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七つの星の英雄~僕は罪人~   作者: ミシェロ
第3章 「爆撃士」
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第23話

 ユースチスは意外にも疲れた様子を見せなかった。ここまで立ちはだかってきただけある。むしろ僕の息はため息のようにも聞こえた。彼の違和感が頭を渦巻く。彼は砲撃船が自動で動かせることを隠していた。それと合致するタイミングで使えば僕を倒す要因に成りえた。


だが彼は守りにそれを使用し、僕に警戒を与えた。彼は攻めることよりも守りを選んだ。僕は鉾を背に両手を楽にする。



「どうした? 勝てないと踏んだか?」



 ウソだ。彼は僕の目を見て姿を捕らえていない。先日の彼の目には殺気があった。違和感の謎はたぶんそれだろう。



「こっちのセリフですよ。あなたの方こそ僕を倒す気があるんですか?」



 彼は僕から目を逸らし灰色の空を眺める。違和感よりも面倒さに腹が立つ。僕が口を再度開こうとしたとき彼の顔つきが眉間に力の入ったものに変わった。



「復讐だ。俺たちをひた隠しにし闇に葬ろうとした。その罪は重い。だが命にはさして興味などない。俺たちの存在を知らしめすことが......」

 


 言葉はもう必要ない。彼の言葉が僕の心の火に油を注いだ。体全体に燃え移り1つのことしか考えられなくなっていた。不意の一撃から敵を宙に上げ、守りの態勢もろとも彼を地面にたたきつける。天井は形だけとなり眠りの見えたユースチスを背に僕は――


 なんだ。目の前が急に暗く......



☆☆☆



 綺麗な空! そう思った私の目には不気味な笑いをした彼女が映った。両手がとっさに動く。でもダメ! こんなんじゃ全然防げな――私の考えを鉾がかき消した。彼女は空に吹き飛び地面にたたきつけられる。私はうれしさに立ち上がって右の拳を握る。


 けど私は両手で口を覆った。“目の前にいるのは誰?”知らない人だと思いたかった。彼は彼女に抵抗の意思が見えないのをわかった上で攻撃を留めなかった。このままじゃダメ。足が震える。私は背後から彼に抱き着くことしかできなかった。



☆☆☆



 僕の身体に稲妻の走ったような感覚がする。頭の中に写真のようなものが流れ込んでくる。金髪の女の子。緑色の草原。指きりをしている姿。約束だろうか。


 女性が地に着いた音と共に僕は現実に目覚めたような気がした。それと同時に身体の中から力が抜け......



☆☆☆



 目を覚まし毛布をまくり上げる。白い天井白い壁。殺風景が僕に襲い掛かる。まぶたが光に抵抗を示す。


 無理やり......いややめよう。


 現実への逃亡が理解できた。もう一度寝台にこもる。


 うん、よく寝れる気がする。


 横移動扉の初めの勢いに耳が反応する。銀髪の彼女と赤髪の彼が姿を見せる。悪くない。いや、ちょうどよかった。


 なぜだか喉が砂漠のようにパサパサしている。水を通そうとすると抵抗を感じる。彼女は快く僕に協力してくれた。彼らの目を見れば状況が理解できる。特にミカロは小さな目を必死に隠していた。あとでケーキを渡そう。


 赤髪の彼は残ってしまった。いや、失礼か。声の交わしにくい僕は目を合わせることができなかった。



「大丈夫かシオン?」


「……」



 彼の姿と表情には違和感があるように見えた。ケガ人の前だと素直に心配してくれるのか。いや、これが普通か。


 彼が不思議と大人びて見えるような気がする。何日寝ていたんだろう。そんなことを考えている間に彼女は僕に栄養補給飲料スポドリを手渡してくれた。ちなみにおいしくはない。


 それと同時に彼女は彼を外へと追いやった。彼は否定的だったが、“まぁしかたねぇか。カップルだもんな”と言って彼女の火を爆発させた。


 起きたのが朝でなくてよかった。おかげで僕らに注目した人物は粒しかいない。注意も受けたがそれ以上に彼女のことが心配だった。


 彼女は咳払いと共に僕の調子を気にかける。僕は問題ない、と彼女の勢いを妨げる。間違いなく10時間以上は眠っている。これで体が動かないなんて情けない。


 僕はユースチスとの戦闘以来、ほぼ1日眠り続けていたようで、彼女たちが心配するのも無理なかった。どうしてそんなに......


