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動き出した異世界人 4

 もしも、マサキたちに経験を積む時間があり、良い指導者がいたならば結果は変わっていたのかもしれない……。



 彼らは便利なスキルを持っている。持ってはいるがそれを使いこなせていない。トシの気配察知は熟練した者たちが使えば、気配を消した相手だって、どこにいるのか特定できてしまう。だが、熟練度の低いトシでは、気配を消した者をみつけることはできない。


「ノーマルと機械族に間違いありません」

「そうか、ノーマルだけならば生き残りがいたと見過ごすこともできたが、機械族がいるならば見過ごすことはできんな」


 気配断ちのスキルを使って風呂に潜んでいたゴブリンの報告により、長老は決断しなければならない。


「亜種族会はどういっている?」

「まだ報告は返ってきておりません」

「致し方ありまい。それでキング様どうだ?」

「いつでも出れると言って頂いております」

「そうか、ならばすぐにキング様に向かってもらってくれ。それと仲間を集めよ。我々で止めるぞ」

「「「はっ」」」


 長老の一声で集まっていたゴブリンたちは部屋を飛び出す。


「魔王様に恩を返すときだ」


 長老はノーマルに加担したゴブリン族に後悔していた。本当ならば絶滅させられてもおかしくないゴブリン族を生かしのは魔王だった。

 だからこそ、長老は魔王に恩を感じおり、どんな小さな反逆の芽でも摘むつもりでいた。


「剣を取れ、我らが同士たちよ。戦を始めるぞ」


 長老は戦争時代、ゴブリンキングの懐刀としてゴブリンロードの称号を授かっていた。体格も他のゴブリンよりも大きく力強い。


「キング様が来るまで我が指揮を執る」


 数百人のゴブリンたちが宿を囲み、マサキ達に攻撃を仕掛けるために合図を待っていた。


「かかれ!」


 長老の号令と共に数百人のゴブリンたちが宿の中へと殺到する。


「どこだ?どこにいる。ノーマルは?機械族は?」


 ゴブリン兵は宿の中をくまなく捜索したが、マサキ達の行方を見つけることができない。


「奴らはどこに行ったんだ」


 ゴブリン兵が叫び声を上げる。だが、次の瞬間にはゴブリン兵は光の放流に包み込まれ、命を落とすことになる。

 お風呂で敵を見つけることができなかったトシであったが、多勢のゴブリンたちの気配に気付けないほど落ちぶれてもいない。


「マサキ、敵襲だ」


 トシの声で起こされたマサキは、すぐに女性陣を起こして、囲まれた状況で唯一逃げられる屋根へと上がった。その際にイマリが仕掛けた時限爆弾が宿の中で破裂したのだ。


「どうやら上手くいったようですね」

「凄い数だな」


 屋根から見下ろすマサキ達の前にはゴブリンが数千という数で宿だけでなく街全体に集まって来ていた。長老ゴブリンはマサキ達を討つため、集められるだけのゴブリンへ声をかけたのだ。


「キモイキモイキモイ」


 普段勝気で活発的なメグはゴブリンの集団に気持ち悪いと連呼を繰り返す。


「大丈夫だよ。今は夜だし、シズカちゃんのシルエットで私達の姿はゴブリンには見えないよ」


 屋根に上っただけでなく、シズカのシルエットにより、全員の姿は隠されている。そのためゴブリンには未だに見つかっていない。


「攻撃に来た第一弾は退けましたが、これからどうしますか?」


 イマリの質問に対して、マサキが答えようとするよりも、メグが動く方が早かった。彼女はソーサリーと呼ばれる魔法職についている。得意な魔法は火の魔法であり、マサキ達の上空にはマサキ達を避けるようにドーナツ状の火の輪が出来上がっていた。


「キモイのは死ね」


 腕を上げていたメグが腕を下すと、火の輪は宿を囲んでいたゴブリンたちを焼き払う。


「開戦には丁度いいんじゃない。ツバサ」

「はい。ハーヴィー様」

「ちょっ」


 火の輪がゴブリンを焼き払い、数を減らして動揺しているゴブリンにハーヴィーとツバサが武器を携え戦場へと降り立つ。

 その姿はまるで戦場に舞い降りたヴァルキュリアのごとく美しくゴブリンたちもハーヴィーの姿に見惚れてしまう。


「血が騒ぐわね」


 棍と呼ばれる中国武術で使われる得物を持ったハーヴィーの動きは軽やかで、まるで踊りでも舞っているようにゴブリンを殴り倒していく。


「気持ちいい」


 ゴブリンを倒すハーヴィーの背中を守るツバサは、小刀と携帯槍を駆使して忍者のように飛び回る。


「ハーヴィー様には指一本触れさせん」


 二人の連携は完璧であり、上流階級の嗜みとして一通りの武術を習ってきた成果が異世界に来たことで花開いたのだ。

 戦場を駆ける二人の姿にマサキも慌てて、屋根から飛び降りる。


「シズカ、アイさんたちを頼んだ。トシいくぞ」

「はっはい」

「おう」


 シズカはシルエットからバリアにスキルを代えて、残っているアイ、メグ、サキの三人と自分自身を包み込んだ。

 マサキ達よりも先に戦場に降りたのはイマリであり、機械族のスキルを思う存分に発揮していた。


「戦闘モード移行。バージョン全方位」


 機械の翼を生やしたイマリは全方位に向けて銃口を開いた。


「バースト」


 放たれる魔弾が空中からゴブリンたちを打ち抜いていく。


「俺たちも負けてらんないぞ」


 マサキは剣を、トシは刀を、それぞれ握りしめてゴブリンたちに戦いを挑んでいく。元々古武術をやっていたトシはゴブリンを切る感覚を掴み、骨を避けて刃こぼれを防ぐ。

 太くしっかりとしたロングソードを持つマサキは勇者補正により強くなった体で力づくでゴブリンを倒していく。


「キリがないわね」


 かなりの数を倒したマサキ達だったが、ゴブリンの数は一向に減る気配がない。


「皆さんに、癒しを」


 アイの癒しの魔法で、全員の体力が回復する。しかし、終わりのない戦いと言うのは精神的に辛い。ましてや初戦闘と言ってもいい戦闘なのだ。全員の精神状態は一人を除いて追い込まれつつあった。


「マサキ、このままじゃダメ。敵の指揮官を討たないと終わらないわ」


 一人元気なハーヴィーの提案に指揮官を探すが、どのゴブリンが指揮官なのか、マサキにはわからない。


「私が指揮官を討つからここは任せたわよ」

「ハーヴィー危険だ」

「このまま戦っていても危険は同じよ」


 戦闘に関して、ハーヴィーの方が強いとマサキも認めている。


「わかった。だけど、危険だと思ったらすぐに引いてくれ」

「まかせなさいって」


 ハーヴィーがゴブリンの中心に飛び込んでいく。マサキ達はハーヴィーの援護のために四方に別れゴブリンを退けた。

 ハーヴィーの前方に迫る敵は、イマリがハーヴィーの道を作り出す。


「あんたが指揮官ね」


 長老ゴブリンの前に立ったハーヴィーは笑った。その美しさに長老は一瞬息をのんだ。


「化け物め」


 長老は大剣をハーヴィーに向けて構えた。

いつも読んで頂きありがとうございます。


どうも、いこいにおいでです。


この度「勇者になりません」がHJネット文庫の一次選考に残りました(*´ω`*)嬉しいので色々な方にご報告です!(^^)!

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