「彼に似た光」
「しゃがんで!」
「はい!」
彼女は指を弾きミファ・ラグシェルさんを召喚。その風と共に騎士団の方々は壁に吹き飛び、わたくしたちの目の前には桃髪に肩を隠した桜柄のワンピース、戦闘用のスパッツを着てこちらに眉を顰める女性と同じ目をした赤髪の彼女が姿を見せた。
わたくしは剣を手に彼女に斬撃。けれど彼女の前でわたくしの動きは完全に留めた。この能力、稀に見られる超能力と言う目視できぬ力。彼女は余裕の背を見せ言葉を発した。
「リラ、彼女たちは拘束するにしても、少し体力を消耗させた方がいいんじゃない? あの風召喚の女の子、ものすごく強そうだけど」
「そうですね。確かにその方が悪くないと考えます。チェインさまの意見を尊重します」
いくら力を入れようとも彼女と剣の差は狭まりません。このままでは......
その瞬間、わたくしと桃髪の彼女の間に閃光の太刀が入りました。わたくしの体は自由に動き、ミカロとともに態勢を立て直します。
わたくしは太刀が飛んできた方向を辿り自動二輪車に乗った人物を見つけました。金髪を下げ黒のボディスーツに身を包んだ彼女。そしてそれは紛れもなくあのお屋敷にいた女性でした。
「モキュ、よろしく! 白嵐宙!」
その声を聞いた瞬間、わたくしたちの目の前は真っ暗になった。上からやって来る白い皮の圧力。わたくしたちは空にさらわれている感覚に見舞われます。抵抗したいところでしたが、敵のように見えなかった彼女をわたくしは信頼することにいたしました。
ミカロは疑問を消せていないようでしたが、警戒しつつも星を解除することに賛成してくれました。
けれど今はっきりとさせられました。わたくしの実力をはるかに凌駕するような存在などいくらでもいるのだと。世界は広い、というところですわね。シオンさまがいても果たして彼女に勝てたかどうかと、今更ながらにわたくしの心は不安に包まれます。
わたくしたちに光が差し込んだとき、そこには6人は簡単に寝っ転がることのできそうな真っ白な寝台が広げられていました。
「ごめん、無理やり連れてきちゃった。ケガはない? はい、これ紫静花」
「紫静花!? 一杯10万Jで取引されているあの!?」
「うん、知り合いに作ってる人がいてたまにもらえるんだ。お口に合えばいいけど」
わたくしは紫色の紅茶をゆっくりと口に含みました。舌に触れただけで伝わって来る花々と野原の香り。そして訪れる安堵の味。まさに身体そのものが洗われてゆくような感覚。こんな紅茶をいつかシオンさまと......
わたくしは瞬時に現実に戻り、金髪の彼女と対面いたします。はしたない姿を見せていたと思うと、少し恥ずかしいですわ。
「お口にあったみたいでよかった。隣の彼女も楽しそうだね」
「あはは~」
今までのわたくしの苦労をすべて無駄にするかのように、彼女はほんわかとした和やかな笑顔で紫静花の味の虜になっていました。
こんなことなら無理にでもお金を引き出して、そうするべきだったかもしれませんわ。わたくしとしてはそう言った手段は嫌いなのですが......
わたくしは気に入らないので少し頬をつねりましたが、彼女の顔が変わる様子はありませんでした。
「む~!」
「あはは~痛いよエイビスー。そのままぽっぺが落ちちゃいそうだよ」
「全く気に入りませ......っ!」
「大丈夫!?」
腕に傷が......やはりあのときの太刀を受けてしまっていたようですわね。けれど紫静花を飲んだので問題ありません。すぐにでも治癒の効果が働いて......傷に変化がない? もしや......
「モキュ!」
「モキュモキュゥ!」
彼女の指示のまま、わたくしに白い首巻マフラーのような生き物が巻きついた。柔らかい感触が首に伝わる代わりにさっきまでの痛みがウソのように消えていた。
その子が離れたとき、わたくしの傷は完全に姿を失っていた。
「大丈夫そう?」
「はい、ありがとうございます。このような待遇に感謝いたします。それよりもあなたは一体何者なのですか?」
彼女は白いお餅のような生物を肩に乗せ、彼女の頭を撫でて可愛がりました。その姿はなんとも愛らしくシオンさまに撫でられているわたくしにそっくりでした。自分の居場所はここなのだと実感したそのときと、まったく変わりませんでした。
「まずはお礼を言わせて。ありがとう、エイビスちゃんのおかげでまだ希望が見えてきたよ」
「知り合いなのエイビス?」
「確かお名前は......」
「Shineだよ、よろしく!」
わたくしたちは彼女と白い生き物さんと握手を交わし、互いに自己紹介をしました。彼女の肩に乗っているのはモキュさんという名前で、様々な形になれるといいます。例えば首巻や腕輪、帽子など多種多様です。
わたくしもいつか他の動物とお友達になりたいところですが、それはまたいつかの話になりそうですわね。
「二人にはこれを見てもらいたいの」
彼女が白い寝台に手を広げたかと思いきや、そこにはいつか見た黒帽子の男性の姿。彼女の作戦がすぐに読み取れました。けれど、そのような能力が本当に存在するのでしょうか?
「そっか。こいつのせいでシオンがおかしくなっちゃったのかもしれない。今どこにいるの?」
「そこまでは私達が連れて行くよ。問題は交渉方法だよね。これを渡すから、彼にあったらこれを渡して」
わたくしたちは黒帽子の男性の位置特定受信機、モキュさん、そして橙色の和服を切り取って作られているお守りを受け取りました。このお守りに何が入っているのか気になるところですが、さすがに中身を見るわけには参りません。
もしかすれば罠が入っている可能性も考えられなくありませんもの。
そしてミカロは狼さんの顔のペンダントを受け取りシオンさまに渡すよう告げられました。本来なら彼女であるわたくしが渡したいところですが、さすがに納得するほかありません。
そう言えばシオンさまの狼さんはどこに行ってしまわれたのでしょうか。わたくしの肩にいつもいたはずですのに......
