VS 勇者パーティー
約束した通り、俺はハーヴィーを亜種族領へ連れていくため、漆黒の鎧さんを纏いトキトバシの間へとやってきた。
「魔王様、お出かけですかい?」
「ああ、この女を亜種族領へ送り届ける」
トキトバシが俺の後ろにいる踊り子の衣装を着たハーヴィーを見る。
「めんこい女子じゃのう」
「トキトバシにもそういう感情があるのか?」
「めんこいもんはめんこい。それだけじゃ」
トキトバシが照れたように顔を背ける。
「奴らの動きは掴んでいるか?」
「逐一報告は上がっとるよ」
「なら、頼む」
「あいよ」
トキトバシの声が遠くに聞こえていくと、景色は森の中へと移り変わる。
「どうやら、着いたみたいだな。この近くにお前の仲間がいるはずだ」
「本当に送ってくださるのですね」
「お前はすでに私の支配下だ。スキルの使用はモンスターのみ。人に使うことは許さない。これからお前たちが何を成すのか。見させてもらおう」
ハーヴィーはベールを脱いで素顔を晒す。その表情はどこか悲しそうに、そして何かを言いたそうな顔をしていた。
「行くがいい。仲間がいるのだろう」
「……ありがとうございました」
ハーヴィーは言いかけた言葉を飲み込み頭を下げようとした。だが、ハーヴィーの行動を遮るように叫び声が辺りを包み込む。
「魔王ーーー!!!」
どこから飛んできたのか、マサキが剣を振り上げ襲い掛かってきた。上空に視線を向ける中で、ハーヴィーの姿が消えている。代わりに身を低くして刀を構える男がいた。
「ふっ。随分と連携が取れるようになったじゃないか」
誰にも聞こえない呟きが自然に漏れてしまう。彼らは彼らで、この数週間死に物狂いで戦うことを学んだできたのだろう。
「魔王」
そんなに呼ぶなよ。お前が彼女を取り返したいのも、囮になっていることもわかってるよ。
「よくも、ハーヴィーを連れ去ったな」
マサキが俺に向かって剣を振り下ろす。次いでトシが刀を横に薙ぐ。二人の攻撃は交差するように綺麗な線を描き空を切る。
移動した先にはツバサが放ったクナイが飛んできた。クナイを弾くと今度は極大の火の玉が視界を埋め尽くす。
「本当に戦い慣れたようだな」
彼らはパーティーとして連携を取っている。反射すれば彼らを殺しかねない。漆黒の鎧さんの力で無効化させる。
「えっ!魔法が消えた」
メグの驚いた声が聞こえてくる。漆黒の鎧さんは最強だぜ。
「充電完了。主砲発射」
そうだった、お前がいたな。魔力を固めた覇王滅殺波と同じ原理で打ち出されたエネルギーは、さすがの漆黒の鎧さんも傷ついてしまう。
イマリの攻撃を劣化版覇王滅殺波で受け止めながら身をかわす。威力を減退させたが、それでも、山が一つ吹き飛んだ。
「あれを避けるのかよ」
マサキが驚くのも無理はない。広範囲に放たれたエネルギーは、本当の魔王様が放ったモノと遜色ない威力が込められていた。
俺も劣化版覇王滅殺波がなければ避けられなかったよ。
「貴様らの力はそんなものか?」
俺は悪役を演じてやるよ。お前たちは生き残るために強くなれ。
「ウオォォォォ」
マサキが雄叫びを上げて、剣を振り回す。ただ振り回しているだけなのに、剣を振るたびに鋭さが増していく。
さらにトシがマサキの死角を埋めるように俺の死角になる場所から切りつけてくる。漆黒の鎧さんがなければ、俺は確実に死んでいる。
「調子になるなよ」
二人を振り払い。マサキに拳を振り下ろす。
「シン君を傷つけないで!」
シズカの叫びと共に透明なバリアがマサキの前に現れる。俺の拳はバリアに防がれた。
「こんなものが何になる」
漆黒の鎧さんの無効化でバリアを消して、追撃を仕掛けるが、一瞬でマサキは距離をひらいていた。
「ありがとう、シズカ。あれを喰らってたらヤバかった」
おいおい。ただのパンチだぞ。何がヤバいんだよ。多少骨が折れて痛いだけだ。その綺麗な顔を一発殴らせろよ。そうしたら帰ってやるから。俺をドキドキさせたハーヴィーをお前の下に返してやるって。だから一発殴らせろ。
「うん。シン君は私が守るからね」
「皆さん体力を回復してください」
白い光が全員を包み込む。効果範囲に俺もいるけどな。回復魔法は難しいだろうけどちゃんとやれよ。あとなマサキ、ヒーラーは守れよ。
「小賢しい魔法だ」
俺は瞬間移動でアイの前に移動する。別に危害を食わるつもりはない。ただ、邪魔なのでちょっと退場してもらうだけだ。
「消えろ」
アイを瞬間移動で、ドワーフの街へと移動させる。これで戻って来ることはないだろう。
「アイちゃん!よくもアイちゃんを許さないぞ」
おいおい、生きてるって。まぁこいつらにはわからなんだろうけどな。アイの隣にいたメグが何かを唱え始める。
「遅い」
唱える終える前にメグもアイと同じ場所に飛ばしていおく。さらに、サキが近くにいたのでついでに飛ばしておいた。
「やめろ。やめてくれ」
「お前は誰も守れない」
マサキの剣を避けて、今度はマサキの後ろに控えているトシに触れる。
「お前が厄介だ」
さらにその後ろで守りを固めていたシズカも飛ばす。シズカはマサキに助けを求めるように手を伸ばしいたが間に合わない。残ったのはマサキとツバサ、イマリとハーヴィーだけだ。
「みっみんなを」
マサキの瞳には大粒の涙が溢れ出す。お前のそんな顔が見れて幸福だよ。
「言っただろ。お前は誰も守れない」
ツバサとハーヴィーが姿を消した。ツバサはハーヴィーを守るように、ハーヴィーはじっと俺を見ていた。
「残り二人だな」
「ハーヴィー、アイちゃん、クロハナさん、シズカ、シノノメさん、トシ、メグ」
狂ったように仲間の名前を呼ぶマサキに俺は近づいていく。
「最後だ」
マサキが剣を振り上げたが、それを躱してマサキを吹き飛ばす。
「やっとお前と二人きりになれたな。機械族よ」
先ほどからイマリは、俺へ攻撃をしてこない。マサキたちが飛ばされる間、ずっと目を閉じていたのだ。
「充電完了しました。今から究極戦闘モードに移行します」
全身を兵器へと変貌させたイマリが俺を見下ろしていた。
「ロボットかよ」
そこには十メートルを超える巨大な兵器が立っていた。




