然モテモテキャラだった。
悪い奴ではない。だが、正直うざい。巻き込まれる身としては勘弁してほしい。俺としては親父が引いてくれたレールを順風満帆に歩んでいられたら幸せだったのだ。人生楽して生きていく。それが俺のモットーなのだ。
「そうだな。よかったな」
棒読みで返事をすれば、マサキは満足したようにハーヴィーの下へと歩いて行く。ハーヴィーの美しさは別格なのだ。あれほどの美の集大成を自分の彼女にできるとはさすがに思っていない。だが、自分が可愛いと思える彼女をゲットしたい。
隣にいるトシに視線を向ける。トシは普段から無口な男だ。マサキや俺とは話をするが、あまり多くを語らない。サムライみたいな男だ。
他のクラスメイトに視線を向ければ、M-109に同情的な雰囲気になっていやがる。ハァー、フルヤよ。もっと頑張れよ。
主人公キャラであるマサキに一度ぐらいザマァーと言ってやりたい。
「また難しい顔をしてるぞ」
いつの間に戻ってきたのか、またも目の前にマサキが立っていた。
「なんでもねぇよ」
「そっか。それで、ミツナリはどんなスキルなんだ」
おうおう、拷問タイムの始まりですか?おめぇ見たいにスゲースキルなんて持ってねぇよ。お前が最強だよ。それでも聞いちゃう?お前ってデリカシーねぇよな。
「俺は、経験値二倍と言語理解だな」
「そうか」
おいおい、明らかにガッカリした顔してんじゃねぇよ。個人スキルは絶対に言わねぇからな。
「トシはどうなんだ?」
「……スキルオープン。経験値三倍、言語理解、刀剣術、古武術、肉体強化だ」
「おお、なんか強そうだな」
トシは穏やかな笑顔でマサキに笑いかけている。まぁそうだろうな。こいつの実家は道場をしている。トシ自体も鍛えられた体をしているから道場で鍛錬でもしているんだろう。
「二人とも、職業はなんなんだ?」
職業聞いたら引くぞ。いいのか?おい。
「俺はサムライだ」
トシよ。お前どうして俺より先に言うんだ。しかも、お前の職業まんまかよ。
「俺はバイトリーダーだ」
「はっ?」「だから、バイトリーダーだ」
さすがのマサキも、俺の返答にはどうかしていいのかわからんかったらしい。
「聞いたことはない職業ですね。ですが、商人系だと思いますので戦闘には向きません」
通りかかったM-109が、冷静に言葉を返した。悪気はないのだろう。ただ、明らかにマサキの雰囲気が変わった。
「まぁ、なんだ。そういうこともあるさ。気を落とすなよ」
明らかに残念な奴を相手にするように話しかけてくる。離れていかないのは、マサキなりの優しさなのだろう。
「俺は気にしてないさ。戦闘はマサキに任せる」
マサキは落ち込んだ雰囲気を吹き飛ばすように胸を叩いた。
「おう、まかせとけ」
どこからそんな自信が来るのか、マサキは「守ってやるからな」とか言ってやがる。本当にお前が守るのはハーヴィーだろ。俺の守られ順位など何番目なのかわかったもんじゃない。だが、この世界でこいつほど強い奴も今のところいない。だったら俺はスキルの通り、お前の腰巾着でいてやるよ。
「Mー109さん……うーん。言いにくいな。あっそうだ。皆聞いてくれ。いつまでもM-109さんって呼ぶのも呼びにくいから、みんなで名前をつけてあげないか?」
マサキの提案にすぐに手を上げたのはハーヴィーだった。
「賛成。やっぱりシンタロウ、優しい」
マサキをべた褒めしているハーヴィーの横で、数名の女子たちが頷いている。俺は溜息を吐きながらその場を離れた。正直Mー109の名前がどうなろうがどうでもいい。そんなことよりも自分のスキルを把握する方が先決だろ。
「イマリなんてどうかな?」
話し合いの結果が出たようだ。結局マサキが名付けたイマリ、109をもじった名前を本人が気に入ったようだ。話し合いに参加?なぜする必要があるんだ。俺は自分検証に入らせてもらうがな。
「ミツナリ、これからのことを話し合うぞ」
「おうよ」
自分検証するって?腰巾着舐めんなよ。強い者には巻かれろってね。反論なんてしませんよ。小心者ですから。
「だいたいこの世界の状況はわかった。これからどうするのか具体的に話し合おう」
M-109ことイマリの名前決めが終わると、委員長とマサキを中心とした円ができた。円はクラス全員が含まれており、フルヤやニイミもマサキから遠い位置で座っている。
マサキ達異世界救うの賛成派、フルヤたち自由行動派に分かれた形だ。同じ意見の者たちで固まったってところだろう。
「まずは要点をまとめさせていただきます」
このクラスは進学クラスだけあって、全員がそれなりに頭がいい。子供の頃から大人になったときの生き方を学んでいるのだ。
異世界に召喚されたからと言って取り乱すことはない。こういう突発的な出来事が起きても冷静でいられるように教育されている。何よりも、ここで取り乱しても仕方ないと全員分かっているのだ。だからこそ、理論的な話し合いに応じる者が多い。
1、この異世界は滅びに向かっている。
2、救う方法は世界樹に聖水を与えること。
3、世界樹には強力な魔族がおり、外敵を排除しているので、これを撃退しなければ世界樹を救えない。
「ここまでが、この世界の問題です。そしてここからは私たちの問題点です」
1、世界樹に向かうまでの食料や水の確保。
2、この世界で生きていくための、生活基盤の安定。
3、自分たちの職業と能力の把握。
委員長は、この世界と自分たちの要点をまとめて課題として挙げた。それはこれから俺たちが取り組まなければならない問題として全員に提示された。そこからは自分たちで何をするのか考えなければならない。
「この世界を救うとイマリと約束した。だから、魔族を倒して世界樹に聖水を届ける」
真っ先に意見を述べたのは、もちろんマサキだ。賛同するハーヴィーやトシなどが頷いている。
「君ならそういうだろうね。僕もそれには反対しないよ。でも、僕たちは世界樹の場所を聞いたら、自分たちのやり方で、この世界を攻略したい」
マサキの言葉に対抗するように意見を述べたのはニイミだった。ニイミに賛同するのは魔族と戦うのが怖いものや、どうして自分たちが戦うのか疑問に思っている反対派だ。その中にはフルヤも含まれている。
「何もわからない世界で別々に行動するのは危険では?」
ニイミに反論したのは中立派として、この話し合いの進行を任されている委員長だった。
「委員長の意見はもっともだね。もちろん、ある程度の生活基盤を作るまでは留まるよ。でも、拠点が出来れば自由行動。それでいいんじゃないかな?」
生活基盤の安定を口にすることで、ニイミは双方の折り合いを付けようとしているようだ。
「俺はすぐにでも世界樹に行きたい」
ニイミの提案に対して、マサキは納得できないようで旅立つを口にする。マサキの意見に応えたのはイマリだった。
「この世界が滅びるまでのタイムリミットは約三年です。三年を過ぎれば、世界樹は全ての生命力を使い果たします。そうすれば、聖水をかけても生き返ることはないと推測されます。急ぐことは大切ですが、急ぎ過ぎて失敗するくらいならばちゃんと考えた方がいいと思います」
イマリは正確な期限を口にした。そうすることで、ニイミの意見も考える余地があるとマサキに告げているのだ。
「わかった。拠点を早く作ってすぐに魔族を倒しに行こう」
最初の意見に拠点を作ることを加えたマサキが言葉を発したことで、話は一区切りがついた。
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