第67話
「ナクルスさん、加勢いたしますわ!」
「うれしいと言いたいところだが、エイビス、お前では無理だ。あの固い鱗に対してその刃こぼれした剣での攻撃では......」
「うるさいわね。誰がワタシの剣が1本だけって言ったのよ。召喚、金剛刀」
わたくしの目の前には金に光る不思議な空間が現れ、硬さを誇っている様子の灰色の刀が姿を現しました。名前から察するに攻撃力に特化したものなのでしょうが、いったいどれほどの力を秘めているのか、気にならずにはいられませんですわ。
とはいえ今の段階で重さが時に問題となっているわたくしにそのようなものを持つことができるのか、と聞かれればいささか疑問ですが。
「それでなんとかなるものなのか?」
「召喚能力をなめるんじゃないわよ。これでも結構珍しい部類の星なのよ? これ以上なめたこと言ったら、あんたも攻撃対象にみなすわよ?」
「相変わらず笑えない冗談だな。だが、それは俺が倒れてからにしてもらおう」
彼は駆け出し魚人の敵へと向かってゆきました。本来であれば反対するのが常。けれどなぜかわたくしの目線は一向に動く気配がありませんでした。これは、もしや......いえなんでもありませんわ。きっとわたくしの思い違いにほかなりません。
ナクルスさんは火を灯しては消され、灯しては......を繰り返していました。けれど、彼の手に絡まった水は消えることはなく、わたくしは足を進めたい気持ちでいっぱいでした。
「悪りぃな兄ちゃん。お前の攻撃、ちっとも痛くねぇんだよっ!」
「くっ......」
頭突きの一撃をくらった彼を見て、ワタシは足を上げた。重さゆえに引きずるほかない金剛刀を見て、奴は顔色を変え、頬を赤くした。喜んでいる顔。切り刻んでやりたい。
彼はワタシの道に手を出し邪魔をする。頭から血が出ている。これだけでも十分に種族の違いがわかったはず。一筋縄ではいかない。これは決闘じゃない。勝たなきゃ何も変えられない運命を賭けた生死の戦いなんだよ。
けれど彼の顔は変わらなかった。正直無理にでも前に出たいところだけど、あの動きの俊敏さ。たぶん金剛刀じゃ一撃託生になる。まだナクルスの方が勝機が見えていた。
「まだ立つのかい兄ちゃん? いくら彼女にかっこいいとこ見せようたって、俺の水に捕らわれたその拳じゃどうにもなんねぇだろ?」
「聞いたことがあるか? 時には自らの力を封印することも、大切だと」
「なんだそりゃ? 教訓が大切なのはわかったが、そりゃ本末転倒ってやつじゃねぇのか?」
確かに魚人の言っていることは嫌でも納得できてしまう。今まで自分の長所としていたもの、もう1人のわたしで言えば医療や戦術にあたるものをなくして、貢献しようと考えるようなものだ。はっきり言ってまだまだ判断は遅いしほかにできることといえば裁縫や紅茶をうまく注げることぐらい。
まさかそれで戦おうなんていうわけじゃないわよね? そんなことしたら速攻でやられるなんてレベルじゃ......
彼の姿を見たとき、ワタシの考えは消し飛んだ。それは綺麗な水晶を見にまとった姿に変わっていた。要するに引用ってことね。言葉通りに受け取ったワタシがバカだったわ。
「ほう? その姿を隠していたのか? もったいねぇことは嫌いだぜ?」
「なら好きなだけ味わえばいい。これが俺の全りょ......」
これ以上見る必要はない。ワタシは彼女に出番を譲り、彼に背中を向けた。しょうがないでしょ。これ以上見ていたらなんだか気に食わないはずの遠い思い出がよみがえってしまうような予感がしたのだから。
……素敵なことだと思いますわ。やっぱりわたくしたちはどこか似ている。そう考えずにはいられませんの。なんといっても同じ身体の中で生活しているのですから、当然と言われればそうかもしれません。
彼女のことを深く知れたような気がして満足であり、何より彼の迷わぬ攻撃に思わず見とれていました。
魚人を氷漬けにし、そのスキに攻撃を加えてゆく。氷は朱色に染まり、存在の強さを見せつける。もしシオンさまやミカロがいれば、それに夢中になっていたのは言うまでもないでしょう。
美しく言うのであれば、芸術の言葉もふさわしい気がいたしました。
「白錬氷乱舞!」
敵は倒れわたくしたちは手を合わせます。けれどもわたくしは動こうとはしませんでした。実は刀の重さで動きに支障が出てしまうこと、何より元凶のこの金剛刀の収納方法のわかっていないことだけは絶対に彼に知られるわけには参りませんでした。
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