第47話
俺はフローと一緒にミカロの父親のいる場所を目指し、手をつなぎ振りながら歩く。
まぁここにいるわけだからこいつはさっきの鎖のやつとかの仲間だろうけど、別にだましちゃいねぇ。
こっちに電話をかけてきたのはミカロの父親だしな。
それがどうしてこんな面倒くさいことになっている。正直早くミカロを探さねぇとそれなりにやばくねぇか?
つってもここのやつはフロー以外、話を聞いてくれないからしかたねぇか。はぁ。
「ため息をつくと、幸せが逃げていっちゃうよ?」
「そうだな!
優しいなお前は」
「えへへ~」
俺はフローに勇気づけられ彼女の頭を撫でてやった。
フローは誕生日パーティーみてぇな、よっぽどうれしいことがあったときみたいな嬉しそうな表情を俺に見せる。
そうだ、あいつらがおかしい。
やって来た途端に鎖に縛り付けるわ、人のことを蹴り飛ばすわと散々だ。
決めた。次にあいつらに会って攻撃して来たら立てねぇくらいに戦ってやる。
空回りなんていうのはごめんだ。なんでミカロが何年たっても家に帰ることがなかったのか、分かる気がする。
「難しい顔してどうしたの?」
「いやなんでもねぇよ。ちょっとつまんねぇ考え事してたら、輪っかで頭を絞められているてぇな気がしてよ」
「ふーん。よくわかんないけどつまんないのはよくわかった」
フローは俺に向かって頬を膨らませ、そのつまらなくて退屈な表情を俺にわかるように見せつける。
まぁ仕方ねぇか、こいつはまだまだ子供だしそもそも戦うこと自体おかしい。
こいつが戦わなきゃいけない理由でもあるのか?
俺は家のど真ん中に位置する部屋へと、壁で敵がいないのを確認してからここの部屋に戻った。
エイビスにいろいろ戦術を嫌というほど叩き込まれたけど、なんだかんだ役に立つものだな。
正直誰と戦っても、対等以上に渡り合えるようになりてぇくらいだけど今回は制限時間が間に合いそうにねぇ。
要所だけで戦って、無駄な戦いは避けるか。
「お前のご主人様はどこにいるんだフロー?」
俺は階段を見てフローに確認してもらう。
まぁ偉いやつは基本的には上にいるものだ。クエストのときは99%ぐらいで当たる。
悪魔のやつも、狩人のときもそうだった。
今回もきっとそうだろう。
するとフローは俺から右手を離し、人差し指を上にあげて空を指差す。
やっぱり俺の勘はだいたい当たる。
「この上だよ。いつも実験をしてたり本を読んだり私と遊んでくれたりもするの。
風に乗ってびゅびゅ~んと飛ぶの!
ファイスもやってみる?」
フローはミカロの父親のことを聞いて、目を輝かせ首を何度も左に右に傾げて俺に無理難題を要求してきた。
びゅびゅーんって気が付いた時には雲の上だった、とかは勘弁だ。
そんなことをやったら、間違いなく敵に俺の居場所を教えることになっちまうし。
俺はフローの頭をまた撫ででやる。
「また今度な。そんときは絶対遊んでやっからよ」
けど今度のフローの顔はあまりきれいな星空を見て楽しんでいるような顔ではなく、気分の悪いウソをつかれたことがわかったときのような顔をしていた。
「……その言葉キライ。みんないつもそんなこと言うけど、一回も遊んでくれたことないもん。
パパはみんなとは違うけど」
「ほーそうなのか。んぁ!? 今パパって言ったか!?」
俺はフローの言葉の意味に気が付き、つないでいた手を離して腕を飛び上がらせた。
フローは俺の行動に驚き、何度も目をぱちくりして俺を見つめてくる。
ぱぱ?
ってことならこいつはミカロの妹、ってことに......
でもあんまり外見が似てねぇな。
胸はまだわかんねぇけど、髪は青いし、目がミカロと同じように黄色いわけじゃねぇ。
ってことはミカロの親のどっちかが銀で、どっちかが青ってことなのか?
