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ドワーフ領 後編

 バイエルン爺が走り去ると、エリカが鍛冶場を覗き込む。


「どうかされたのですか?」


 外は風があり、鍛冶場よりも幾分か涼しく感じられる。街から見える高い山は頂上付近が黒くかすんで見えた。


「弟子にしてくれと言われた」

「弟子ですか?魔王様は剣を作るのですか?」

「いや」

「どういうことでしょうか?」


 意味がわからないとエリカが首を傾げている。しばらくすると、バイエルンが数名のドワーフを連れて戻ってきた。


「お待たせしました。師匠」

「師匠はやめてくれ」


 爺に師匠と言われても嬉しくない。


「バイエルン、本当にこの男がそうなのか?鍛冶職人には見えんぞ」

「当たり前だバカたれ。この方は魔王様だぞ。我らが王だ」

「なんじゃと!お前は一言も魔王様なんて言わなかったじゃないか」


 バイエルン以外に現れた四人のドワーフは、魔王と聞いて顔色を変えている。どうやら碌な説明も受けずにつれてこられたらしい。


「それでも貴様らも見たであろう。あれは新しい技術だ。それを知っておられる方だぞ」

「そうじゃった。あの片刃のナイフは見事であった」

「そうじゃな。試し切りもかなりの切れ味で、これまでの刃物の常識を覆しおったわ」

「そうじゃそうじゃ。しかも、刃こぼれもせんし、いい作りじゃたな」


 次々と爺が先ほどの不出来な小太刀を褒め称える。自分的には形も不出来で、切れ味も思った以上に鋭くなかったのに、褒められると照れてしまう。


「師匠。今宵は我らと飲み明かしましょうぞ」


 バイエルンが手を上げれば、樽いっぱいの酒とたくさんの肉を持った。ドワーフたちがやって来る。


「宴じゃ。新たな王は我らと同じ職人じゃ。歓迎の宴を開くぞ」


 四人のドワーフたちは、ドワーフの長老であり、バイエルンは俺を歓迎するために四人を呼びつけたのだ。


「師匠、どうぞ火酒です」

「ふむ」


 いやいや、俺未成年だし。しかもどうやって鎧着て酒飲むんだよ。とか思っていた時間がありましいた。まぁさすが便利な漆黒の鎧様。鎧の口元が開いてお酒が飲めるようになりました。


「くっ」


 火酒と呼ばれる酒はアルコール度数が高く。現代のウォッカに似た味がする。まぁ飲んだことないけど。なんとなくそうどこかの本で書いていたのを思い出した。


「こいつが一番効くじゃろ」


 確かに喉に入れてすぐは喉が焼けるように熱かった。だが、次第に心地よい刺激が喉から胃にかけて迸っていく。酒を飲むのは初めてだが、案外美味い。


「おっ魔王様は行ける口じゃな。なら、どんどんいきなせぇ」


 バイエルンに注がれた酒を煽っていると、ドワーフの女性たちが料理を持って現れた。男性陣がおっさん顔に対して、ドワーフの女性たちは童顔な女性が多い。

 おばちゃんっぽい見た目をしていても、顔を見れば幼い顔立ちをしているのだ。


「今日は魔王様が来てくれた祝いだ。飲んで踊って歌おうぞ」


 ゴブリンからは尊敬の視線を浴び、ドワーフ達からは陽気で男気溢れる歓迎を受けた。

 この世界は戦争が終わってみんな復興のために頑張っている。そして、戦争を終わらせた魔王を本当に好きなんだろう。


「大丈夫ですか?魔王様」


 エリカさんが心配そうに俺を見る。いつの間にか結構な酒を飲んでいたようで、カラになった瓶が転がっている。


「ああ、まだ正気は保ってるよ」

「それならばよいのですが、ドワーフは賑やかで騒がしい者たちです。お気を悪くされていませんか?」

「いいや。むしろ、人に気を遣って何も言えないよりも、ここまでハッキリと掌を返される方が心地いい。そこにはウソや偽りが全くないことがわかるからな」


 俺の言葉にエリカさんが微笑んでいる。酒のせいか、いつも以上にエリカさんが綺麗に見えてしまう。妙な気分になってしまいそうだ。


「お休みになられるのでしたらいつでも言って下さい。ドワーフたちが宴と言えば三日三晩でも続いてしまうので」


 ゴブリン領から続けて視察しているので、三日三晩は勘弁してほしい。だが、この誰にも気を遣わなくていい雰囲気は、今まで俺が味わってきた強者に従うだけの時間を忘れさせてくれる。


「わかっている。だが、しばしこの時間を眺めていたいんだ」

「かしこまりました。ほどほどになさって下さいね」


 エリカは心配そうに俺の後ろに控えている。俺の前ではドワーフ達が杯をぶつけ合い、肩を抱いて歌を歌う。まるで祭りのような光景が繰り広げられている。


「あっあの、お酒のおかわりはいかがでしょうか?」


 緊張した面持ちでドワーフの少女が酒を注ぎにやって来る。少女と言ってもドワーフなのだから、それなりの年齢なのだろう。手つきは慣れているようだ。


「ありがとう。ドワーフの街はいいところだな」

「ありがとうございます。魔王様」


 俺の言葉にドワーフの少女は嬉しそうに笑ってくれる。現代に居れば中学生ぐらいにしか見えない少女も、この場では立派な成人女性なのだ。

 

「なんじゃカガリではないか」

「お爺様」


 どうやらバイエルンの知り合いのようだ。


「師匠、こやつはワシの孫娘でカガリと申しますじゃ。歳は20になろうというのに未だに婿の貰い手もなくてのぅ。どうじゃ?ワシの孫をもらってはくれんか?」

「お爺様何を言っているのよ」

「ガハッハハ。カガリも満更ではないか。どうですかのぅ師匠」

「あっいや」


 俺が返答に困っていると、いつの間にか後ろにいたエリカさんが横にいた。


「魔王様の妻になる方は現在慎重に選定中です。立候補するのであれば、正式な手続きをお願いします」


 えぇー俺の嫁って勝手に決められるの?それはそれで嫌なんだけど。


「むぅー仕方ないのう。カガリや手続きの仕方を調べるぞ」

「お爺様、待ってください」


 二人が去っていくと、エリカがニコっと笑う。


「私も立候補しておりますので」


 笑った後に恥ずかしそうに後ろに下がるのは反則ではないでしょうか?顔が見えません。


「大変だ!!!」


 宴を邪魔する無粋な声が響いたのは、俺が照れているエリカさんを見ようとしたそのときだった。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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