召喚された
どうも、新作はのんびり投稿になりそうです。
クラス丸ごと異世界召喚、本で読んでいるだけなら面白いって思ったさ。他人事だからな。
だけどな、実際に巻き込またら溜まったもんじゃないって話だ。言わせてもらえれば、絶対に自分は異世界になんか行きたくない。だって、そうだろ。金が有れば何でも買える世の中なんだぜ。
二十四時間営業のコンビニやカラオケ、インターネットなら二十四時間どこにいても買い物ができるだろ。
運動や遊びだってそうだ。やりたいときにやれる、夜も朝も関係なく安全な施設が提供されてるんだ。
なのに、どうして不便な異世界に移動しなくちゃならない?冗談じゃないって思っただろ。
おいおい、反論を考えた奴。異世界に行けば、科学の知識が生かせる?チートを手に入れて魔法を使うことができる?可愛い異世界美少女にモテる?そんなこと本当にあると思うのか?実際にあったとして、本当にお前は自分が主人公になれると思ってるのか?ありえないって、俺みたいに冴えない奴が主人公になれるはずがないっての。普通の思考を持っている奴ならありえないってわかるだろ。
ハァー、愚痴ってすまん。どんなに叫んでもこれは現実なんだ。受け入れなければならない事実なんだ。ここは異世界。そして俺は異世界に巻き込まれて召喚された。
「よくぞお越し頂きました。この世界はエクセリアスと申します」
異世界に召喚された俺たち、神高等学院二年一組一同は、召喚したであろう女性のことばに出迎えられる。
歓迎しているとは思えない無表情の美少女。顔はまるで作り物の人形のように綺麗で美しい。髪は青く、瞳も青い。黒いローブで体のラインは分からないが、かなりの上位美少女だ。
「エクセリアス?何を言っているんですか。いったいここはどこなんですか?」
唯一の大人であり、担任教師であるミッチョンこと、三井 都が美少女に問いかける。歳は俺たちよりも十ほど上だが、見た目だけなら学生と言っても通る見た目をしている。
この見た目でも、国語の教師としては優秀な人材として重宝されている。学生たちにも人気の先生だ。
そんなミッチョンの言葉を、美少女は完全にスルーして通り過ぎる。打たれ弱いミッチョンは膝を地面に突いて項垂れた。数名の女生徒に介抱されているので、そのうち復活するだろう。
ミッチョンを無視した美少女は、クラスで一番人気のイケメンの前に立った。
「あなたが勇者様でしょうか?」
クラス一のイケメン、名前はマサキ・シンタロウ。性格は天然優しい系イケメンで、誰にでも優しくクラスの女子たち人気が一番高い。
俗にいうラブコメ主人公のようなラッキースケベや、女子が困ってる場面に出くわす確率が極めて高い。
「勇者?えっと、いきなりそんなこと言われてもわからないんだけど」
「ステータスオープンと言ってみてください」
美少女の小さな唇に誘導されるようにマサキが言葉を発した。
「ステータスオープン?うわっ?えっ!画面?」
何かしらの変化があったようだ。マサキの行動を見て、他の生徒たちも同じように唱える。もちろん俺にも出ましたよ。目の前にゲームなどに使われるウィンドー画面が表示されている。
名前・ミツナリ・オオカネ
年齢・17歳
固有職業・バイトリーダー
スキル・経験値二倍(異世界補正)、言語理解(異世界補正)
個人スキル・器用貧乏、腰巾着、小心者
おい、職業のバイトリーダーってなんだ。おい、ニート、Neatのことか。俺はまだ学生でNeat志望はしてないぞ。
「どうでしょうか?」
「確かに書いてありますね」
問いかけられたマサキの画面には、どうやら勇者という表示がされているようだ。職業勇者ってどんだけ主人公なんだよ。
「……スキルは、どんなものがありますか?」
彼女は一瞬言葉を詰まらせ、無表情だった瞳が潤む。美少女の表情に、男子も女子も見惚れてします。
「スキル?あのスキルと個人スキルがあるんだけどどっち?」
天然であるマサキだけは動じることなく、質問を質問で返した。
「個人スキルも持っておられるのですか?個人スキルはその人しか持っていないスキルなのです」
俺も持ってるぞ。でも、明らかに弱そうなスキルだけどな。
「そうなんだ。えっと、普通にスキルって書いてあるのは、経験値五倍、言語理解、肉体強化、精神異常無効、自動回復、剣術、光魔法かな。個人スキルは」
「待ってください。個人スキルは言わないでください」
おいおい、スキルの量が俺とは比較にならんだろ。てか、光魔法って、やっぱ異世界だわ。一応個人スキルは特別みたいだけど、絶対に俺とは価値が違うだろうな。
