反対
よう、オオカネ ミツナリだ。俺は今、異世界にいる。俺のことはミツナリとでも呼んでくれ。先に言っておくが、俺は石田三成のような忠義の人でも、賢いわけでもない。
多少家が金持ちで、将来は親父の会社を継ぐことが決まっている特権階級の人間だ。まぁ、決まったレールを走ればいいのだから、楽な人生だと思っていたさ。
俺が通ってる高校は私立の進学校で、クラス全員そこそこに頭がよくて、そこそこの金持ちが揃っている。将来はそれなりの地位につくために教育も受けてきた。そんな俺たちのクラスは突然、異世界に召喚されたてしまったことで人生を狂わされることになる。
ここで俺自身の考え方の一旦を話すとするなら、ぶっちゃけ正義とか言っている奴を見ると吐き気がする。良いことをするのに虫唾が走る性質だ。そういうことをしている奴を見ると偽善者だとか、どうせ心の中では見返りを求めてるんだろうと思っている。人間など所詮腐った奴らばかりだ。
ひねくれてる?おいおい、そういう自分はどうなんだ?結局自分が一番かわいいって思ってるだろ。俺を非難する前に自分の胸に手を当ててみろって。なっお前も自分が一番かわいいだろ。
「おい、俺たちはまだ承諾してないぞ」
おっと本編が動き出したぞ。現実逃避はこれくらいにして、状況を見守るかね。
どうやら職業勇者(笑)になったマサキに、反論した愚か者がいるようだ。主人公であるマサキ・シンタロウに反論したのは、フルヤ・テンガだ。マサキを主人公と言うならば、主人公のライバルキャラ的な存在のチョイ悪イケメンだ。
フルヤは家が大金持ちで、俺以上に将来が約束されている。ハーヴィーに次ぐ大金持ちのせいか若干我儘で、学園でも問題視されていた。別に不良というわけではないが、学力は学年上位、運動神経抜群で顔もいい。身長が高くモデル体型と言うのだから完璧超人である。
マサキが天然爽やかイケメンとするならば、こっちは金持ちボンボン完璧イケメンと言ったところか。マサキは主人公キャラとしてクラスの女子にモテモテだが、フルヤはその見た目で学校以外にもモデル業をしておりかなりの有名人なのだ。
そのせいか、時間にルーズだったり、仕事関係があるとすぐに学校を早退する。そのうち芸能活動が本業になるのだろうな。
俺としては横に並びたくない人物第一位だ。
「フルヤ。Mー109さんの涙を見ただろ。それでも承諾しないっていうのか?」
「お前はバカでいいな。俺たちはこの世界に誘拐されてきたんだぞ。加害者の手伝いを、どうして俺がしてやらなくちゃならない。俺は、滅びる世界なんてどうでもいい。元の世界へ戻せ」
フルヤの言葉は半数以上のクラスメイトが同じ意見なのだろう。頷いている者が多い。案外状況に流されず、クラスメイトたちは冷静でいるようだ。
もちろん俺もフルヤの意見に賛成だ。ただ、マサキに逆らうと、何かと厄介なことになる。主人公に嫌われた、もしくは敵対する奴はフルヤぐらい強烈なキャラがなければ悲惨な目に合う羽目になる。
とりあえず、今はどっちにつくか見物と言ったところだろう。
フルヤの言葉で、Mー109に同情的だったクラスメイトたちが、俺と同じような考え方に傾いたようだ。
「フルヤ!お前には男としての心意気はないのか。女性が目の前で泣いてるんだぞ」
「関係ねぇよ」
フルヤは、胸倉を掴んできたマサキの手を払いのけ、M-109の前に立つ。
「俺を元の世界へ戻せ」
フルヤの言葉にM-109は顔を伏せる。
「申し訳ありません。あなたたちは最後の希望でした。あなたたちを召喚するために残されていた魔力を全て使い切ってしまいました。今はあなたたちを元の世界へ返すことはできません」
ハーヴィーに説明することを濁したのは、返す手段がなかったからだ。M-109は最初の無表情から随分と表情を見せるようになった。表情こそ大きな変化はないが、今はフルヤに申し訳なさそうな雰囲気を醸し出している。