「どうしたのファイス?」
「い、いやなんでもねぇよ。ま、俺は約束を守る主義だからそんなに心配すんな。
ミカロ以上に自信はあるからよ」
フローは俺の言葉を聞くと、両手を互いの指が交わるように握り目を輝かせて俺のことを見つめる。
憧れの眼差しか。そういや俺も小さいときにこんなことがあったなー。
まぁそれはともかくとして早く上に――
その瞬間、フローは俺に抱き着き飛び上がりながら口を開く。
「お嬢様を知ってるの?
会わせて、会わせて!」
フローは目を中に宝石があるみてぇに、キラキラ輝かせて辺りを飛び回り俺の元へと戻ってきた。
はしゃいでいるみてぇだな。そりゃそうか。
まだこんなに小せぇときに姉がいねぇってのは寂しいものだしな。
にしてもミカロはどんな教え方してやがんだよ。
“お嬢様”って......
エイビスの一つ覚えじゃねぇんだからよ。
「まぁ後で会わせてやるよ。とりあえずは上に行こうぜ」
「約束だよ!」
「おう!」
フローは届かない身長をつま先立ちで埋め、俺の目の前に小指を突き出した。
俺もその意味を理解して同じように小指を出す。
心配するな、俺が、俺たちがお前のおねぇちゃんを見つけ出してやるよ。
そう心の中で約束した。
フローは飛び跳ねながら階段を登り始めた。
こけちまわねぇか少し心配だけど、うれしいときは仕方ねぇ。
それに子供のころはなんだって楽しいときが良い。
……俺みたいなのは勘弁だからな。
「お嬢様が戻ってくーる! お嬢様が戻ってくーるっ!
びゅんびゅんびゅーん!」
飛んで、飛んで、飛んで、回る。
フローはそれを繰り返して疲れる様子もなく階段を上っていく。
そのときのミカロと遊んでいるときがよっぽど楽しかったのだろうな。
ま、今のあの乱暴なアイツを素直にフローが喜ぶかどうかはわかんねぇけど。
俺たちは2階にたどりつき、その上にも階段があることが分かった。
そんでもって俺には価値があるのかよくわかんねぇ絵が、いくつも壁に取り付けられていた。
バラを持った女とか、ひまわりの書かれている瓶とかがあるけど、俺には何も浮かばねぇ。
……苦手だな。
フローは絵を見る俺を気にすることなく、さっきの歌を歌いながら踊り同じ場所を何度も往復していた。
こんな絵にかまっている場合じゃないな。
「よしフロー、上に――」
俺がフローに次の指示を出そうとした瞬間、後ろに何か異変を感じた。
フローの歌も消え、そこには奥から聞こえてくる靴の擦れる音だけが流れた。
もしかしてフローも戦えるのか?
いや、俺より小さいあいつに無理はさせられねぇ。
最悪2人でも俺はフローを下がらせて戦おう。
俺の予想通り、そこには赤メガネと青メガネが現れた。
まったくしょうがねぇ奴らだ。今度はイチャつきを見せるのは勘弁しろよ。
赤メガネは俺の姿を見るなり、男の背中に隠れて顔を赤くして俺のことを睨む。
……だから俺はお前になんか興味ねぇって。
青メガネは男らしく彼女の肩を右手で触れ、守っている雰囲気を俺たちに見せる。
はぁ。
「さすがに生きていたか。シェルヴィッツェルは1度の過ちであれば許しをくれる寛大な女性だからな」
青メガネは後ろにいる女を見て俺を左手の人差し指で指差し、カッコつけるようにそう言った。
勘弁しろよ。これ絶対さっきみたいなことをやるパターンだろ。
「ベルセイム~! そうなの!
といっても本当はあなたの鎖が壊れないようにするためだったの。
そのせいで、敵は戻ってきてしまったわ。
ごめんなさい」
赤メガネは俺がドン引きするほど両手を頬に置いて、わかりきったように何度も頭を左右に振り、可愛い子ぶった。
俺はいまにもここから離れたかったが、ここは仕方ねぇ。
やるか。
「フロー、お前は下がって......ろ」
そのとき俺は気が付いてしまった。フローに今の状況を見せてしまったことに。
「シェルヴィッツエルにベルセイム。こんなところで何してるの?」
「フロー! こっちに戻っていらっしゃい!
