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停戦勧告

 宴を止めるほど大きな声を出した侵入者はゴブリン族の青年だった。身長はドワーフと変わらないぐらい小さいが、ドワーフの方が屈強で人間らしい顔をしている。ゴブリンは小さな瘤を額に生やし、痩せた体をしていた。


「見比べると全然違うんだな」


 俺がそんな感想を述べていると、ゴブリンの話を聞いたドワーフ長老の一人が俺の前にやってきた。


「魔王様、火急の知らせのため、宴中に申し訳ありません」


 いやいや、俺が望んだ宴じゃないけどね。まぁ結構楽しんでいたいけど。


「ふむ」

「どうやら、機械族とノーマルがゴブリンの街に入り暴れているようなのです」

「なっ」

「亜種族会としてどうするのか話し合いに行かねばなりません。どうか、魔王様もご参加していただけないでしょうか?」



 おいおい、機械族にノーマルって絶対マサキたちだろ。しかも暴れてるって、あいつらバカか?ゴブリンたちだってこの世界で幸せに生きてるっていうのに。


「いや、俺は現場に向かう。トキトバシ」

「あいよ」

「俺をゴブリンの街へ連れていけ」

「危険です」


 俺の行動を止めるようにエリカさんが腕を掴んできた。悪魔族の力は半端なく強いです。漆黒の鎧さんがなかったら完全に潰れてますって。


「黙れ。我らが同胞が危険に晒されているのだ。黙ってみていられるか」


 俺の一喝にまだ状況を飲み込めていなかったドワーフ達も歌や踊りを止めてこちらを見る。


「もっ申し訳ありません」


 エリカさんは怯えるように俺の腕を離した。あら?漆黒の鎧さん威圧も放てるのかしら?俺そんなに強くないはずなんだけど。


「トキトバシ」

「わっわかっとるよ」


 トキトバシまでどもっている。まぁ今は酒のせいか気が大きくなっているのかもな。俺はトキトバシの力によってゴブリンの街へと飛んだ。


「魔王様、やっぱマジパネェーな」

「ああおかっかねぇ」

「戦場でもあれほどの力見たことねぇぞ」


 ドワーフ達が先ほどの魔王の威圧にコソコソと話をする。ミツナリは気づいていなかった。魔王の補正がどれほど凄いものであり、またスキルを覚えることで自分が強くなっているということに。


「着いたのじゃ」


 トキトバシに着いたと言われて目を開ければ、そこには地獄絵図が広がっていた。街全体を埋め尽くされるゴブリンたち、そして街の中で光るいくつもの閃光。閃光が弾けるたびにゴブリンたちが吹き飛び、数百のゴブリンたちが吹き飛んでいく。


「農業をしながら、楽しく生きている人たちをどうして殺す」


 俺の心には怒りがこみあげていた。漆黒の鎧さんが強気にしてくれているのかもしれない。酒のお陰で勢いがあるのかもしれない。なんだっていい。ゴブリンを助けたい。

 俺が気づけば、目の前にゴブリンキングの背中があった。どうやらトキトバシのスキルを使えるようになったようだ。遠くのどこかにはいけないようだが、近くを一瞬で移動できるようだ。


 目の前にはゴブリンキングにトドメを刺そうとしているハーヴィーの姿が見えた。気づけば、覇王滅殺波を小指サイズまで縮小弱めでハーヴィーの太ももを打ち抜いていた。そして倒れそうになったゴブリンキングに近づいて支える。

 

「キングよ。ゴブリンたちに停戦を伝えよ」

「魔王様!」

「奴らは手を出さなければ攻撃してこない。何よりも、奴らの大切なモノを私が捕まえよう」

「かしこまりました」


 キングは俺の言うことを聞いて、近くにいたゴブリンに向かって戦いを止める合図を出した。マサキたちは何が起きたのか分からないようだ。剣を構えたまま引いていくゴブリンたちに戸惑っているようだ。


「なっなにが起きたんだ?」

「ゴブリン領に紛れ込んだ異分子よ。これだけの同胞をよくも手にかけてくれたな」


 漆黒の鎧さんのお陰で発せられる低く渋い声で、マサキたちに話しかける。俺とバレてはいけない。この戦いを終わらせるために必要なことをするだけだ。俺はハーヴィーをお姫様抱っこして抱き上げる。


「ゴブリンたちは貴様たちを攻撃せぬ。これ以上の戦いは止めよ」

「あなたたちが仕掛けてきたのでは?」


 空を飛ぶイマリが警戒しながらも俺に反論してきた。全てはの元凶はあの機械族だ。あいつの口車にマサキたちも騙されている。だが、今はあの女に構っている場合じゃない。


「ならば、ここで滅ぶか?」


 俺は最大限出せる威圧を含んだ声で、一切の熱も感じられない冷たい声で告げた。ゴブリンたちを圧倒していたマサキたちですら、俺の声に恐怖を感じたようだ。


「退け。これは命令だ」

「ハーヴィー様は返してくれるのか?」


 ハーヴィーのお付きであるツバサが俺に問いかける。


「無理だな。この娘は人質だ。貴様たちに命じる。戦うことを諦めろ」


 俺はできるだけ強気で言葉を発していく。言葉のレパートリーがないのは勘弁してほしい。だが、十分効果があったのか、全員動かなくなった。


「お前が魔王なら、お前を倒して全てを終わらせる」


 唯一マサキだけが俺の言葉に抗って剣を構えて向かってきた。


「お前ならそうするだろうな。お前の動きは読めているがな」


 マサキとはこういう奴だ。正義感に溢れ、良い奴なのだ。だが、今のマサキに負ける気はしない。スキルを使うのは俺の方が上手い。

 片手を上げて覇王滅殺波放った。勇者補正で亡ぶことはないだろう。俺だって同郷を殺したいとは思っていない。吹き飛んだマサキはイマリに抱きとめられたようだ。


「次はない。戦いは終わりだ。命を大切にすることだ」


 俺はそれだけを告げて瞬間移動を使った。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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