第45話
「ついうっかりしておった。弓は果実や木の実を取るのには便利じゃったが、戦うには不利じゃった。やはり戦いは素手に限るな」
おじいさんは拳を構え、僕の倒し方を見定めていっているように見える。
素手で挑むのならいいだろう。僕も鉾で全力をぶつけるだけだ。
彼は眉間に力を入れ、僕の元へと飛び出す。
「ウェポンライト!」
「ぬぐっ!」
彼の目を塞ぎガードががら空きの状態になった瞬間、僕は飛び上がり鉾を空に掲げる。
横に1振り、2振り、ラストに縦に一撃っ!
「高速三連――
くっ!」
僕が最後の一撃を放とうとした瞬間、僕の鉾は動きを見せなかった。
僕の鉾の先には、神経がくっきりと浮かんだ細さの目立つ腕が煙の中から浮かびあがってきた。
「ぬるい攻撃に、力は宿らん。
本当攻撃っているのは、こういうのを言うの、だっ!」
「ぐっ!」
僕は鉾ごと勢いよく壁の奥に投げ飛ばされる。
中にあった本棚にぶつかり、本棚が倒れるのと同時に勢いよく本が僕に襲撃を開始する。
僕は本棚を飛び交い収まるまで、大きなガラスで電球を囲んでいるものを椅子に、待っていた。
音が収まると、僕はそこから飛び降り敵の姿を確認する。
……どうする。ただののんびりしたおじいさんかと思ったらそうでもない。
力は強く、ついでに言えば矢のコントロールは並大抵の実力でない。
アスタロトさんに紹介したい、そう言いたいところだけど、敵だからそれは置いておこう。
おじいさんは僕の無事そうな顔を見るなり、眉間に皺を寄せた。
「結構しぶといのぅ。嘘寝でもしてくれたなら、見逃しておいてやろうと思うたが、
そこまで立ち上がるのならそうできないくらいに、してやろう」
「僕はこんなところで眠っているわけにはいかないんです。
彼女のためにも、みんなのためにもここで止まっているわけにはいかないんですよ!」
「ほう、殊勝な心がけじゃ。とりあえず再起不能くらいで勘弁してやろう。
かかってこい」
彼に言われるまでもなく、僕は彼が口を開いた瞬間に彼の元へと飛びあがる。
彼は手でガードしようとしたみたいだけれど、僕の考えは少し違う。
彼の背中を取り、鉾が摩擦で火をまとう。
僕の炎なら持っている。ミカロへの執念ともいえる、熱いものが。
炎の勢いのままに、右、左、右クロス、左クロス。そして、頭に一撃っ! まるで暴れ狂う獅子のごとく、火は舞い敵を焼き尽くす!
「烈火獅子紋刃!」
僕は彼に背中を向け、階段に向かって一直線に走り出す。
制限時間も残り少ない。急いで向かおう。
星を解除するという手もあったけれど、星を解除したら敵の奇襲攻撃には対応できない。
そのままの状態で先に進もう。強制解除されてしまったら元も子もないけれど、今は進む以外考えない方がいい。
その方が幸せだ。
僕は鉄で作られた螺旋階段を見つけた。飛んだ方が早いかもしれない。 ど相手がまた奇襲攻撃をしてくるかもしれない。安全に歩いていこう。
僕が歩こうとしたとき、僕の右足は嫌に重たくなる感覚がした。
まさか......
「まだ吾輩は負けるわけにはいかんのだ。ご主人様の死ぬ時が吾輩の死ぬ時である」
「げっ!」
彼の執念にも似ている生への執着心に、僕は思わずとんでもない姿形をした虫の生き物を見たときのような顔をして彼に引いていた。
彼は生きているというよりむしろ生を欲しがっていた。
それほどに彼の手は、目は、顔は暴走し、普通とは違う動きをしていた。
「勘弁してくださいよっ!」
僕は彼に勢いよく鉾を振り落とす。
……ハァ。オバケでも出たのかと思ったくらいにびっくりした。
おじいさんは僕の一撃をまともにくらったからか、それともただ単に体力が衰えてしまってもう残っていないのか、動く様子を見せなかった。
僕はため息をついては気持ちを入れ替えて階段を1段1段登っていく。
もうここは3階だ。さっきの2回とは違い、誰かが立ち上がった状態で人差し指を指を指している銅像に、青い壁にかけられている数々の時計。
あまりそういうのには詳しくないけど、こんなに時計はいらない気がする。
それに少しずれているのも少し気になる。
ここにミカロのお父さんがいるはずだ。
早く探し出そう。仲間割れはもうたくさんだ。
僕は走り出し、中央の部屋に駆けていく。
一番偉い人がいるとすればここにいるはずだ。
よし、開けるぞっ!
僕が扉を開けたとき、そこには僕に背中の全てを見せてしまっている短緑髪に碧眼でエイビスよりも小さく、僕たちと変わらないくらい若い女性がいた。
彼女も僕がこの部屋に来たことに気が付き、僕の方へと振り向く。
ど、どうしよう。絶対に敵としてしか見られないよ、これ......
