罪と罰 1
隷従のジャッジメントは、本当の魔王が使えば相手を完全に従わせることができるスキルだ。
俺が初めて使ったときは赤ん坊ジャッジメントしか出てこなかった。赤ん坊ジャッジメントは一つだけ言うことを聞かせられるということだった。
だが、今は青年ジャッジメントへと成長したならば、どこまで従わせられるのか。
「今からやるゲームは、罪と罰ゲームだ。自分の罪を告白して、相手に本当かウソか当てさせるゲームだ。当てれば相手に罰を与えられる。答えを間違っても罰はない。最終的に当てた回数が多い方が勝ちだ。理解したか?」
説明を終えて顔を見れば、怒っているのか不機嫌そうな顔をしている。
「どうして私がそんなことしないといけないわけ?」
そうか、お前はこんな状況になってもまだ自分が置かれている立場がわからないのか。いいだろう。教えてやるよお嬢様。
「状況がわからないのか?」
俺は自分にできる最大限のドスが聞いた低い声でお嬢様に問いかける。威圧度合いも魔王補正やら世界樹の加護やらで随分と威力があるはずだ。
「ひっ」
あら?思ったよりも効き目があったらしい。我儘なハーヴィーお嬢様にしては珍しく俺のことを怖がっているようだ。
まぁ暴れたとしても、この空間では俺以外の人間がスキルを使うことはできないがな。
「お前は魔王の前で捕虜となっている身分だ。それは分かるな?」
「はい」
「これはお前への慈悲だ。受けないのであれば、その時点でお前の負けであり、お前は絶対服従を誓うことになる」
「まって、待ってください。やります」
ハーヴィーは慌てて承諾の宣言をする。
「なら、始まりだ。ここからジャッジメントが司会を行う」
ずっと黙して待っていたジャッジメントが目を開き、二人をゆっくりと見た。
「両者の同意が得られましたので、ゲームを開始したいと思います。ゲーム名は罪と罰ゲーム。交互に自分の過去に侵した罪について語っていただきます。ただし、それが本当なのか、ウソなのか当てるゲームです。嘘か本当かの判断はこの空間にいる間、私には分かるようになっています」
ゲーム説明を終えたジャッジメントがもう一度二人を見る。
「ゲームを開始するうえで、先攻後攻を決めたいと思います。方法はどうされますか?」
「貴様に権利をやろう。どちらがいい?」
ハーヴィーに決めさせるように促す。
「じゃ、じゃあ後攻で」
ドモリながらも、ハッキリと後攻を宣言する。彼女なりにゲームがわからないから先攻を選ぶことはないだろう。
「いいだろう。ならば、俺の罪を語ろう。俺は魔王の二代目として魔王の後を継いだばかりだ。魔王となってからこの鎧を抜いたことがない。つまり、俺の正体は誰も知らない。これが俺の罪だ」
俺が話を終えると、ハーヴィーは困惑した顔になる。それもそうだろう。魔王の二代目という新しい情報。そこに正体を隠しているという罪。それが本当なのか判別できない。
ましてや、俺の顔は兜によって見えないのだ。表情で判断することもできないだろう。
「そっそんなのウソに決まってるわ。魔王の正体も知らずに他の魔族が従うはずがないじゃない」
お前はこの世界に偏見を持ち過ぎだな。
「クロード様、ハズレです。回答権を魔王様に移行します」
「えっ、ハズレ?じゃあ今のは本当のこと?」
ハーヴィーの質問に対して、俺は何も答えない。すでに事実に変わりないのだ。
「クロード様、次はクロード様が罪を告白する番です」
「わっわかってるわよ」
ハーヴィーはイライラしているのか、親指の爪を噛んでいる。
「……罪よね。そうね。なら小さい頃、お父様が大切にしている壺を割ったことがあるわ。それを幼馴染のツバサのせいにしたことがあるのこれでどう」
「一問目ですので、大丈夫です。ですが、次から近況でお願いします」
ジャッジメントにクギを刺され、ハーヴィーは納得できなさそうな顔をする。
お嬢様は俺の正体を知らない。もちろん俺も全てを知っているわけじゃない。それでも、この女が語りそうな罪は、こいつとマサキが話しているときに横でずっと聞かされ続けている。
今の壺の話は嘘だ。どこが嘘かと言えば、罪を擦り付けた相手がツバサではなく、昔飼っていた猫に責任をなすりつけたのだ。
「その話は嘘だな」
「えっ」
俺の答えにハーヴィーは驚いたような顔をする。
「魔王様、正解です」
「どうやら当たったようだな」
「では、罪を当てられたので、ハーヴィー様には罰を受けて頂きます」
「ちょっちょっと待っ」
ジャッジメントの指が鳴れば、ハーヴィーのスカートが消える。
「えっえっ罰って服?ちょっとどういうことよ変態。私が当ててもいいことないじゃない」
「お前はバカなのか?誰も知らない魔王の正体を知る権利を得られるんだぞ。一問目は下半身、二問目に上半身、三問目に顔だ。何よりも俺に勝てば、お前は魔王を従わせることができる権利を得るんだ。それの何に不服がある?」
俺の説明にハーヴィーは納得できない顔をしているが、それでも頭の回るお嬢様は次第に俺の言葉の意味を理解し始める。
「わかったわよ。残り二問。必ず当ててあげるわ」
開き直ったハーヴィーは下着を隠すことなく、指を俺に突きつけてくる。
「見えてるぞ」
「そこは見ないのが礼儀でしょ」
やっぱり我儘なお嬢様だ。
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