イマリのウソ
二代目魔王となった俺は流されるまま仕事に埋没されていく。魔王の仕事はかなり多かった。俺が転移してきたとき魔王が暇そうにしていたのは、会議のために仕事を抑えていただけだったのだ。
悪魔美女ことエリカさんが、書類の束を持って執務室に入ってきた。
「魔王様、こちらが今日の分になります。あとで追加もあります。ですが、今日のところは、こちらの書類を片付けて頂ければ問題ありません」
こちらの書類と言われて持ってこられたのは両手にそれぞれ塔を作っている書類の束だった。
「ふむ」
ちなみに俺は未だに漆黒の鎧を着て執務室のイスに座っている。案外、鎧の性能が良いお陰で椅子に座っていても辛くないので重宝している。
本当の理由としては見た目ノーマルな俺が、魔王の配下さんたちに顔を晒すのが躊躇われるためだ。内心では秘書ことエリカさんのことを「エリカさん」と呼んでいるが、実際に彼女を呼んだことはない。
「魔王様は無口でいらっしゃいますね」
エリカさんは顔だけ見ていれば清楚な印象を受ける綺麗系美人だ。服装が常にボンテージに悪魔羽、悪魔尻尾がユラユラと動いているのもギャップとして最高の妖艶さを醸し出している。
「そうか」
あまり口を開いてボロを出すわけにはいかないので、簡単な返事しかできないだけだ。本当はめっちゃ話したいよ。だって、超綺麗なお姉さんがお尻と尻尾を振って去っていく後ろ姿とかエロすぎだろ。思春期なめんなっての。
「では、何かありましたらご報告ください」
エリカさんが執務室から出て行くと、俺はエリカさんが持ってきた書類を一枚とる。そこには公共事業の願い出が書かれていた。さらに次の書類には貴族同士のトラブル。さらに次は市民からの訴えなど。様々な問題が寄せられていた。
「こういうのは政治家の仕事だろうに、しかも魔王一人が決めていい仕事じゃないと思うんだけどな。官僚とか文官とかいないのかよ」
書類の中には開発の予算配分や各貴族からの収支報告書などもある。あの魔王爺がこれを全て完璧にやり遂げていたとは思えない。多分だが、魔王は目を通すだけで、勝手に行われていたのではないだろうか。
「とりあえず、おかしいところだけ直して返すか」
文句も言わずに仕事に取り組んでいるのには二つほど理由がある。魔王爺が言った通り、ここには情報が集まってくる。ここにある書類にも未確認の生物や、新しい魔法の発見などが書かれていたりする。それを目にするたびに帰れるのではないかと期待するのだ。
だが、大概がたいしたことのない、爬虫類か、両生類か、わらかん気持ち悪い生き物だったり、日常的に便利な発明魔法の報告ばかりだ。
「はぁ、確かに情報は集まるが、処理しきれねぇよ」
言語補正のお陰で文字は読めるし、元の世界の文字をかけば、この世界の物に変換されるから問題はない。だが、流石に量が多すぎる。
しかも、ここにいるもう一つの理由として、魔王は世界樹を守っているのだ。魔王側から見た歴史はイマリが語った物とは随分と変わっていた。
まず、世界樹の寿命があと三年というのはウソだ。世界が滅びに向かっているのもウソ。聖水を与えて蘇ると言ったのもウソ。
イマリが話したことのほとんどがウソである。どうしてウソだと確信が持てたのか。俺が魔王から話を聞いただけだと誰もが思うだろう。だが、俺は確信をもって言える。イマリは悪である。
「ちょっと席を外す」
執務室の外には秘書部屋があり、エリカともう一人の秘書が席に座っている。
「どちらに行かれるのでしょうか?」
「世界樹だ」
「かしこまりました。これ以降の予定は延期しておきます」
秘書代表エリカの答えに満足して頷く。エリカの後ろでエリカの補佐をしているダークエルフがメモを取っていた。ダークエルフも代替わりを果たして、今日から勤務なので緊張しているのだろう。
「彼女は?」
「はっはい」
俺は、漆黒の鎧のお陰で渋く低い声でエリカに問いかける。
「はっ、今日より魔王様の秘書につきましたジェシーです。以後魔王様に誠心誠意務めさせますので宜しくお願い致します」
「ふむ」
俺は余計なことを言わずにその場を離れる。ダークエルフのジェシーちゃんは、褐色の肌に白髪。細身の体にしては豊満な胸をした魅力的な女性だった。
エリカがボンテージを着ているのに対して、ジェシーちゃんは革で出来たワンピースを着ているだけだ。胸元がパックりと開いているので谷間が強調されてエロい。
「魔王様って渋い方なのですね」
廊下を歩いているとジェシーちゃんの声が聞こえてきた。渋いのは漆黒の鎧のお陰だけですけどね。
「そうよ。二代目様は無口で仕事熱心。しかも優秀と来ているから素敵な方よ。昨日渡した書類で悪さをしようとした貴族の不正を未然に指摘なされて貴族を捕まえることができたの。どうして書類を見ただけでそんなことわかるかしら?」
うん?知らない内容の話だ。別に不正を暴いた記憶はないが、間違っていたのを直しただけなんだけど。
「スゴイ人なんですね」
「ええ、初代様はサボりがちで、かなり我儘な方だったみだから私達は恵まれているわね」
おいおいエリカさん持ち上げ過ぎじゃね。てか、魔王爺どれだけサボってんだよ。俺はそんな二人の会話をしり目に世界樹が見られる城の中心部にやってきた。巨大な大木を守るように作られた建物から世界樹が見られるのだ。
「ジュリ様おられますか?」
この世界樹の間は魔王以外に入ることを許されていない。そこで、俺は世界樹の名前を呼んだ。
「うん?おぉ、魔王ではないか。しかもお主は二代目か」
顔を出したのは緑色の髪をした十歳ぐらいの少女だ。少女と言っても侮ってはいけない。彼女こそが、この世界を見守る母。世界樹そのものなのだ。
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