第46話
「華暁蓮華・腐瑠薊!」
「よっと」
薊ってやつは輝きを両足に移動させないと発動できない灰色の輝きを放つ技。
喰らってしまえばかなりの致命傷だけど、そこを避けて腕の方を突けば自分から後ろに下がってくれる。
癖っていうのは本当に恐ろしいものだわ。録画でもしていて初めて気づくことだけれど、意外と自分たちは何度も同じ動きしかしていない。
それが頭にとっては正義であり、それ以外の行動は悪としている。
だから初めての動きは誰もが失敗する。それを悪と勝手に判断している自分がいるから。
いくら力が強くても、戦略でなら何度でもひっくり返せる。
そこが考えの恐ろしいところね。
桃色髪は入り口へと下がり、輝きを両手に戻す。
さっきまでとは違う。もしかしてワタシたちが時間稼ぎをしていることに気が付いた?
……まぁ信じなくもない行動をしていたし、ナクルスにも作戦を教えちゃったせいで彼も動きをあまり見せなくなっちゃったし仕方ないわね。
「華暁蓮華......」
また彼女は右足に紫色の輝きを見せる。
まだバレしまってはいないみたい。よかった。
「倶照蘭!」
ワタシは前へと歩きだし、しゃが――
その瞬間、ワタシには黄色の光が見えた。
「転光・破障菊!」
気が付いたときにはワタシは左上の柱にたたきつけられていた。あんな一瞬で攻撃方法を変えてきた。次の攻撃を避けられるかどうかも怪しい。……どうやら勝ちをもぎ取らなきゃいけないみたいね。
「自分の攻撃を見破られていることにやっと気が付いたか、カキョウ」
「もとよりそれは理解していた。けれどそれは相手方がそれを好機に攻め込んでくると思ったが故。
けれど我がこのような仕打ちを受けたのは初めてだ!」
カキョウが輝く両手に力を入れると、輝きは色を桃から黒炎色に変え、周りの大地を粉砕した。
彼女の目を見る必要なんてない。ここからは全力でいかないとここから出られるかどうかもわからない。
それぐらい、アイツの目は赤く光りワタシたちを睨みつけていた。
「我が蓮華流の名のもとに後悔するがいい。
奧華蓮華・夜覇椿!」
その言葉を放った瞬間、ワタシたちの目の前は真っ暗になった。
ワタシは剣を握り態勢を立てなお――
つっ!
さっきのキズが......
「やめておけ。今のお前のキズでは無理だ。ここは俺がガードする。そのスキを狙え」
まったく、ワタシは何やっているんだか。回復薬を飲み干し、態勢を整える。
やつがどこから来ているかなんてわからない。とりあえずここはカキョウってやつのさっきまでいたところに刀を構え、感覚に頼るしかなかい。
「バカ言ってんじゃないわよ。そんないつ途絶えるかもわからない炎に頼っていられるわけないでしょ。男らしさ見せる前に、自分の炎をちゃんと維持してみせるようにしなさいよ」
「ふっ、そんなことはだいぶ前から努力している」
ナクルスの言葉に思わずワタシも心の中で笑ってしまう。どうしてだろう。彼が誰かに似ているような気がする。
けれどそれだけでなく新鮮な部分もある。こんな楽しい気持ちになったのはいつ以来だろう。
不思議と相手のいる場所もわかるような......
「奧華蓮華・天椿!」
ワタシが剣を空へと放った瞬間、目の前が光り輝いていく。
闇が消え、カキョウの白い着物が赤く染まっていくのが見える。
そして見える。赤い不思議な紋章のようなものがワタシたちを囲んでいる。
初めから勝てるなんて思ってはいない。
だからワタシは両手を掲げてそれを待ち受けた。
来い。全部受け切ってやる。
それが武士としての礼儀であり、マナーでもある。
「芽燃転済!」
その瞬間、ナクルスが炎を巧みに両足で操り、紋章全てを炎の中へと囲む。炎は爆発とともに、巨大化し姿を消す。
ナクルスは地に背をつきため息をつく。ワタシは彼の元に駆け寄った。
「まったく余計な世話ばっかりしてくるわね、ナクルスは。……ま、そこまで気にしちゃいないけど」
「すまない。どうやら今日はもう時間切れのようだ」
「別に謝んなくていいわよ。アンタは半分病人みたいなものだしね。
終わったときにはちゃんと立てるくらいにしときなさいよ。
運ぶの面倒くさいから」
「ああ。そうしておこう......」
どうしてだろう。思わず笑いがワタシの中からこぼれだす。
こんなもの、もういらないと思っていたのに。もう必要のないものだと思っていたのに。
疲れてもいないのに壁に寄り添いたくなる。
この気持ちはなんだろう。
……熱さのせいで疲れたかな?