「無責任じゃないのか?」
「本当に申し訳ありません。あなたたちを元に戻すことも、世界樹を救って頂ければできると思います」
「卑怯だな」
M-109はマサキに見せた涙ではなく、今度は打診するようにフルヤに応えた。フルヤという人物は合理的なところがある。答えをもらえれば、論理的な思考を働かせるのだ。
「申し訳ありません」
「テンガ、もういいじゃん」
「ユウマ」
止めに入った美少年は、新見ニイミ 優馬ユウマ。彼は中性的な容姿と小柄な体躯をしているイケメンだ。
マサキ、フルヤと同じくクラスの女子たちの人気を集めている男子の一人で、容姿だけならば女子と変わらぬ可愛らしさを持っている。
フルヤとは幼馴染で、フルヤに物申せる人物はニイミだけだ。フルヤもニイミの言うことならば大人しく聞くので不思議に思う。
「ねぇ、Mー109さん。ちょっと聞きたいんだけどいいかな?」
中性的な容姿で笑ったニイミに、クラスの女子たちは悩殺されていく。俺から見れば超怖い笑顔に見えるんですけど。ニイミは外見を見ていれば、人畜無害で男女問わず愛されてしまう男だ。
だが、底知れぬ腹黒さを持った奴なのだ。このクラスではイジメはなかった。しかし、中学時代にニイミに逆らって学校に来れなくなった奴がいると噂で聞いたことがある。
「なんでしょうか?」
「僕の職業にね、賢者って書いてあるんだけど。これって何かな?それにスキルにはどんな意味があるの?言葉のままなら技ってことかな?」
可愛らしく首を傾げて聞いていく仕草一つ一つが計算されているのだろう。
「異世界の方々はこの世界に来られる際に、この世界に適した職業とスキルを得られるのです。職業はこの世界に適した能力補正がかかります。そして、この世界で生き抜くために異世界人は強力なスキルを得られると言われています」
「なるほどね。つまり、僕たちは全員チートを授かって異世界に来たってことだね」
「チート?」
ニイミはゲームや漫画を知る男のようだ。この状況を理解している。
「別にわからなくていいよ。僕が分かればいいんだからね。そうだ。この世界のことはどうでもいいけど。魔族退治は面白そうだからしてあげるよ。テンガもそれでいいよね」
「おいっ、勝手に決めるな」
「別にいいじゃん。僕たちってチート持ちなんだよ。強くてニューゲームだよ。こんな楽勝ゲーム、すぐに終わらせて現実に帰ればいいじゃん」
ニイミの言葉にフルヤは溜息を吐き、先ほどまでクラス中に充満していた重たい空気が霧散していた。
「お前はなんでもゲームに例えるな。ここは現実なんだぞ」
「そんなのわかってるよ。でも、どんな状況でも楽しまないと」
「お前ってやつは」
それまで怒りを表していたフルヤも、ニイミの言葉に呆れたように頭を掻いた。どうやら承諾するような雰囲気になりつつあるようだ。
「話はまとまったようですね。では、今の状況を詳しく聞きましょうか」
フルヤが承諾した雰囲気を出すと、それまで黙って状況を見ていた黒髪ロングメガネ女が話をまとめるように言葉を発した。
今度は委員長様のお出ましかよ。彼女はクラスの委員長で黒花クロハナ 咲サキという。一重の瞼がきつい印象を与えるが、キリッとした美人系だ。
クラスの中で、マサキの彼女であるハーヴィーと男子人気を二分している。ハーヴィーが美の女神ならば、彼女は近寄りがたい黒バラと言った印象だろう。
もしも、彼女が和服を着ていたら誰よりも似合う和風美人になること間違いなし。ちなみに俺はどっちも好みではない。
「M-109さん。説明を続けて頂けますか」
「わかりました。皆さんに、この世界に何があったのか、全てお話します」
こうしてM-109は、この世界がどうして滅びることになったのか話し始めた。
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