表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

おきらく三題噺シリーズ

僕はおっさん

 その日の帰り道、ふとした気まぐれで立ち寄った占い屋で僕は自分の前世を知った。古風なテントで店を構える占いババが言うところによると、僕の前世はおっさんだったらしい。


 ――おっさん。


 正直、反応に困った。

 前世がおっさんだからなんだというのだろう。どうせなら侍とか、鍛冶屋とか、忍者だとか……そういった意外性のある前世だったら良かったのに。

 占い料3500円は水泡に帰したのだ。

 もののついでにババはさらなる情報を与えてくれた。


 僕の前世はおっさんはおっさんでも、そんじょそこいらのただのおっさんではなかったらしい。


 今から過去を遡ることーー年。前世の頃の僕は武士の家系に生まれた。士農工商という厳格な身分制度があった時代だから、武士の家系というのはとんでもないエリートだったわけだ。そんな家系に生まれた僕はどういうわけか家の方針に反発して野武士になったという。


 その後野武士になった僕はひょんなことから、近辺で起こった戦に参戦し、多大な功績を挙げたため、褒美として領地を貰い受けたらしい。この時点で、もはや運命のいたずらとしか思えないサクセスストーリーであるが、歯車はまだ止まらない。


 領地を手にした僕はその後結婚し、子を授かった。子供も健やかに成長し、僕は立派なおっさんになった。


 だが、どういうわけかこの頃から僕は何かに取り憑かれたように自分の屋敷にあった小さな小屋に籠もるようになった。さらに、それまではあまり関わりを持たなかった異邦人や各地を渡る商船主などといった人々との交流が多くなった。


 僕は小屋に籠もって何をしていたのか。

 誰の目にも触れないよう、小屋で一人で作業を続けた。その頃、僕には夢があった。自分の目でどうしても見てみたい景色があった。その光景を見るために、僕は寝る間も惜しんで、文字通り血肉を削って作業に没頭した。


 そして……やがて、それは完成した。


 絡繰りの名は全自動時空間移動機関車。現代の言葉でわかりやすく表すなら、タイムマシンである。

 僕は未来の世界がどうしても見てみたかった。

 当時はどこもかしこも戦、戦、戦で、ほとんど多くの人にとって真に心の安まる場所は無かった。

 戦に勝っても、負けた方は散々だ。勝てば官軍と言う言葉があるが、負けた方はただ捨て置けばいいのか? 僕はいくら戦に勝っても、勝ち続けても心に靄がかかったようだった。

 人の世は常に移ろうものだ。

 戦だって、いつかきっとなくなる。そんな時代が遠い未来、いつの日かやってくるのだ。僕はその景色をどうしても目に焼き付けたかった。





 だから僕は今こうして、ここにいる。

 




 タイムマシンによる時空間移動は、体に予想もしないダメージを与えた。そのときのショックで僕はずっと記憶を無くしていたのである。

 占いババの言葉がきっかけで僕は失っていた記憶を覚醒させた。

 今、こうして見る世界はやはりあの頃の世界とは違って見える。

 単純に文明が進歩しただけでなく、それに伴って人々の文化・意識も変わったのだ。

 かつて僕が治めていた領地にはビル群が立ち並び、当時の面影はほとんど残っていない。戦の度に見かけた鬼火も、今では陰すら見あたらない。この景色を妻や子どもたち、もっとたくさんの人に見せたい。


 しかし、それはできないのだ。

 タイムマシンは壊れてしまった。もう時間移動はできないのだ。

 帰れないものは仕方ない。それならせめて心穏やかに暮らそうと、決めた。

 今の僕は、ちょっとくたびれたスーツを身につけたただのおっさんなんだから。


 脇の線路を電車が通っていく。

 ガタンゴトン、ガタンゴトン……と心地良く車輪が音を刻んでいく。

 一瞬、昔の景色が頭に浮かんで、消えた。 ふっ、と自嘲して僕はまた歩き出した。 

UPするの忘れてたおきらく三題噺シリーズのお話です。

タイムマシンをネタにした長編とか書いてみたい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