前書き
チェーン展開されているとある居酒屋で、僕は友人と二人でお酒を飲んでいた。かつての同級生で、笑顔に華のあるとても可愛らしい人だ。自分の進むべき道が分からなくなってしまった僕を励まし、勇気を与えてくれた、優しい人だった。
グラスを煽って空になっていることに気付き、同じものを注文した。
もう何杯目かは憶えていない。それでも酔いは回ることはなく、むしろはっきりとした意識で口を開きながらも、熱の含んだ言葉は淡々と紡がれていた。
下を向いて話す僕は、正面に座る彼女の顔を盗み見るように視線を向ける。
殊更に優しい目でそんな僕を見ている彼女は、どう思っているのだろう。
自分を信じられなくて、一度は夢を諦めた、情けない僕を、どう捉えているのだろう。
そんなことを考えても意味がない。誰かが僕の頭の中を知ることが出来ないように、僕は彼女の思いを知ることが出来ない。そもそも僕は他人の表情を読むことが苦手なのだ。代わりに空気を読もうと、必死に頭を動かしている間に会話が移り変わって、話に付いて行けなくなることもよくあることだ。
今はこの空間には二人だけしかおらず、僕の拙い話に相槌を打ってくれている彼女を退屈させないように、表面には出さないよう必死に考えながら話している。
救いは、その表情に嫌悪感が浮かんでいないことだ。
いつもの、いや、いつも以上に優しい笑顔で、僕の話を聞いてくれている。そう感じるのは気のせいかもしれない。目の錯覚かもしれない。呂律は回るがやはり酔いが回っている脳が見せた幻想かもしれない。
それでもいい。許してくれるのなら、何も言わず、静かに聞いてほしい。
これは、僕の後悔の話だ。