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ワタシはシオンと2手に分かれ、ナクルスとともに桜とキザ鎧を倒すことにしていた。
本当のところはワタシの方が隠密作戦においては、少し手慣れている。
今までにも正星議院に報酬難易度の高いわりに、やることは簡単な仕事をいくつもこなしてきた。
敵の本部に大型の爆弾をセットしたりとか、盗まれた宝石を戦うことなく奪ったりとか。
部類でいったらアサシンに近いやつね。
ま、盗むやつがいけないのよ。それくらい自分で買えっての。
ワタシはナクルスと背中を合わせ、敵に囲まれていた。……まぁ作戦だけど。
「ナクルス、あんたあの桜と対等に渡り合えそう?」
「……努力しよう。そちらも同系統の戦い方をした者と拳を交える方が手慣れているだろうからな」
「へー。よくわかっているじゃない。最適解過ぎる答えね」
まさかナクルスがそこまで答えるなんて、思ってもみなかった。
正直なところ、ワタシはミカロとシオンと同じ部屋に住んでいるせいかあの3人のことは戦い方しか知らない。
まぁ本当のところはそれだけで十分だけど、ワタシの能力を超える敵が出てきたときは別。
そのときは近くにいるメンバーを頼ることにもなる。
けれど頼れるか頼れないかを知っているだけで、そのときの時間は何倍にも短縮でき、戦い方を即決で変えられる。
だからこそこういう考えが伝わりやすいやつが、チームにいるとちょうどいい。
ミカロはなんだかんだ理由をつけて考えるから、結構苦手だしね。
ま、そこまで気にしてはいないけど。
「華暁蓮華・腐瑠薊!」
右手にあったはずの桃色の輝きを右足に移し、桃色はワタシたちに向かって飛びかかってきた。
もちろんワタシたちはその攻撃に対して腰を低くし、かわす。
けれどそのときには彼女はこちらを振り向き直し、左手を黄色に染めてワタシに向けていた。
「華暁蓮華・破障菊!」
危ない!
そう思って刀で守りの体制を取る。けれどシオンをガードした感覚でもう覚えている。
へたなガードをすれば、確実に剣は折れるということを。
「不死鳥の横殴!」
ワタシの目の前に炎のカーテンがかかる。
その勢いのままにワタシは炎を刀に宿し、目の前に向かって飛び出す。
「赤儛尽儀!」
目の前の仲間の行動に感謝し、全力でそれに答え舞う。すべてはワタシの忠義のために。
炎をまとった剣の一撃はアイツの和服を裂き、黒く染まる。
白い肌に赤い鮮血に染まるのとともに。
桜色はワタシの攻撃をくらいつつも、後ろにある階段に下がりすぐさま立ち上がって、右足の桜の輝きを右手に戻した。
それを負傷した左手に当てると、ほんの一瞬体が拒絶をすると、手が離れたときには出血が止まっていた。
まさか回復できる能力もあるなんて、どれだけ万能なのよ。星でいえばトップクラスでもおかしくないわよ。なんでそんな奴がこんなミカロの家で雇われているわけ? まぁそんなことはいいわ。今は戦いに集中ね。
『黒鎧の方は戦う桜色の方とわたくしたちを見ているだけで、まったく攻撃をしかけてきませんね。高見の見物、でしょうか?』
さぁね。ひょっとしたらあの桃色髪は勝敗にすごく厳しくて、勝敗数とかすごく気にするタイプじゃないのっ!
エイビスと話をしている最中、ワタシは桃色髪に斬りかかる。
桃色髪は拳に輝きを整えると、ワタシたち2人に攻撃を仕掛けてくる。
華暁蓮華。どんなものかは聞いたこともないけど、簡単に言えばワタシたちでいうファイスとかに近い感覚よね。
けどアイツの場合は少し違う。アイツは輝きの位置によって威力が違う。
そこをうまく見極めれば、何とかなるかも。
「華暁蓮華・倶照蘭!」
技の特徴も何度も避けていたからだいたいわかった。
蘭ってやつはスピードが強い紫色の輝きを見せる技。だから角度は急には変えられないから前に近づきつつ、しゃがめば大丈夫。
ワタシは階段の裏に隠れた桃色髪に向けて剣を構えて待つ。
ナクルスも近づいてきた。
「さっきから攻撃を仕掛けていないようだが、どうかしたのか?」
「アイツにカウンターを取るにしても、今のままだったら圧倒的にこっちの方が不利。
だから体力を削って、そこをつこうと思っているのよ。
ま、実際はシオンが上手く説得してくれることを信じて時間稼ぎをしているだけなんだけどね」
……そう。シオンを信じるとすればわざわざ戦う必要なんてない。
2対1は絶好の機会だし、スタミナを使って自分から勝ちに行く必要なんてない。
結局は戦いで負けても、大将を取れば勝ちだからね。