 その答えを考える暇もなくミカロは話を続けた。リラーシアさんが僕のことを褒めていたという。とはいえ僕で倒せたのだから彼女なら一撃だっただろう。彼女がそのとき何をしていたのか気になるところだけど、無事だと思うと体から力が抜けた。


 彼女は手を合わせたかと思うと僕に提案の目をした。



「そうだ! 気分転換に空の見えるところに行かない? ほら、こういう何もないところだと不安になっちゃうかもしれないし」



 “それはミカロがすべきことじゃないですか?”と彼女のぎこちない態度と周りの目が気になって仕方なさそうな顔に言ってあげたい。


 確かに久しぶりに空が見たい。歩けるだろうか。足が諦めていないだろうか。


 足に伝わる床のひんやりとした冷たさ。何より身体の重み。思わずひざを曲げてしゃがんでしまった。ミカロが自分の行動に後悔の顔を見せる。僕は誤解を消した。


 彼女は僕のことが心配しきれなかったのか、無理に手を肩に乗せさせ、いつ僕に何かあっても対処の取れる態勢を取る。他人の目なんてどこの風。彼女の目には僕しか映っていなかった。



「あの、ミカロ?」


「困ったときはお互いさま! 私はシオンの力になりたいの」



 僕は彼女の真意を断れなかった。


 許可をへて満点の夕焼け青空を眺める。壮大で何より人々の目を奪うほどの輝きを見せている。思わず僕は彼女の手を離れその世界の虜になっていた。


 それは彼女によって阻害された。現実に引き戻される。悪い気はしない。彼女が僕をどう思っているのか確認できた気がした。


 彼ともすぐに別れの時間が着てしまった。彼女は素直に反対したいバツの悪い顔をしていたが、なくなく従うことにした。僕らは殺風景で感情のない部屋へと戻り、記憶の整理をすることにしていた。


 ユースチスは倒したハズだ。攻撃を加えたことだけは覚えている。けれど彼を倒した感覚はない。そして突然目の前に現れた水蹴りの女性。その後は闇に閉ざされている。彼のことは放っておこう。



「僕、ミカロの敵まで倒しちゃいました?」



 彼女は身体を飛び上がらせ口を開かず首をゆっくりと横に振った。そんな膨らんだパンみたいな表情に僕は心で笑いつつ、違和感を得た。


 こんな不自然な彼女は見たことがない。口の動かす様子のない彼女はミカロではない、といいたいぐらいだ。僕の全身は彼女への興味を失っていた。



「ミカロ......何か隠してます?」



 彼女は椅子から飛び出し自信満々に立ち姿を見せた。言葉は必要ない。リラーシアさんにできて僕にできないなんて信じない。親友には遠いけれど気にしたら負けだ。進もう。



「記憶を失う感覚はもういやなんです。100%完璧でなくていいので教えてもらえませんか?」



 夕日を見つめる悲し気な顔。そして悩ましく右手を鼻に添えた姿。どうだ。声には出せないが僕としては満点だ。ミカロも納得せざるを得ないは......



「ようやく意識を取り戻したようですね。先日の件には感謝しますが、あなたがこれでは意味ありませんね」



 赤髪注意報がほしい。誰とは言わないが本当に何をされるか予測がつかない。僕の築いた景色は一瞬にしてかき消された。


 僕の心は喜びと悲しみが交錯していた。僕の理想は泡となって消え、彼女の苦痛で反論のできない言葉が僕の心を貫き今日を終えた。


 目を覚ましたとき、最悪の朝だと思った。リラーシアさんの言葉を思い出すと頭が痛い。反省にはうれしかったが、病人にも容赦のない彼女には思いやりを教えたいぐらいだった。僕は以前から病人だけど。


 起き上がった太陽を視野に伸びをする。今日も頑張ろう。足元にしゃがみ込んだ銀髪の彼女を見たとき、僕の考えは弾け飛んだ。


 この時間は外部の立ち入りを禁止している。けれどロビーからは1枚扉。彼女でなくとも現在なら侵入は容易だろう。僕は彼女に連れられ屋上に続く踊り場へとやってきた。


 足にひんやり伝わる床の感触がなんとも心地よい。今になって彼女はようやく口を開いてくれた。僕の演技もあながちミスには働かなかったみたいだ。


 僕は記憶がない部分で一種の暴走状態にあったことが理解できた。

――葛藤。リラーシアさんへの思いの強さが別の形となって現れただけだ。確かに問題だけれど気にすることはない。コントロールできればユースチスをスキなく倒せる力が僕に備わっているということでもある。


 それよりも他の興味に僕は夢中で大切なことを忘れかけていた。



「ミカロは僕を止めてくれたとき、何をしたんですか?」


「えと......握手かな。考えずにやってたからよく憶えてないけど」



 ――衝撃。手を握るだけでよかったのか! 星の力に気が付いた時より驚きだ。そういえばリラーシアさんには手を弾かれて、ろくにしたのはファイスぐらいだった。気づくのが遅かったのも無理はないか。


 草原のような場所に金髪の少女。情報にしてはざっくりし過ぎてるな。


 僕はミカロの手を握る。あ、しまっ――


 失態に気が付いたとき、僕は彼女を壁に追い込み耳横に一撃をかましてしまっていた。距離が近い。彼女の息遣いが明確に聞こえてくる。僕は彼女から離れ謝罪した。


 けれど彼女の鉄槌が飛んでくることはなかった。心に埃が残る。僕たちは話をやめ無事退院を遂げる。


 帰る道中ミカロとは会話を閉ざした。避けられている感覚はない。単に時間がそろわないだけだ。


 僕はそれを気にもしようとしなかった。が、そのときの僕を未来の僕は許さなかった。

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