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七つの星の英雄~僕は罪人~   作者: ミシェロ
第3章 「爆撃士」
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第21話

 僕が落ちゆく日を眺めている隣で、ミカロはそっぽを向いていた。彼女に目を合わせると口を開いてくれた。



「リラは元の家に戻るんだって。荷物を運ぶの私も手伝ったんだー。壊れちゃってたところはテラスになってたの! 花壇作れるのうらやましいなぁー」


「リラーシアさん、花が好きなんですか?」


「嫌いじゃないって言ってたからそうかなぁ。私が水やりしに行くって言ったら植えてくれるかな......ってそんなのんきなこと言ってる場合じゃないよ! シオン! 最近リラと会ってないでしょ!」


「そうですけどそれは......」


「確かに騎士団女寮に行って会うと私達みたいに変な噂が流れちゃったりシオンの強さが伝わって人気になっちゃうかもしれないけどさ、シオン言ってたじゃん! 僕は諦めないって!」



 彼女の言葉はもっともだ。僕は否定する気もなければ肯定しようとも思えない。確かに僕はリラーシアさんの弟子になりたい。けれど今はわがままよりも状況を優先するほかない。



「今は静かでいたいんです。その方が僕にとっても彼女にとっても平和な気がして......」


「あの日、何かあったの?」



 僕は頭の中で必死に自分の反省できるところがないか探す。言ってしまえば僕は彼女の足を引っ張っていた。戦闘での経験が足りていないのは仕方ないかもしれないけれど、そのせいであの戦いでは彼女は本調子を出せていなかった。


 僕は自分の感情をミカロに悟られないよう、目を合わせず話した。夕焼けが直に来る位置に来た。ちょうどいい目くらましになっている。僕たちは互いに目を逸らす。


 彼女は体全体で伸びをすると、再び座って僕の目を見て話を続ける。その顔は何か吹っ切れた様子で僕にとってうれしいものではなかった。



「そっか。シオンもリラと差を感じちゃったんだ。私も最初リラと組んだ時はそうだったよ。“彼女はできるのに自分はどうしてできないんだろー”とか“なんで彼女みたいに早く動けないんだろう”って思ってた。シオンは覚えてないかもしれないけど、クエスターになるときは初期認定試験っていうのを受けるの。簡単に言えばランク付けかな」



 彼女は僕に言葉を並べてくれた。それは愉快でもあり心に圧迫を感じずにもいられなかった。でも僕の心に残ったのは間違いない。“自分は自分だよ。たとえどんなに動けなくても嫌いでも大好きでも、私の得意なことは絶対ある。だからそれを見つけるまでは絶対に諦めたくない”


 リラーシアさんはリラーシアさん。彼女がどうあっても自分を考え焦る必要はない、と彼女は言いたい。むしろ僕は言ってしまいたい。“彼女が負けたら誰が戦えるのだ”と。そんな残酷でふと浮かんできてしまった考えを言ってしまえるほど僕には度胸はない。



「ミカロのしたいことって何ですか? やっぱりクエスターですか?」


「私は......ひゃっ!?」



 その返答を聞くまでもなく僕は彼女を押し倒した。弾丸砲を突き付けられているような感覚。彼女の考えを確かめるまでもなく僕は防御の態勢を取る。


 見られていた? 気のせいだろうか。そうだと信じたい。



「し・お・ん?」



 僕は彼女の久しぶりの眉間に力のこもっている顔を見た。僕が頭を下げようとしたその瞬間、頭をたたきつけられるような一撃を受けた。柔らかい感触だった......いやいや素直に反省しよう。“今度からミカロを守るときは手で警戒するだけにしよう”



「シオンの変態! ふんっ!」



 僕を心配することなく彼女は廊下を歩き始めた。そろそろ点呼の時間か。気になることはあったけれど、ここはリラーシアさんに任せてほかのクエストに集中させてもらおう。その方が僕やミカロにとっても平和に違いない。


 にしても強い一撃だなぁ。ひょっとしてファイスより強かったり......彼女の振り向き怒り発散しきれていない顔に僕はその考えを無理やり消した。



☆★★



 その日の夜は考えてばかりでまったく寝付ける気がしない。できることならミカロと話していたい。そんな自由を許してくれるほど正星議院も寛大ではないのは承知の上だけれど。


 それよりも僕の頭の中ではあの日の出来事を何周も繰り返していた。僕は彼らと一体何の関係があったのだろうか。僕を狙っているということは恨みを買ったのだろうか、それとも昔の仲間だったりして......