とりあえずここからは隠密行動で動くとするわ。
『了解ですわ!』
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わたくしは星の輝きを解除し、シオンさまの向かわれた上の階へと向かいます。
彼女はもう1人の敵がいたことを忘れていたので少し心配だったのですが、わたくしが周りを見たときには、わたくしを除いては立ち上がっておられる方はいらっしゃいませんでした。
せっかく綺麗な玄関でしたのに、こんなにタイルの下にあるコンクリートが見えるまで攻撃する必要はなかったのではありませんか?
『仕方なかったのよ。そもそもそんな余裕、ワタシにはなかったしね』
ものは言いようですが、“相手を確実に倒すため“という良い意味として受け取っておきましょう。
ナクルスさんとカキョウさんのキズを治療してからわたくしは1階の玄関の左側へと柱や壁などの敵の死角を利用して移動することにいたしました。
1人で動くのは幾分久しぶりですわ。
星女狩りにさらわれる前以来ですから、見つかってしまうのではないかと少し心配ですが、ミカロのお父様のお部屋へと慎重に向かいましょう。
シオンさまと同じ道を通れば簡単に上には行けますが、きっと誰かが待ち構えていますでしょう。ですので、わたくしは他の階段を探すことにいたしました。
わたくしは左端の廊下を歩き、真ん中に位置するお部屋へと参りました。
そこにいらっしゃったのは敵によって鎖を結び付けられ、動きを封じられてしまったファイスさん。
助けに向かいたい、と言いたいところですが、彼女の判断、“他のメンバーを犠牲にしてでも誰かがミカロのお父様のお部屋へとたどり着かねばならない”それに残念ながらわたくしの未熟さゆえ、彼を助けることはできませんでした。
ファイスさんは女性に勢いよく蹴飛ばされ、窓の彼方方向へと飛んでいきました。
必ず助けに戻ります、ファイスさん。
回復薬を飲み忘れないでくださいね。
わたくしは彼を外に追いやった2人組がその場から離れたのを確認すると、階段で上の階へと向かいました。
シオンさまがもうすでにたどり着いているといいのですが、もしや......
いえ、そんなことありませんわ! シオンさまならきっと成し遂げてくださいます!
それにしても、ファイスさんはなんというか結構能天気でいらしている気がするのですよね。
以前、彼に戦略を学んでもらっていたときは非常に困りましたわ。
途中で勝手にお休みになってしまわれますし、わたくしにいきなり抱き着いておられたかと思いきや、実は我慢できず眠ってしまわれたこともありましたし......
素直に“休みたい”、“また明日にしてほしい”そういってくださればわたくしもそこまで厳しく構成しませんのに......
それが男性としてのわたくし、ということなのでしょうか。
これは少し自分を修正していく必要がありますわ。とはいってもそれをしてしまうとむしろ甘くなってしまって本末転倒ですし......
困りましたわー。
わたくしが1人自分の性格をどうしていくべきか考えていたそのときには、わたくしはもう既に最上階、3階へと訪れてしまっていました。
現在の段階で6人の敵。当然偉い人には必ず1人は護衛をつけているでしょうから、このまま突き進んでも戦うしかないでしょう。
ここはメイドさんに変装させていただいて、敵がスキを見せたときに奇襲攻撃を仕掛けるとしましょう。
これだけ大きなお屋敷ですから、きっと10人や20人はいるに違いありません。
それだけいれば顔も覚えてはいらっしゃらないでしょうし、それで問題ありませんか?
『まぁ悪くないんじゃない?
そのメイド服があれば、だけど』
問題はそこなのですよね。
ちょうど洗濯に出したりしていればよいのですが......
わたくしは各部屋を確認し、ようやく洋服箪笥らしきものを発見いたしました。
わたくしが服を着替えようとした矢先、扉は勢いよく開き、光を放ちました。
そこにはわたくしの尊敬、お慕い申しているシオンさまがいらっしゃいました。
わ、わたくしの素肌の背中を見ながら......