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決意

 大きな樽を肩に担いだ俺は西にある山を登り、世界樹が見える丘を目指した。山は緩やかなもので、魔王から得られた力のお陰で苦もなく登ることができた。

 この世界を愛した魔王ベルハザードの爺さんが喜びそうな、世界樹と街を見下ろせる綺麗な場所に一本の木が植えられていた。


「ベルハザードの木か、粋なことをするな。リリス師匠かな?あの人、ツンデレっぽいからな」


 俺は木に刻まれている文字を読んで、口元に笑みがこぼれる。


「ベルハザードの爺さん。俺は蘇ったよ。ありがとう」


 俺は深々と頭を下げて数秒固まっていた。顔を上げた俺は樽からワインを注ぐ。木の前にグラスを一つ置いて、もう一つを自分で持って高く掲げる。


「爺さんが命を与えてくれたお陰だ。乾杯」


 置いたグラスに自分のグラスを当ててから、一気にワインを飲み干した。金貨数枚払ったワインは苦くて酸っぱかった。


「キクー。これが本当の、ワインの味なのかな?それならちょっと苦手だ」


 俺は初めて飲んだワインよりも。ドワーフ達と飲んだ火酒の方が飲みやすかった。


「どうせならさ。爺さんとも生きている内に飲めばよかったよ。なぁ、爺さん。どうして俺なんか生き返らせたんだ?俺はさ。臆病で人の言うことにすぐに流されて、正直爺さんにウソもついてる。

 この世界に来た時、爺さんに会う前に機械族に会ってたんだ。先に会ってたイマリと戦った時だって、本当は調子に乗ってただけなんだぜ。

 おっ、俺やれんじゃねって、調子乗ってたら逃げるタイミング逃して、死んじまった」


 俺はもう一度ワインを一気に飲み干す。


「爺さんごめん。ごめんな。俺がヘマやったから爺さんを死なせちまった。本当にごめん」


 溢れてくるものを止められなくて拭っても全然止まらなくて、それでも伝えなくちゃならない。


「俺さ。爺さんが守ってきたこの世界を、爺さんの代わりに守るよ。機械族のイマリは倒せた。

 だけど、それで終わりじゃない。異世界から召喚された奴らはみんなチートなんだってさ。そいつらは自分の能力の使い方を理解して、強くなったらイマリ以上に厄介な奴になる……世界樹のジュリさんを奪いに来るかもしれない」


 一瞬マサキやトシの顔が浮かんだ。イマリを倒したことで、あいつらにも恨まれるだろうな。でも、もう決めたんだ。


「俺は魔王になるよ。魔王が世界を守るって変な感じだけどさ。爺さんはそうしてきたんだもんな。

 魔王って言われても、この世界のために戦ってきたんだろ。だから安心して眠っててくれよ。俺が後を継ぐから、ゆっくりと休んでくれ。

 間違ってもゾンビやモンスターになるなよ。爺さんをもう一度殺すなんて悲しすぎるからさ」


 俺は三杯目のワインを飲み干した。やっと涙が止まり、大量に残ったワインが樽の中に残った。


「最後のワインだ。いっぱい飲んでくれ」


 俺は樽を持ち上げて木の周りにワインを撒いた。爺さんが浴びるほどワインが飲めるように全部ぶちまけた。


「また来るよ、爺さん。今度はもっと美味しい酒を持ってくるからな。ドワーフ達の火酒は上手かったんだ。爺さんにも飲ませてやりたいんだ」


 俺は最後に流れた一筋を拭って、木に背を向けた。


「魔王様」


 振り返ると、そこにはエリカさんが立っていた。


「聞いてたの?」

「いえ、お婆様から決して会話を聞いてはいけないと言われました。ただ、魔王様に何かあってはいけないと警護のために参りました」


 エリカさんはどこか申し訳なさそうにしていた。そりゃ仕方ない。泣いてるところを見られちゃったからね。


「そっか、心配かけちゃったね。ごめん」

「いえ、大丈夫ですか?」

「ああ、もう大丈夫だよ。これから忙しくなるね。手伝ってくれるかい?」

「もちろんです」

「ありがとう」


 俺はエリカさんを見て笑いかける。不思議なことに、自然に笑いかけることができた。今までぎこちなくしか人に接することがしかできなかったのに不思議だ。


「魔王様、一つよろしいでしょうか?」

「うん?なんだい?」

「今までの魔王様はどこか余所余所しく、距離を置かれているようでした。ですが、今の魔王様はフレンドリーでとても好感が持てます」

「えっ、あはは。そうかな?ありがとう」

「それと、初めてお顔を拝見しましたが、カッコいいのですね」


 エリカさんは恥ずかしそうにカッコいいと告げてくれる。これには俺も照れてしまう。そんなに面と向かってカッコいいなど言われたことがない。

 

「ありがとう。エリカさんはスッゴイ美人だよ」


 だから、軽口で誤魔化してしまう。


「ありがとうございます」


 エリカさんは言われ慣れているのか、少しハニカムだけだった。それもエリカさんらしくて、俺は自分の情けなさにもう一度自分自身を笑ってしまう。

 そして、もう一度ベルハザードの木を振り返る。


「ありがとうございました!」


 深々と頭を下げながら大きな声で礼を告げた。これは俺とベルハザードの爺さんとの約束であり、俺自身の決断だ。


いつも読んで頂きありがとうございます。


一章完結となります。もう一話間話を挟んで完結です。


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