裏切り者......そんなことを考えてしまうと気になって眠ってなんていられなくなってしまう。


 前者はともかくとしても後者はないだろう。もしそうだったらここまでリラーシアさんが僕を野放しにしておくはずがない。気が付いた時には牢屋に入れられているはずさ。


 なおさら彼らのことを追いたい気持ちになった。だがそんなわがままをリラーシアさんが素直に受け入れてくれるはずもない。もしそうだとしたら弟子になるのに苦労していない。


 僕は明日のためにも考えることをやめ眠ることだけに徹した。



★★☆



 お昼時にクエストを終えた僕とミカロは、セレサリアさんから新たな資料をもらうために正星議院の2階に訪れていた。本来ならここは正星議院の従業員たちでしか入ることのできない場所なのだが、僕は記憶のこともあり特別な許可を得ている。完治しようともそうでなくても珍しいケースを彼らも研究したいみたいだ。


 ミカロは先日僕にしてしまった暴力を嫌々謝罪してきた。僕は素直に彼女に詫びを入れ、ケーキをおごった。彼女をもので釣るというわけではないけれど、食べているときの幸福感は僕にもわかるほどはしゃぎ笑顔を振りまいていた。


 とはいえ僕の財布にはかなり痛かった。おかげで鉾のケアにお金を回せなくなってしまった。今度ファイスに借りよう。10倍返しとか言われそうだけど。


 2階入口に待ち構え剣を今にも構えようとする10人の騎士。その姿を見るだけで思わず気持ちが高揚してしまう。落ち着け、ここで戦い始めたらどんな目に遭わされるかわからない。間違いなくリラーシアさんに手も足も出せずに星を取られるだろう。


 僕は気持ちを落ち着け白色に緑の縁取りの装飾がされているセレサリアさんの部屋に訪れた。その扉の前には僕たちが来ることを予感していたように赤髪の彼女が待ち構えていた。


 彼女は僕にしか見えないように片方の頬を引きつらせ嫌そうな表情を見せる。僕も苦笑いを見せたいところだったけれど今回は僕の方が驚きだ。ここにいれば当然僕がやってくることぐらい、把握できたに違いない。そこは彼女に責任がある。


 ミカロは曇りのない笑顔でリラーシアさんに挨拶を交わす。不思議なことに彼女も曇りを隠して彼女に返事をする。もしかしたら僕の存在はないものとして会話が始まりそうだ。……今だけは我慢するしかない。この問題が解決したらまた弟子を懇願するか?


いや、そんなに待ってはいられない。早いところ倒してしまって彼女との話に決着をつけよう。これ以上の延長は必要ない。そんなものは僕の記憶の可能性だけでお腹いっぱいだ。


 正星議院のロビーに戻る間、ミカロは気難しそうに頬に力を入れて頭の中で想像を膨らませている様子だった。会議中とはいえ僕のための資料を渡さなかったリラーシアさんに文句が言いたい、わけじゃなさそうだ。でもそれならいったい何を? 


 僕は彼女の肩を叩き気持ちを落ち着かせようとした。けれどむしろ逆効果だったようで、彼女は虫が乗ってきたときのような鳥肌が立ち不安そうな表情を見せる。


 思わず両手で降参のポーズを取っていた。昨日のようなことはもう勘弁だ。先に謝ってしまえばミカロも納得してくれるはずだ。


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