その男はあなたを誘惑しようとしているのよ!
私に我慢できずフローを誘惑するなんて、おぞましい。こっ、このロリコンが!」
「俺にそんな趣味はねーよ! ざっけんな!」
赤メガネは言葉を震わせながら青メガネの後ろに隠れて、俺のことを指差し睨みつけた。
ったくどんな考え方したらそんなのになんだよ。
けど、それを聞くとフローは顔を下げたまま、俺の方に顔を見せようとはしなかった。
そりゃそうだよな。騙されているとわかったら俺でも怒る。
年齢が上とか下とかは関係ねぇ。誰だってそれは同じだ。
赤メガネが手を震わせてフローの見えるように手を差し伸べる。
「さ、さぁフロー? 早くこっちに来てそこの誘惑魔をめっ、滅しましょう」
「そうだよフロー。それがご主人様の願いなのだからね」
2人はフローに向けて手を差し伸べる。
その前に俺が決着をつけてやる。そうすれば俺にとってはどっちでも変わらない。
売られたケンカは買うほかねぇからな。
俺は飛び上がり右手を振り上げ力を込める。
「巨人の拳!」
俺の攻撃は、青メガネが赤メガネの手を取ってたやすく後ろに飛びかわす。
赤メガネは何とかなるとはいえ、やっぱり青メガネはそう簡単にはいかねぇか。
「蛇流鎖!」
青メガネの言葉とともにそいつの右手の袖から鎖が飛び出す。
避けてもかわしても自分から攻撃を仕掛けてくる。
まさに蛇ってとこか。それなら!
「巨人の地響き!」
俺の拳のエネルギーを地面に放出し、赤メガネと青メガネの注意を奪い、蛇は揺れに動揺して動きを止めた。
その間に蛇を絡みつくようにお見舞いしてやる。
「一緒にいるのが好きなんだろ?
これでも喰らっとけよっ!」
俺の投げた3体の蛇は互いに絡みつくように、2人の身体を動き回った。
そしてなにより、3体合わさってより大きな1体となって姿を変えた。
「よっしゃ俺の――」
俺がガッツポーズをしようとした矢先、俺は絵よりも上にある壁へと突き飛ばされた。
俺は予感的に後ろを見たが、そこにはさっきと変わらない状態、姿のままのフローがいた。
俺の右足を見ると、そこには鉄の――
「ぐふっ......」
「確かに君のやってくれた攻撃は悪いものではなかった。
けれど彼らは僕の指示を受けて動いているんだ。解くのなんてわけないさ」
俺は地面に何度かたたきつけられ、今度は両手が鎖につながれる。
何度か両手に力を込めて、鎖を引きちぎってやろうかと思ったけれど、まったく俺の力が通用しない。
くそっ、またあんな面倒くさい光景、俺は見たくねぇんだよ。
自分が何もできないままただ蹴られるだけなんてなぁ!
「くっ......」
ちっ、シオンやエイビスならたたき斬れたりするのだろうな。
全く持って情けねぇ。こんなところで終わりたくねぇのによ。
後でフローの怒りの分も待っているわけだぜ? 耐えられんのかよ?
「フロー、最後はキミに任せるよ。
何があったかは知らないけれど、君をだましたということには変わらない。
その罪な男には絶望が一番効果的さ」
「……わかった」
「うん、それでいい」
「砂散烈風!」
フローの砂嵐の風が部屋を包む。
そのとき俺は体が浮かび上がるような感覚がした。
そりゃ怒るか、今までほんの少しとはいえ俺はお前をだましたわけだからな。
謝りはしねぇ。ただ1つあるとすりゃ、お前の笑顔は見ていて悪くなかったってとこだな......
俺はそのまま目を閉じてうなずいた。どんなことになっていてもメンバーが助けてくれる。
そう信じているからな......