「それにしても、どうしてShineさんはどうしてそこまでわたくしたちのことを支援してくれるのですか? シオンさまのことを知っていらっしゃるのですか?」
「それはシオン君が思い出すまでの秘密......」
わたくしはその真意を理解し口を開こうとしましたが、そのときには彼女の姿はなく、目の前にいたのは黒帽子の男性でした。
彼はわたくしたちに気づきましたが、決して動こうとはしませんでした。わたくしは剣を右手に彼に進みます。
「一体シオンさまに何をしたのですか?」
「気にすることはない。今君たちが憶えている別世界での記憶は本日の日没を持って消え去る。後には素晴らしい生活が君たちを歓迎するだろう。シオン・ユズキも納得のゆく、悪くない肩書きを残し、私は姿を消す。これで文句ないだろう?」
話を待つまでもない。そうして生まれた剣の衝撃波は彼を避けるように左へと逸れ、奇襲は失敗を告げた。シオンさまのためなどとんでもない。彼は思うがまま世界を、考えを動かそうとする不届き者。そんな人物にシオンさまの運命を左右されるなんて許せるわけがない。
「本当にそうだとお思いでいらっしゃいますか? シオンさまの意思が入っていない世界が彼を救うと?」
「なぜ彼の希望を取り入れなければならない? 世界は広い。100人の願いすべてが叶うことなど決してあり得ない。ならば、どれかを取捨選択するほかないのは当然だろう?」
彼が言うことにはいくつか納得のいくものがあります。けれど、人がどうこうしてよい環境を越えたものを彼が操ったことによって、わたくしたちがいらない戦いに巻き込まれていることもまた事実。
わたくしは彼に一歩近づき剣を振り下げようとした瞬間、彼は手から新たな青い玉を出現させました。まさかこれが本物。さすがの一言。あの瞬間疑わなかったわたくしが浅はかとしか思わずにはいられませんでした。
「ならば、試してみるといい。私は賭けには興味がある方だ。残された1時間でどこまでできるか、見せてもらおう。……まぁ、もう結果は見えているが」
彼の言葉、考えにはいくつか気になることがありますが、日没まで時間がありませんわ。わたくしは彼から青玉を奪い取りお守りを投げつけました。けれど、やはり疑問をなくさなければ動きに迷いが生じてしまう。そう考えたわたくしはその場から動きませんでした。
「これで文句ないだろう? さぁ行け」
「どうしてあなたは抵抗もなく、わたくしたちに記憶を渡してくれたのですか?」
「納得がいかない、ってところか? 確かにそうだろう。キミの言葉はごもっともだ。けど考える暇などキミに与えられてはいない。さっさと行きたまえ」
仕方なくわたくしは彼の言うことに従う他ありませんでした。ここの位置はピントレスのすぐ隣の町、ヴィアスィンド。船に乗れればすぐにシオンさまに......
ミカロの後ろを見たとき、わたくしたちの意識は別のものへと集中させられました。先ほど出会った桃髪の方。全身をローブで覆い、そこから黒い風のようなものが流れ出ている方。銀髪の両手に光を放っている女性。そして赤髪の彼女。
不安がありますが、わたくしたちがそれを思っている時間すら与えてはもらえないようですわ。
「リラーシアさん、どうしてわたくしたちを追おうとするのですか? いったい何が起こっているのですか?」
「あなたが知る必要はありません。おとなしく私達とともに来なさい。さもなくば、強硬手段に出るだけです。全ての人員があなた方を狙います」
「リラ、悪いけど私達は従わないから!」
その瞬間剣がわたくしたちの目の前に姿を現しました。けれどそれは4人が放ったものではありませんでした。モキュさんはわたくしたちを包むと、そこには大きな衝撃波とともに光が放たれました。そしてそこには黒のボディスーツ。まさかと疑ったとき、そこには憂いがあった。
「まさか戦うことになるなんて思いもしなかったよ、リラーシアちゃん」
「不愉快です。誰かは知りえませんが排除することに変わりはありません」
「そっか。それでこそ敵らしいよ。いくよリーム!」
その瞬間モキュさんは姿を変え、目の前にShineさんと同じ慎重の両手に桃色の綿の付いた拳を構える、動きやすい桃色のボディスーツに身を包んだ女性の姿がありました。
その姿はどこか誰かと似ていて、何より頼りがいがおありでした。煌びやかで明るく温かくわたくしたちを包んでくれるような感覚。そう、シオンさまが目の前にいるような感覚にわたくしたちは魅了されていたのです。
「こうなったらもう時間がない。シオン君の記憶を戻すのはミカロちゃんに任せるよ」
「私!?」
「星霊の力を借りればできないことなんてないからね。私達も行きたいところだけど、そうはさせてもらえないみたいだから」
彼女の意見は間違っていませんでした。ミカロであれば最悪シオンさまを騙してでも彼に容易に近づくことができます。それはわたくしも一緒ですが、彼女の星霊の力をもってすれば、シオンさまの元へと向かうのは難しいことではないでしょう。
ミカロは両手に力を込めわたくしたちにうなずき鍵を手に取りました。本当なら是が非でもわたくしがシオンさまのために尽くしたいところですが、ここは影ながらに応援するほかありませんわね。
お譲りいたします。今回だけは。けれどこれが終わったとき、例えシオンさまが憶えていなかったとしても、ミカロには真実を告げましょう。彼女の勇気に浮かび上がる眉を見てそう思いました。
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