第26話
「ファイス、こいつ以上に奇妙な敵を見たことはあったか?」
「いやねぇな。こんなにお腹が膨れたやつを俺は見たことねぇ」
俺たちは無性に腹と腕の大きい爆弾男と交戦中だ。アスタロトも一緒にいたんだが、矢が聞きそうにねぇからシオンの加勢に向かわせた。どのみちミカロたちが敵と遭遇したらシオン1人で戦う戦法を取るだろうしな。
爆弾男は触れたものすべてを爆弾に変え数秒後には爆発を遂げる。おかげでまともに平らな場所は一か所もねぇ。とはいえおかげで敵の能力も知れたから五分五分か。
「俺たちがあいつを倒すのと犬が消化を始めるの、どっちが早ぇだろうな」
「変な冗談はよせ。戦闘に集中しろ」
「あーいよ」
「ケケケ......そんな余裕かましてる場合か? お前らはこの状況を理解しちゃいねぇ。俺に触れればどうなるのか、当然考えてるんだろ?」
敵なのによくしゃべりやがる。互いに左右に分かれて敵が逃げるのを防ぐ動きに移る。敵は上空に飛び上がる。それと同時に俺たちも釣られるように空へ。ヤツの奇妙な笑みが視界全体に違和感として映る。
自信のある顔だ。それに免じて最初から全力で勝負してやんよ。右の拳を振り上げムチをしなるように勢いに任せ振り落とす!
「巨人の衝撃!」
敵が落ちた瞬間、俺の腕はロケットパンチみてぇに俺を壁に追いやった。いつかやってみてぇとは思ったが、こんな失敗だけは勘弁だな。敵が落ちた瞬間ナクルスが攻撃を開始する。
「|不死鳥の劫火(フェニックス・ロブファイア!)」
炎が敵を包み、俺の目の前へと打ち上げる。完璧だな。俺が動ければ、の話だが。
いくら星状態とはいえ、3度も壁にたたきつけられるのは堪えるな。おかげで体中がバチバチ痛み出すじゃねぇか。そのお返し分だけはさせてもらうかんな。
敵と目が合う。壁から飛び出し両手を用意する。この一撃で。困ったことにこの後の結果が予想できねぇ。リーダーなのに参ったな。
「巨人の......」
「上昇」
敵に上を取られた。見ててうれしくもならねぇ笑顔と右拳が俺の顔に見せつけられる。
「ファイス!」
「爆発拳!」
ナクルスが炎の壁を作ったが、それは簡単に貫かれ拳は俺たちに襲いかかった。ネーミングじゃ負けてるはずなのに痛ぇし、おまけにまた爆発で壁とこんにちはだぜ。もういい加減分かれたいところだ。まったくな。
爆弾男は足を浮かせていた爆発を止めると、俺の目の前に姿を見せる。ナクルスはヤツの反対側で頭を押さえている。マズいな。
「ケケケ......なめてるからそういうことになる。自分を上だと信じて疑わない。それがお前らの問題点だ。そうでなきゃ生きていこうと思えないなんて、かわいそうだな」
「言いたい放題だな。でも違ぇぞ。俺たちが正星議院からなんて愛称で呼ばれてるか、お前らは知らねぇだろ?」
「興味も湧かねぇ。それが思い込みだって言ってんだよ。対して何も変えられないのに口だけは達人。よくある話だ」
言葉はいらねぇ。せっかく拳があるんだ。それで語ろうじゃねぇか。俺はそいつにもわかるようわざわざ目を合わせる。ナクルスも片目を閉じた状態で理解し敵に飛びかかる。敵は空へと飛び上がり俺たちの拳は顔を合わせる。
「ナクルス!」
「わかっている!」
俺とナクルスの拳が重なり、同時に空へと解き放たれる。拳は炎を纏い奴の目を輝かせる。これが俺たちの一撃だ。
☆☆☆
「なぁミカロ、俺らがなんて呼ばれているか、聞いたことあるか?」
「知らない! どうせまともな名前じゃないんでしょ。……あんな出来事があったら、誰でもそんな呼び方するでしょ」
海に沈んでいく俺たちのオレンジ色の光を眺め、ミカロはしゃがみこんだまま動かない。|クエスター実技試験(QPT)。あの出来事を思い出すとつい足が動かずにはいられなくなっちまう。弱いな、俺は。
「奇跡の世代、だってよ。よくも悪くも、俺たちはあいつらのためにも簡単には負けられねぇな」
「わかってるわよ、そんなこと。でも、ミラクルスターって名前だけは悪い気はしないかな。」
「お、そうか! つっても俺が考えただけなんだけどな!」
「ハァ!? 何言っちゃってくれてんのこのウソつき! そんなの聞いてうれしいわけ......」
ミカロの顔はとてもうれしそうで晴れやかに見えた。まったくあいつに見せてやりてぇもんだよ。できることなら代わってやりてぇ。
……なんてな。何夢物語考えてんだよ俺は。
「俺にはうれしそうに見えるけどな」
「そんなわけないでしょ! そろそろ戻らないと暗くなるから私は帰るからね!」
「仲間を置いてくな! お前はそこらへんがよくわかってねぇんだよ!」
「そんなの馬鹿正直に正面突破狙うのためらうようにしてから言ってくれる? おかげでいつも大変なんだけど!」
「それは許してくれよ、それが俺の......」
☆☆☆
懐かしいな。こんなこともあったっけか。あいつらのためにもこの一撃、外せねぇな。
逃げようと爆発を足に起こすが、ナクルスが鎖で敵の動きを抑える。さすが仲間だ。俺のタイミングに息ぴったりだな。
両手を掲げ、俺の拳とナクルスの思いの拳を焦りの隠せねぇ敵の目に見せつける。炎は星の輝きと交わってオレンジ色の炎に変わる。これが俺たちの全力だっ!
「巨人の奇光炎襲!」
輝きを放ちまるで流星のように敵は俺たちの目を集め壁に突撃していった。俺は地面に着いた瞬間倒れこんだ。まったくあんなデカい図体して飛べるとか、反則だ。
「大丈夫かファイス!?」
「おおー。つってもしばらくは動けそうにねぇな。ナクルス休憩してもいいか?」
「そうだな。シオンたちなら問題ないだろう。敵の親玉が出てくる前に疲れを癒すか」
俺は空を見上げて目を閉じる。どうしてだろうな。空を見上げてると、本当に平和だと思う。どうして俺たちは......
俺の直感が危機を知らせた。あいにく俺が立ち上がった背中には爆弾野郎がいた。
「ケケケ......外しちまったか。俺も情けねぇ姿になっちまったな......」
「そういや名前を聞いてなかったな、教えてくれよ」
「変な奴だな。……ボルムだ。敵の名前を聞くなんてお前は本当にク......」
爆弾男の体にから氷が現れた。いや違う。彼の中に突き刺さったのか。俺は傷だらけの体にムチを打ち再度拳を振り上げる。
くっ。体がボルムの後ろにいるやつの目の前で止まった。どうなってやがる。その言葉を考えた瞬間、ナクルスが拳を振り上げ敵に襲い掛かる。俺たちの疲れの見える攻撃は簡単によけられた。
ナクルスはいとも簡単に宙へと飛び上がり、攻撃を開始する。瑞々しく光る双剣、いや槍、違う氷柱の武器、一撃も擦りもせず敵の攻撃だけがナクルスに届いた。
俺の足は上がらない。上がった。その瞬間さっきまでの俺と同じ姿のナクルスがいた。納得した。得意じゃないが相手の領域の中に従うほかねぇみたいだな。俺は陰から顔を出した眼鏡を見逃すことはなかった。