第43話
フォメアは顔色を変えずに素早い手さばきで、機械にさまざまな支持を送っていく。
はぁ。頭は回っても正直やりたいことをときどき外せない性分だからな、こいつは。
「おいおい、お前のジャイロコプターならここを簡単に超えられるだろ?
それとも実力を確かめたいってとこか?」
「帰りはどうやって戻るつもりだ?
もしここにミカロの父親が在宅してなければ、話は収まりがつかん。
そうなったとき、星の力がないお前たちがこの門を飛び越えられるなんてことに期待はしていない」
あ、そういやそうか。確かにそれを考えていなかった。
まぁ正直なとこ、考え過ぎじゃねぇかと思ってはいる。
けど安全ならその方が都合的にはいい。まったくフォメアには本当に頭が上げらねぇな。
俺は最終防衛ラインをフォメアに任せて家の中に入っていく。
とりあえずシオンたちとは違う左側から侵入して、ミカロの父親を探す。
中央に位置している真っ白な壁に4方向へと続く道に丸く上っていく階段。
その部屋を支えている柱の周辺にはコレクションかなんだかわかんねぇが、紫色に光る奇妙に思う手のひらサイズほどに小さいボール。
リラーシアが気に入りそうな全身赤い色の座っている鎧とご丁寧に3本も刀が置ける台。
ミカロの趣味はよくわかんねぇけど、あいつとは何か違う感じがする。
まぁ物が片付けられないところは一緒みてぇだけどな。
中央には2階に続くようにある透明なガラスみてぇなUの反対の形をした階段。
偉いやつが使いそうな階段。とりあえず行ってみるか。
俺はその階段に勢いよく進む。待っていろよ、俺らにケンカ売ろうとしたこと後悔させてやるからよ。
けれど足を踏み出そうとしたその瞬間、次の階段の足元に3本の1.5mくれぇの鉄の棘が現れた。
間一髪のところで下がれたからよかったけど、本来ならぶつかっていたぞ。危ねぇな。
「誰だよ、今のやったやつ! 出てこいよ!」
……返事が戻ってこねぇ。これじゃ俺が悪いやつみたいじゃねぇか。
とりあえずここは通れねぇみたいだ。俺は左の道を歩いて上に向かう場所を探しに向かう。
けれど次の一歩を出そうとした瞬間、また3本の鉄の棘が俺の道をふさぐ。
俺は座りこみ、それを壁にもといた位置へと足の蹴る力で滑り戻る。
ったくどうなっていやがる。シオンたちもいねぇみたいだけど、とりあえずはここにいる俺を倒したい奴から戦うとするか。
俺は縮こまったまま、足を空に向けその勢いを地面に流し飛び上がる。
右の拳を突き上げ勢いよく真っ白な壁に向けて、振り下ろす!
「巨人の撃墜! 痛っ!」
なんて硬さだ。思い切り力を入れて食らわせたっていうのに、穴の1つもできやしねぇ。
それどころか岩を象った粘土みてぇな形をしてやがる。
ここもあのときみたいに、星状態だと壊しにくい素材のやつが使われていんのか?
参ったな。爆弾で壊そうにも家が広すぎで大してダメージを与えられるわけでもねぇし、どうするか。
「侵入者ですか。いつ以来でしょうね、場所の見極めのできない愚か者がここへとやってくるのは」
「ようやく姿を見せやがったか。ちょっとだけスッキリしたぜ」
空から宙に舞い、黒髪の膝まで髪を伸ばし、黒い服に身を包み赤い眼鏡をかけた自分だけの暮らしを始めたばかりみてぇな、身長は167くらいの女が俺の前に現れた。
こいつがさっきまで俺の行動をいちいち邪魔してきた現況。
しょうがねぇ。ちょっと厄介なやつだけど、俺が倒すしかないみてぇだな。
「行くぜ!」
「ちょっと待ちなさい!」
「は?」
思わず女の言いなりで俺は動きを止めてしまった。
けどこいつ、もしかして戦いたくないのか?
それに気になるのは......
「おい、どうしたんだよ?
顔真っ赤じゃねぇか。本当は戦いたくないんじゃねぇのか?」
「そっ、そんなわけないだろ!
貴様ら侵入者に私が怖気づくとでも?
その生意気な口、縛りあげて――」
「ならなんで俺から遠ざかってんだよ。俺を倒したいんじゃないのか?」
「くっ、来るなけだもの! 貴様を倒すことなど簡単だぞ!」
敵の女は俺を見ようとしては目を逸らし、俺が近づこうとするたびに距離を取ろうとする。
まったくこの茶番みたいなのはなんだよ。はぁ。
ん、もしかしてコイツ......緊張しているのか?
一番最初に会った時のミカロと少し似ているといえばそんな気もしなくない。
つうかそんなこと考えている暇なんかねぇ!
「ギガンティック・ブレ――」
俺が拳を女に向けて振り下ろそうとした瞬間、俺の右足は動きを止め地面にたたきつけられた。
くっ......
今までのやつは囮か。油断させやがって。
いや違う。女のやつは俺の顔を見ることができずにいる。
女の奥から足音が聞こえてくる。くそっ、アイツの仲間か......
