第69話
「どうやら動きに特化しているようだな」
「……」
沈黙か。それが一番厄介だ。たいていの敵は自分をどう話すかで能力の詳細が理解できたりする。残酷な言葉を発せばたいていは斬撃の系統。高揚の様子があれば打撃だったりする。
が、無言であればそれは防げてしまう。困ったことにこの場合俺に近いパターンとなる。そしてそれは構えた双剣によって消えた。
距離を取ろうと後退する。森の中では姿が判断しにくい、そう思った矢先に俺の頬は血を流した。
「次は逃さん」
「こっちの台詞だ。森を誘ったのが自分だけだと思ったか?」
彼女の足元は光輝き周囲を青い結界が覆った。そして用意した銃撃砲。一斉に攻撃を指示する。が、あまり効果があるようには見えんな。
弾丸は残念ながら2倍に増えていた。これでは埒が明かない。あの熱血漢の言い続けてきたことを今更初めてすることになるとは、絶対に公言したくない。間違いなく3カ月はからかわれることになるからな。
銃を構え敵に突き付ける。動きに変化は見られなかった。
「攻撃が単調。そんなもの誰でも避けられる」
「知っている。だからこそお前は俺に捕まる」
彼女の足を鎖がつなぎとめる。その瞬間に俺はこめかみに銃を突き付けた。彼女はこちらを睨む。
作戦勝ちだ。いくら実力が高くとも、できることが多くとも、結果として頭に武器を構えられた者が勝利する。例えそれが卑怯であっても敗者に語る資格はないのだから。
「何か言い残すことはあるか?」
「……ふっ」
不敵な音と共に姿を消した。反撃の様子は見られない。逃げられたか。シオンたちと合流して確認するほかに手段はなかった。
★☆★
私は彼女のためにも爆弾を起動させた。シオンに恨まれようが気にしない。私達はクエスターだ。一般人に比べて様々なことが実現する確率の方がずっと低い。
影は光に姿を変え、血と共に黒い灰が空を舞った。
私はその瞬間膝を地に着けた。情けない。こんなのは勝利じゃない。わかっていた。けれどこれ以外どうしようもなかった。彼女は初めから理解していたのかもしれない。自分の死を覚悟していたのかもしれない。
それを冗談交じりのあの笑顔で言ってのけた。少し馬鹿っぽかったけど気にしない。
それよりも邪魔なのは、目から流れる水。小刻みに視界を濁らせて狙いが定まらない。止まれ。止まれ......
流れが止まることはなかった。
「……シオンは私を殺そうとするだろうね。そしたらクエスターは辞めよう。私にできる罪滅ぼしはそれくらいしかない」
「ずいぶんとわかりやすい対処の仕方じゃん。実は前から考えてた?」
「よくわかってるじゃない。ホント......」
銀髪の髪。背中の扇。不思議と腹が立たない笑顔。
彼女は私の隣にいた。
「どうやって戻ってきたの?」
「ボクたちのおかげだよ~」
「うんうん、そうだよ~」
人形のような小さな生き物が浮いている。これは……星霊?
「ジェミノの変身能力を使ったのよ。いざというとき相手を引き付けるのにすごく便利だと思って......」
「なら初めからそういいなさいよ! どれだけ心配した......何でもない」
「まぁ本当は言おうか迷ったんだけど、気になってたんだよね。アスタロトが私を信頼してくれてるのかどうか。さっきの言葉とその顔だけで十分わかったよ。ありがとう、アスタロト」
彼女も涙を浮かべた。ちょっと勘弁しなさいよ。私のまであふれだして、止まらなく......抑えられない......
私たちは互いに背中に手を回した。こんな姿を見たやつは確実に地獄に連れて行く。そう思った。
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