第42話
僕たちがミカロの前の家についたときには、僕たちの息は倍以上に膨れ上がり、両膝に手をつき、呼吸を落ちつけていた。
ハァ、ハァッ......
やっぱり僕たちは星を使わないと、体力がグッと落ちる。
星状態だったら10往復くらいは余裕だっただろう。
やっぱり体力強化は必要だ。
けれど、それ以上に驚いたことがある。
エイビスはそこまで疲れていないのだ。海に映る太陽を頂上から眺め、体全体で伸びをしている。
これが日ごろから運動している者と、していない者の違いか。
なんだか心に情けない気持ちが籠る。
どうして今まで気づいていたのにやってこなかったのだろう、と自分を責めたくもなる。
……でも今はやめておこう。僕には彼女というお手本がいるのだ。
きっとうまくやっていけるはずだ。彼女にも頼めば確実に協力してもらえるだろう。
僕は彼女が眺める景色を見に、息を落ち着けて近づいた。
海が蒼い。ものすごく透明度が高いせいか、こんなに遠くてもピントレスのとは色が全く違うのがわかる。
ピントレスの海ならこうはいかない。夕日色に染まったり、月の色に染まったりするのが悪いわけではないけれど。
「すごい、ですねエイビスは。
こんな坂道を上っても息が荒れないなんて」
「それほどでもありませんわ。それにわたくしはシオンさまの隙を守るために、科学の力を借りているだけですから」
科学の力? もしかしてここに来る途中にあるお店に並んでいた、ダッシュブーツのことかな?
いや、でもエイビスの歩幅はそこまで変わっていなかったし、そんなことはないか。
僕は、彼女が両手で抱えている赤色の鉄製の入れ物が気になった。
これが彼女の言う科学の力なのかな?
「それの中身ですか?」
「さすがシオンさまですわ! これは体力増強剤が入っていて、数時間であれば山を登ることも容易になるのです! とはいえ、あまり過剰に摂取してしまうと体が適応してしまって、最悪の場合効果がなくなってしまうこともあるのです」
「なるほど......」
なんだ、僕の思っていたほど彼女はあまり努力をしていなかった。
けれど、昨日戦った時のあの感覚は昨日1日だけでできたものとは思えない。
それくらいに慣れるのが早かった。
まぁエイビスもエイビスさんも身体的には何も変わらないから変な事実ではないのだけれど、彼女が前もって自分から動き出していたのは間違いない。
僕と彼女の違うところはそこだ。自分から動き出さなければ何も始まらない。
「おし、行くぞシオン! どこかに行っちまったお転婆ミカロの居場所、教えてもらおうぜ!」
「はい!」
僕たちは歩くのを再開し、ミカロの家へと向かう。
けれど、僕たちは彼女の家を見たとき、口を開けたまま上を見るしかなかった。
これでもかと大きい作りの長さ25mはありそうなレーンが5つあるプール。家までの道をつなぐ数々の植林と花々。
そしてホテル・サカスミアの全て部屋を合わせた大きさでも、ギリギリ足りないほどの広さ。
そして何より、僕の5倍の高さはあるのではないかと思う入り口の門。
おまけに筋肉を見せつける袖のない服を着た見張り人が2人。
なぜだか約束があるとわかっていても、気持ちが萎縮して思わず身構えてしまう。
それほどに僕とはまったく関係ない、いや関わる可能性のないところだった。
ミカロはすごい人の子供だったのか。知らなかった。
ファイスも動揺しているのか、目を何度も右に左に動かしてフォメアの顔を見つめる。
いくらファイスでもこれには驚かないわけがない。
ミカロがいろんなことに動揺しないのも、誰にも“さん”付けをしないのも何となくわかった気がする。
「フォメア知ってたか?」
「いや、知らなかった。
だが驚いている暇はない。向こうもこちらも、ミカロがいないと困ることは確かだからな」
フォメアさんが歩くのに続いて僕たちも足を進める。
そうだ。きっとミカロのお父さんだって彼女のことを心配しているに違いない。
だからこそ、僕たちが怖気づく必要なんてない。
前に進もう。その先に彼女へと続く道があるのだから。
「何者であるか」
「ここの領主の娘にあたる、ミカロ・タミアの加入しているチームのメンバーだ。
彼女が失踪したことについて情報があると、領主から伝言があった。
通してもらえるか?」
太陽に照らされそれが好みの女性にとっては魅力的な鍛えられた各筋肉部分、槍を持ち赤色の鎧と青色の鎧を着た僕の身長は2倍あるくらい、どこにでもある扉の1.5倍ほどの高身長の男の人2人が僕らの道を塞ごうとする。
顔は悪者っぽいけれど、いい人なのは間違いない。
2人はフォメアの言葉を聞くと、互いに僕らに聞こえないように耳で直接話し合い、うなずいた。
ふぅ。どうやら納得してくれ――
僕たちの前に槍が突きつけられる。
気が付いた時には、体が勝手に隣にいたエイビスを背中に連れていき左手には星を握っていた。
まさか......
