第62話
ヒラユギさんを1本の鎖が貫いた。シオンさまを建物に寄りかからせ敵に斬りかかる。鎖を別の建物に付け逃げ出す。やはりまだ敵がいましたの。狙いは一体なんですの? さっきまでの敵とは明らかに身なりの違う柔らかな感触が見ていて伝わって来る常。金髪の女の子。まさか......いえそんなはずありませんわ。
彼女の鎖を裁ち彼女を解放し、敵の元へと向かいます。
「エイビズッ! 1人で戦おうとするな! 余も戦......」
「ヒラユギさんはそこで待っていてください! シオンさまをお願いいたします!」
彼女に近づき剣を構える。逃げる。戦いが始まらない。これが彼女の戦いかた? 1人でするには面倒ですわね。シオンさまならどうするでしょうか。まずは距離を詰めてその先は......予測!
「爽天凛磁!」
わたくしの直感が彼女へと重なり合う道を選ぶ。水をまとい勢いが弾ける。
「私の邪魔しないでよ!」
「あなたはシオンさまの何なのですか!」
「ふふん、婚約者よ! これで文句ない......」
シオンさまはそんなこと一言もおっしゃってはくださらなかった。ということはこの方は“恋敵”ということですか。シオンさまもこんな方がいるなら紹介してくださってくれればうれしかったですのに。
「そうですわね。おかげで手加減をする必要が省けましたわ。感謝いたしますわ。さて、全てを捨てる覚悟があなたにはおありですか?」
「ハミー怒ったよ! 絶対に倒すだけじゃ許さないんだから!」
彼女はわたくしを鎖のボールで包み込む。けれどそれでは意味がない。わたくしの剣は心と同じ。誰かのために使うのなら何倍にも膨れ上がる。わたくしの自信が、シオンさまの言葉が乗ったこの剣なら一撃で斬ることも余裕でした。
南京錠の形。足を絡めとる戦い方。なんて鎖の量。もしやこの町全体を囲むことも叶うのでは? さすがシオンさまと関わっている方。敵ながら能力が恐ろしいですわ。思わず納得してしまいます。
けれどこちらも負けてはいられません。一撃で仕留めないと後が怖いですわね。
「エイビス!」
ヒラユギさんの声。彼女はわたくしを見ていない。シオンさま!
彼はわたくしと同じように鎖の中に包まれた。中から紫色の光。ヒラユギさんが中に。不安が消えませんの。わたくしでも自由になるのに簡単だったはずなのに2人が出てこない。距離を詰めようとすると、彼女はわたくしを離そうとはしなかった。
「ハミーと遊んでくれてありがとう。彼はもらっていくね」
「そんなことはさせませんの! シオンさまはわたくしの想人ですから」
「そんなのしーらないっ!」
「論争はどちらでもよい。エイビス、おぬしに任せる」
飛び上がる紫の光。剣に緑の光がともります。シオンさま、情けないわたくしで申し訳ありません。けれどわたくしは屈しません。例えあなたが囚われることになったとしても。
「翔覇螺旋!」
「あ」
鎖の彼女は姿を消した。わたくしの目の前に見えたのは最後まで残った高塔。わたくしは勢いのまま突き進みます。謝罪を心の中で10度込めて。
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目の前に紫色の髪が映る。どこだここは......
エイビス! 彼女はどこだ!
「やっと起きたのか。快適な眠りじゃったか?」
「傷だらけじゃないですか! いったい何が......」
彼女は横に寝そべり目を閉じる。そんな......
ふざけるな! まだ希望はある! 僕は5本の回復薬の蓋を開きすべてを彼女の口にねじ込む。入れ! 入れ! 入れ!
彼女は飛び上がり僕の薬を全て地に投げた。
「カハッ......馬鹿者! 殺す気か!」
「え、大丈夫なんですか?」
「当り前じゃ! ただ疲れただけじゃ!」
「す、すみません! 僕の......」
僕の目の前には緑髪の彼女がいた。彼女は僕に飛び込んだかと思えば顔を涙で埋めていた。僕には目を逸らすことしかできなかった。
「もう、あのようなことなさいでくださいまし......わたくしたちのために何もかもを犠牲にしないで下さ......」
僕は彼女に胸で答えた。彼女は手を僕の背中に置く。ヒラユギには少し大人的だったけれど、僕は涙の止まらないエイビスを泣き止むまで撫で続けた。けれど、僕は彼女の涙の意味が理解できずにいた。
足音。まさかまだ敵が......
そこには僕たちの希望があった。何かに苛立ちを覚えている様子の銀髪の彼女が僕たちのことを見つめていた。
「ちょっとこれどういう状況?」
「いつもの光景だろ、何ら変わらない」
「ずいぶんぶっ壊してくれたわね。町の人、クエスターを断らなきゃいいけど、それは無理そうね」
「いろいろ説明します。とりあえず小屋に戻りましょうか」
ナクルスとフォメアは万が一のためにミカロとシェトランテさんを呼んだのだという。本当はリラーシアさんを呼びたかったのだけれど、シェトランテさんが乗り出しおまけに内緒にしていたミカロまで呼んでしまったのだという。
それにもう1人銀髪に煙草を咥えた身長の低い男性。何者か知らないけれどあまり好きになれる気がしない。変なニオイは嫌いだ。
抱き着いている僕とエイビスを見た瞬間、ミカロの時間はまるで止まっているように見えた。僕は彼女から目を逸らし一息つく。
これは鉄拳コースだ。トイレから出たくなかった。
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