「もう十分です。エクセリアスへ来ていただきありがとうございます。勇者様、どうかこの世界をお救いください。そのためならばこの身あなたに捧げます。どうかこの世界を救ってください」
マサキの前で美少女が片膝を突いて懇願するように発した言葉に、クラスメイトたちが色めき立つ。ほら、見たことか、凡人と主人公では住む世界が違うのだよ。物語の主人公とはどこに行っても主人公でいられるのだ。
そして、どこにでもいるモブキャラ、俺はどこに行ってもモブキャラでしかない。
「ちょっと待ちなさいよ。捧げるってどういうことよ。シンタロウは私の彼氏なのよ」
話がまとまりそうだった雰囲気をぶち壊した声は、一切空気を読まないで、マサキと美少女の間に割り込んだ。
彼女の名前は、ハーヴィー・クロード・キサラギだ。女子たちの中でリーダー的な存在であり、父親がイタリア人、母親が日本人のハーフという生粋の美少女だ。
高校生とは思えない美貌とプロポーションは、同じ高校男子から美の女神と呼ばれ、ファンクラブができるほどだ。
「あなたは?」
「私はハーヴィー・クロード・キサラギよ。さっきから聞いてればシンタロウとばかり話してるけど。いったいなんなのよ。あなた自身は名乗りもしないし、なんの説明もしない。自分の要求だけ告げて勝手じゃない?」
おいおい、お前がそれを言うのかよ。普段、周りのことなどお構いなしに好き勝手してるのはお前だろ。超お金持ちのお嬢様は我儘放題に振る舞っているじゃないかよ。
正直常識なんて持ち合わせていないだろ。今だって男を取られそうだからプライドが傷ついただけだろ。
「あなたが言っていることは正しいです。ですが、私には時間がありません」
「それもあんたの都合でしょ」
「ハーヴィー」
二人の美少女が睨み合う光景はハラハラするような、ドキドキするような役得満載である。そんな二人をマサキが止めてしまった。余計なことをする奴だ。
「だけど、わかったわよ」
「……私も、事を急ぎすぎました。すみません」
マサキが止めたことで、美少女の方も落ち着いたのか、折れた。
「この世界についてお話します。まずは、あなた方が住んでいた世界から言えば異世界になるこの世界は、名前をエクセリアスといいます。そして、エクセリアスは現在滅びに向かっているのです」
世界が滅ぶと聞いて少なからず、クラスメイトに衝撃が走った。
「そんなところに私たちを召喚したっていうの?帰れるんでしょうね?」
「帰る方法も後でお話しします。ですが、滅びに向かっていると言っても、それは今すぐではありません。緩やかに、しかし確実に滅びに向かっているのです。この世界を救うには方法が一つだけしかありません」
美少女は決意を込めた瞳で、ハーヴィーを見つめ返した。
「何よ?」
「世界樹を占拠している魔族を滅ぼし、世界樹に聖水を与えることです」
「わけがわかんない。そんなこと、どうしてシンタロウがしないといけないわけ?勝手にこの世界の人たちがやってればいいじゃない」
もっともなことをいうハーヴィーに、正直俺は拍手を送りたい。異世界に来てここまで堂々としてられるこの女の神経は凄い。
「できません。この世界の人間はもういません」
「ハァー?あんたがいるじゃない」
「私は……人間ではありません。名前はM-109。魔力と機械、そしてあなた方がいう人間の魂で作られた紛い物なのです」
これまた衝撃的な発言に、一同が困惑した表情になる。
「えっ?どういうことよ?」
美少女ことMー109が来ていた黒いローブを脱ぎ捨て自らの体を晒した。体中に縫合跡があり、継ぎ接ぎだらけの体を晒した美少女は一筋の涙を流した。
「もう、この世界を救う人はいません。いるのは魔族とそれに従う者たちだけです。どうか、どうか、この世界を救ってください」
美少女の涙に応えない主人公はいないだろう。
「M-109さん。僕がこの世界を救います」
マサキ・シンタロウとはこういう男だ。だが、全員がマサキのような奴なわけがない。俺は反対だ。危険なことはしたくない。だから言おう。俺は絶対に戦わない。
「トシ、ミツナリ、一緒に来てくれるよな」
マサキは一切の疑いを持たない瞳で、俺と俺の横に立つ主人公の友人キャラの名前を呼んだ。どうして、俺が拒否するとは考えないのか、どうしてこの場で嫌だと言わせない雰囲気を作り出すのか、この主人公が大嫌いだ。
「おう」
「もちろんだろ」
トシこと、ヒジノ・トシロウが応じたことで、俺は断ることが出来ずに流される。
わかってるよ。自分でもわかってる。強い奴、怖い奴、そしてイケメンで人気のある奴の腰巾着が俺なんだ。俺の人生はいつも誰かの引き立て役でしかない。結局やりたくないとすら言えないのだ。
いつも読んで頂きありがとうございます。