「我らはそのような口車には乗せられん。
今日領主は対談の約束がされていることは報告されていない。
そして先ほどのお嬢様の発言。何か知っているようだな」
「捕らえるのがよかろう。こやつらは話がしたいようだからな」
「うむ」
僕たちは互いにうなずき、輝きを放つ。
ここで止まるわけにはいかない。ミカロへの道を邪魔しようというのなら誰であっても容赦はしない。
彼らが槍で僕らを標的に突き進むのと同時に、僕たちは飛び上がる。
さすがに大きな鉄柵で作られた門の高さを越えられはしない。
てっぺんにある槍の先に似た突起物のその上の位置に僕は来ている。
が、このまま進んでも飛び越えられはしない。
助走を付けられれば飛び越えるのは難しくない。
あの2人がそれをさせてくれれば、だけど。
「どうやら戦うほかないようだな。わざわざ呼んでおきながら、この始末とはな」
「ま、そんな怒んなよフォメア。
これがこいつらなりの礼儀、なのかもしれねぇだろ?
それを断るわけにはいかねぇな」
ファイスとフォメアを敵が狙い、攻撃をしかけていく。
けれど、彼らは話をしながらそれをかわしていく。
やっぱり門番だからそこまで強くはないのか?
ミカロの家だからそれはそれで心配だけど。
「兄者!」
「うむ、青龍波!」
彼らは互いに手を合わせ、ファイスとフォメアに攻撃を仕掛ける。
衝撃波が2人を包み込み、空へと押し出した。
けれど、ファイスはそれを木で衝撃を流し、フォメアはエイビスのティーカップのカップの形に大量の機械類が搭載されているジャイロコプターでその場から離れた。
僕とファイスの目が合う。彼の目が語っていた。
“先に行け” と。
僕とエイビス、ナクルスはうなずき勢いをつけて2人が僕たちの行動に感づくのよりも早く飛び上がる。
僕たちの体は柵を越え、丁寧に手入れがされている草の地に降り着いた。
柵さえ超えられればこちらのもの。僕たちはドアを開け中へと入る。
早くミカロのお父さんを見つけよう。ここで時間を取られるわけにはいかない。
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俺は目の合図でシオンたちに先に行ってもらうことにした。
正直なところ、なんで戦うことになっているのかわかんねぇ。
けど攻撃してきたら反撃しねぇわけにはいかねぇ。
それが俺の流儀ってとこだな。
「兄者! みなに連絡――
ぬぐっ!」
「シェルフィーザード!」
「ぬおおおおおっ!」
俺が木から降りている間に、フォメアが槍を持った敵2人を電流の流れる不思議なアイテムで絡み、放電する。
光は激しくねぇから、中のやつにもバレたりすることはねぇ。
2人は素直に地面に倒れた。悪ぃな。
「いい感じだな、フォメア! そのまま戦うか?」
「いや、やめておこう。このまま向かっては絶好の的になる。
さすがに囮だったとしても敵が多すぎる可能性があるからな」
フォメアはジャイロコプターから飛び降りて、俺の言葉に耳を傾けた。
さすがフォメアだ。なんだかんだいろいろと考えているな。
おかげで俺は結構楽していられる。
「さてと、まずはこの門を開けるか」
「ミスリフィッジ鋼鉄製だ、やめておけ。
いくらお前のパンチでも、本当に骨が折れるかもしれないぞ。
電子ロックでも解除できるようだ、先に行っていろ」
「そりゃ勘弁だな。そんなことしたら骨折り損だな、なっちって。
まぁそんなことしなくてもよっ!」
俺はフォメアが電子ロックを解除するための装置を取り出すのよりも早く、気絶している2人を足場にミカロの家に侵入する。
この家で何か起こっているのか?
まぁいい。とりあえずはミカロの父親を捜すか。