女の隣に茶色短髪に俺の1番大嫌いな本を右手に持った、青眼鏡のこちらもそいつと同じくらいの若さのあるように見えるローブとワイシャツを身にまとった身長が175はある男が、俺の目にも見えるように姿を現した。
地中から伸びている鎖が解けねぇ。これがコイツの能力か。
「どうしたであるか、シェルヴィッツェル? ひどく緊張しているようだが?」
「そうなのベルセイム! この男が私に鍛え上げられた体を見せつけて私を誘惑しようとするの!」
女は男の元に抱き着き、俺の目を見て、にやりと笑いを見せる。
誰が見てぇんだよ。こんなイチャイチャしている光景。
シオンとミカロを見ているだけで、俺はお腹いっぱいだ。
「そうであるか。でも心配いらない。
僕のコートを彼にかけてあげなさい。そうすれば君も大丈夫であろう?」
「でもそんなこと――」
女が何かを言おうとした。
けれど、それを男は右手の人差し指で彼女の口をふさぐ。
イライラする。早くこのつまらない絵から抜けだしてぇんだが......
女は目を輝かせて男を上目で見つめる。
くそ、取れてくれよこの鎖! いつまで俺はこんなつまんねぇの見なくちゃいけねぇんだよ!
2人は互いを見つめて距離を近づけていく。
まさかだろ?
「おい、勘弁しろよ......」
思わず心から飛び出た俺の声を聞いて、2人は俺を見て正気を取り戻し互いに距離を取った。
……やべぇ。今の結構チャンスじゃなかったか?
「もう恥ずかしいわ、ベルセイム!
こういうのは2人っきりになってから、ね」
「そうであったな。今はこの侵入者をどうにかする方が先であるな」
「くっ」
俺がいくら力を入れて鎖を引っ張ろうとしても、まったく千切れる様子はなく、
気が付いた時には両足が鎖で繋がれ、頭を下にして吊るされていた。
参ったな。このままだとまずい。何か考えねぇと!
「それでは頼んだである、シェルヴィッツェル」
「ええ。わかったわ」
男は俺に来ていたローブを俺に着させた。
その瞬間、俺には痛みよりもむしろ風を感じた。
俺は勢いよく吹き飛び、気が付いたときにはガラスを突き破り、家の一番左の庭にいた。
まだプールだけじゃなかっただけよかった。あそこだったら居場所が他のやつにもバレちまうからな。
「いてっ! くそー、あんなつまんないもん見せやがって」
幸いにもローブがあったおかげで、身体にガラスは刺さらなかった。
あいつらは要注意だな。ほかに誰かがいねぇと話にならねぇ。
とりあえず、今度は後ろから攻めてみるか。
それにしてもシオンたちはどこに行ったのだ?
まるで消えちまったみてぇにいないじゃねぇか。
まさか、もう負けちまったなんてことはねぇだろうな。
そしたらミカロの代わりに拳を喰らわしてやる。
俺はそう思いながら、回復薬を飲み干して家の奥へと向かった。
青や緑、黄色に赤の太陽の光で照らされたガラスが見える。あそこは礼拝堂、とかいうやつか?
とりあえず向かってみるか。
俺はガラスを割り、中を確認して慎重に中へと進む。
窓がただの透明でなく色がついていただけあって、やはりそこは礼拝堂だった。
供物置く場所に邪魔なくらいに並んでいる6人は座れそうな木で作られた長椅子。
まったく神ってやつはそんなにすごいのかねー。
ここで戦うのは少しめんどくさそうだ。
椅子は邪魔だし、不安定過ぎて足場にもならねぇ。
とりあえずここは隠れて相手の様子を疑うか。
俺は入り口に通じる扉の奥の様子を左側の位置から調べに向かった。
そのとき、天井から口笛の音が聞こえてきた。
天井を見ると、そこには呑気に口笛を吹き、2階の手摺の上で足を空中でばたつかせているのを楽しんでいる身長が120ぐらいの短水色髪の女の子が右側奥の位置にいた。
見つかるわけにもいかず、俺は椅子の裏に隠れてそいつに見つからないようにした。
とりあえず俺からアイツが見えなければ、アイツも俺を見ることはできないはずだ。
なんとかやり過ごして場所を変えるか。
「……そんなところで隠れて何してるの?」
俺の身体を直接貫くかのように、彼女の言葉に俺は思わず体を飛び上がらせた。
まずい、バレてしまっていたか。ここは戦うしかない。
「お兄さんはご主人様に呼ばれた人なの?」
「あっああ、そうだ。ちょっと道に迷っちまっててなー。
ちょうどいいや、俺にご主人様の場所を教えてくれねぇか?」
俺はそう言いつつ後ろに振り向き、そいつの身なりを目にした。
なんで白いシャツだけの姿なのはよくわかんねぇけど、悪いやつじゃねぇらしい。
ま、これが普通の対応ってやつだけどな。
「わかった。でもわたしも一緒に行く。
手を取って」
「お、おう」
ワナじゃねぇのか?
そう俺が考えちまうほどにこいつの行動が普通に思えない。
まぁ槍を突きつけられたり、女に蹴り飛ばされたりすること自体、クエスターでもそんなにないことだからな。
こいつを信頼しよう。もしかしたら、こいつのおかげで意外と早くミカロの父親に会えるかもしれねぇしな。
「お前、名前はなんていうんだ?」
「フロー。フロー・ビラスクっていうの。
お兄さんは?」
「俺はファイス・ミッテーロ。よろしくな」
俺たちは互いの手を握り合った。これは俺をミカロの父親へと連れていってくれるという契りでもある。
良いチャンスをつかめたぜ。後は任せろフォメア。