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継承

 俺が一番奥の席に座ると、右に座っていた爺様が立ち上がる。


「魔王様、此度はお越し頂きありがとうございます。今年も平和に首脳会議が開けるのも、魔王様が世界樹を守り、世界の中心にいて下されるからでございます」


 立ち上がった爺様は魔王と同じか、それ以上に顔が白い髭に隠されている。しかし、魔王が世界樹を守ってる?イマリが言っていた話と違っているのか?俺は立ち上がっていた爺様に視線を向ける。特徴としては片眼鏡を右目につけいるぐらいのただの爺だ。


「ふむ」

「ノーマルによる世界飢饉も脱出することができたのも、魔王様のお力添えあったればこそでございます。さらに「バフォメットさんや前口上はそれぐらいにして本題に入ってくれんかね」」


 まだまだ続きそうだった感謝の言葉を遮ったのは、俺から見て左隣に座る小柄な悪魔婆が止めに入る。これには感謝だな。爺の話ほど長いものはない。


「ウォッホン。それでは今回の議題についてお話させて頂きます。今回は前回の続きで、継承による代替わりについてでございます」

「ふむ」

「我々も管理者として年老いてきました。見た目が変わらぬ者もおりますが、長くこの地位にいるせいで、皆疲れてしまったのです。そこで、今回は力の継承と、若い者へ代替わりをしたいと魔王様にお願いしにまいりました」

「ふむ」


 おいおい。これって絶対「ふむ」だけで終わっていい問題じゃないだろ。魔王の爺さん、ちゃんと会議に出席しろよ。


「それは代替わりに承知していただけると思ってよろしいのでしょうか?」

「ふむ」


 わかんねぇよ。爺様か「ふむ」だけ言ってろて言われてるんだって。


「ご承知ありがとうございます。では、代替わりする者たちを皆連れてきておりますので、順番に魔王様にご挨拶させにまいります。それでは御免」


 バフォメットの爺様が話を終えると会議室にいた人々が全ていなくなっていた。


「魔王様、お疲れ様です」


 最初に会議室に案内してくれた悪魔美女から労いの言葉をかけれ部屋へと戻った。


「どうじゃった?どうじゃった魔王は?」


 魔王は悪魔美女が部屋から出ると、さっそく爺の姿


「魔王様、あれはダメだ。今回の会議、絶対魔王様が出ないとダメだ」


 俺は漆黒の鎧を着たまま、魔王に詰め寄っていた。


「なんじゃ、何があったんじゃ?」

「これからたくさんの人がここに来ます?」

「うん?」「前回の会議は何を話し合いましたか?」


 俺は食い気味に魔王に思考を促す。


「前回?えっとなんじゃったけ?ワシ会議中はほとんど寝とるからわからん」

「あんた本当に魔王かよ。いいか、あんたの仲間である会議に出てた人たちが、若い人たちに力を継承して代替わりしたいって話だ」

「エー!」


 爺さんは髭が抜けそうなほど驚いた後に真顔になり。


「なら丁度いいじゃん」

「はっ?」

「ワシも主に代替わりじゃ。力の継承も終わっとるしな」

「はっ?」

「そうじゃ、それがええ。今から来る者たちにもそう伝えるぞい」


 強引な魔王を止めようと説得しているうちに一人目がやってきた。


「失礼するよ」

「おう、リリスか」


 魔王は巨大化して椅子に座っている。


「相変わらずデカいね。それにさっき会議にいた子だね」


 俺は魔王の前で漆黒の鎧を纏ったまま立ち尽くしていた。


「そうじゃ、皆が止めるのならワシも止める」

「ハァー、あんたは相変わらずぶっ飛んどるね。私は反対しないよ。ワシらから隠居を申し出たんじゃ。これからは若い者の時代。あんたも好きにしな」

「リリス、その子は?」


 先ほど俺を案内してくれた悪魔美女が悪魔婆と一緒に入ってきていた。


「エリカじゃ。ワシの後継者じゃ」

「ほう、そなたが悪魔族の未来を継ぐ者か」


 魔王の爺さんが珍しく威圧を放って悪魔美女に視線を向けている。魔王の補正を受けたので、それぐらいは理解できるようになった。


「はっはい。エリカと申します」

「ふむ。これからの世は若い者が担っていかなければならない。我が後継者たるミツナリを補佐してやってくれ」

「はい。畏まりました」


 リリスとエリカが去った部屋では魔王が爺になって俺に肘をグリグリしてやがる。


「ほれほれ、どうじゃ。悪魔娘は美女じゃったじゃろう。魔王になればあんな子と、あんなことやこんなことができるのじゃぞ」

「あんなことやこんなこと」

「そうじゃ。魔王になりたくなってきたじゃろう」

「魔王はバイトですからね」


 俺はエリカが去った扉を見つめ、エリカのことを考えていた。「悪魔族なのに素直で良い子だったな」


「言葉がだだ漏れじゃな。若いというのは良きかな良きかな」


 そんな風に魔王爺に言い含められて、その後の挨拶も滞りなく行われていく。最後にやってきたのはバフォメット爺とヤギのような頭に燕尾服きた獣人だった。


「おぉ、生涯の友バフォメットよ」

「魔王様、有難いお言葉嬉しく思います」

「ふむ、互いに年を取ったものじゃな」

「そうですね。ですが、やっと肩の荷を下ろすときがきましたね」

「そうじゃな。ワシにも後継者ができた。主も役目を終えよ」


 魔王爺の言葉にバフォメットは涙を流して応じている。


「お爺様。あとは私メの仕事でございますメ」

「そうじゃ。そうじゃな。あとは頼んだぞセバスよ」

「新魔王様、セバスと申します。今後とも宜しくお願い致します」


 セバスは真っ直ぐ俺を見つめて頭を下げた。こうして俺は悪魔美女の秘書と、羊顔の執事兼参謀が仲間になった。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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