他種族に会いに行こう
よう、魔王就任中のオオカネ・ミツナリだ。今回は他の種族に会うため地方回りに出ることになったぜ。
「魔王様、こちらへ」
悪魔族の悪魔美女秘書ことエリカさんに連れてきてもらったのは、狭い祠のような場所だった。
「トキトバシ、いますか?」
そこに現れたのは鏡の身体を持つ妖怪だった。
「なんじゃ。ワシに用か?」
「仕事よ」
「ほう、久しぶりじゃな。最近は魔王様もお出かけにならんからな。それで?誰をどこに飛ばすというのじゃ?」
おいおい、トキトバシってなんだよ。話についていけないっての。お出かけってことはここから出かけるために必要なのか?
「新魔王様よ。あなたも聞いているでしょ」
「おうおう、そうじゃったそうじゃった。魔王様は引退されたんじゃったな」
どうやら話が通じたらしい。鏡の妖怪が俺に向かって頭らしきものを下げる。
「新たな魔王様。ワシは妖怪族のトキトバシじゃ。ワシのスキルはワシ自身が望んだ物や人の時間や時空を飛ばすことができるのじゃ。
ただし過去に戻ることも未来にいくこもできん。できるのはこの時間この場所から移動させることができるだけじゃ。魔王様が行きたい場所に最短時間でお届けすることを生業にしておる。これからは新魔王様のために働くから、よろしく頼むぞい」
「ああ、こちらこそ頼んだ」
俺が挨拶を返すと、トキトバシは笑ったような気がした。
「準備はいいですね。では、まずはどちらに向かわれますか?」
「すまないが、説明を求めても良いか?」
「はい。なんなりと」
「帰りはどうする?」
「同じです。トキトバシの名を呼べばどこにいても迎えに参ります」
テレポートとか、ワープ的なものか?便利なスキルだな。覚えられるなら覚えておきたい。
「そうか。だが、俺はまだ世界について知らない。エリスが勧める場所はあるか?」
「我が悪魔領へご案内したいところですが、今回は地方を回るということですので、亜種族会が管理する領地などはいかがでしょうか?」
「亜種族会?」
「はい。会議にも出席しておりました精霊女王が治める領地です。元々は精霊族と呼ばれていた者たちです」
挨拶に来た中に精霊女王もいた。見た目は年を取っていない美しく優しそうな人だった。ただ、長い時を精霊女王として過ごし疲れたと言っていた。
代替わりをした精霊女王も美しく優しそうな人だった。精霊族と言えば他にもエルフとかドワーフがいたはずだ。確かにゲームなんかでは定番だから見てみたいけど。
「そこには何がある?」
「亜種族会はノーマルが残した魔工学を、自然と共存できるように研究しております」
「なるほど、魔工学の本質を見ることができるのか」
「はい。ご理解頂きありがとうございます」
「わかった。亜種族会の領地へいこう」
「畏まりました。トキトバシ、魔王様は亜種族会の領地へ行きます。案内をしてください」
「あいよ。行け行け行けよ。目的地は亜種族会の領地へへへへへへ」
トキトバシの声が遠くに聞こえ、洞窟のような場所からいつの間にか緑生い茂る森の中へと移動していた。
「着いたのか?」
「はい」
漆黒の鎧を身に纏った魔王と、真っ黒なボンテージに身を包んだ悪魔美女が綺麗な森の中にいるのは、不釣り合いもいいところだろう。
「ここはどのあたりだ?」
「亜種族会に所属しているゴブリンたちの街近くだと思います」
ゴブリンも亜種族に入るのかよ。正直見た目がキモいんですけど。
「そうか、ならば行こう」
「はい。魔王様」
森を進む不気味な二人は、ゴブリンの街へと入っていく。ゴブリンたちは漆黒の鎧が街を歩くたびに頭を地面に突けて頭を下げた。
頭を下げるゴブリンたちは魔王の姿に怯えているわけではない。ただ、尊敬を持って魔王を出迎えているのだ。
「よくぞお出でくださいました。魔王様。私がゴブリンの王を務めさせて頂きます。キングと申します」
「ゴブリンの王か、よろしく頼む」
ゴブリンキングとか、めっちゃ見た目恐そうなんですけど。角とか生えてるし、まんま鬼じゃん。
「お会いできて光栄です。我々ゴブリンは農業を任されております。この辺りは害虫が少なく自然が多い。農業に最適なんですよ」
見た目が恐いキングは丁寧に街の説明をしてくれる。ゴブリンの生活や仕事について、ゴブリンは数が多く。農機がないこの世界でも数が多いゴブリンならばたくさんの食料を作り出すことができるのだ。
ゴブリンたちは作った食料を他の街に売りに行くことで、生計を立てている。
「ゴブリンたちのお陰で上手い野菜が食えるんだな。ありがとう」
「もったいお言葉、我々が存在できるのも魔王様あってのことです。生きる目的を与えてくださりありがとうございます」
想像していたゴブリンキングよりも礼儀正しく腰が低い。
「前魔王がしたことだ。私はそれを引き継いだだけにすぎん」
「引き継いで下さったからこそ、今も我々は存在できるのです」
「持ちつ持たれつだ。こちらこそありがとう」
俺はあまり持ち上げられても困るので、話を強引に切った。それからも魔王としてゴブリンの現状を理解するために街の中を歩く。
ゴブリン領は穏やかな田舎で平和だった。ゴブリンたちは農家として毎日汗水垂らしながら、楽しそうに仕事に励んでいる。外敵から襲われる心配もなくなり、子供を安心して育てる環境が整っているのだ。彼らはここで幸せに生きている。
「これで、視察を終わります。私たちは次の街に移動します」
一通り街の中を見回りゴブリンキングと昼食を取り終えると、エリカが移動を告げた。するとトキトバシが現れる。
「魔王様、我々はいつも魔王様と共にあります。どうか、これからもお体をご自愛ください。そして一日でも長く魔王様でいてください。あなたは前魔王様と同じでお優しい方だ」
キングの後ろには数千のゴブリンたちが頭を下げたまま、キングと同じ祈りを口にしていた。
「ああ、ありがとう」
トキトバシによって飛ばされる間もゴブリンたちは俺の姿を見送り続けていた。
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