第20話
「シオン、あなたは彼らの知り合いなのですか?」
知らない、と答えたい。こんなに大人の女性を僕は知らないし小さな砲撃船を肩に付けた奇妙な装備をした男性と一緒にいたとは思いたくない。
けれど過去に会ったことがあると言われれば文句のいいようがない。僕を狙ってくるのだからおそらく過去の僕が何かしら影響を与えてしまったのだろう。肩のことだけは絶対にからかっていないと信じたい。ファイスなら絶対にやりそうだけど。
「今の僕は知りません」
「考えは三択ありますが、おそらく私の方を強いと理解しあなたを盾にして、本気を出させまいとしているのだと見て間違いないでしょう。この場はあなたに援護を任せます。決して前には出ないでください。顔が吹き飛びますよ」
悪い冗談だと笑いたいところだけれど彼女の言っている通りだ。僕の基本攻撃では2人を前後からでは守りに徹するほかない。僕は理解し彼女の言葉にうなずきを見せる。
僕のうなずきを見ると敵は迷うことなく僕に攻撃を仕掛ける。砲撃を仕掛けたかと思いきや僕に銃を構え急接近する。僕に気づかれないよう背後からゆっくりゆらりと近づく女性。足元に水が溜まっている。さっきはなかった。彼女の能力なのか?
その状況にリラーシアさんが飛び込み剣で銃を両断し、僕は女性に攻撃を仕掛ける。彼女は木へと飛び上がり僕の追跡を逃れようと動く。彼女に追いつく、3、2......その瞬間、僕の目の前の木には火が付く。
内から壊れていく音を立て、周りに燃え移ろうとしている。僕は木を空中で破壊しそれを防ぐ。後ろを確認する。彼の気配はない、おそらく彼女が爆弾を仕掛けたのか。
この場所で火をつけられたことに気づけなかったら厄介だ。勝負に勝てても森が焼き払われてしまっては意味がない。ここはアクエリオスのいるミカロを残しておくべきだった。彼女を守るためとはいえ何も考えなさ過ぎだ。
僕は彼女の存在が後ろにあることを視覚し距離を一気に詰める。相手は足蹴りだけだ。一回でしか反応ができない。それならそれを弾けば問題ないはずだ。
鉾を持った手を狙うように放たれた一撃を振り払い腕に力を入れる。けれどその瞬間僕の元に2つの砲撃が飛び込んできた。
僕の目線の先には奇妙な砲撃船があった。参ったなぁ。リラーシアさんでも彼を縛りきれていないのか。いや、本調子が出ていないのかもしれない。ひとまず彼から何とかしないことには話が始まらないな。
リラーシアさんは僕のすぐ近くに上空から現れ女性は彼の元へと戻る。彼女は一撃を決めようにも時間がかかるために逃げられてしまうのだという。
遠距離の敵には不利が多いということか。なんて冷静に分析している場合じゃない。ここは僕が彼らを引き付けるしかないってことか。
僕は彼のいる位置に飛び込む。その先には鉛玉の洗礼が待ち受けていた。僕はそれを切り爆発の中に姿を消す。真っすぐ進んだ先に彼がいる。そう信じて僕は煙から飛び出し光を得た鉾の先を敵に見せつける。
「武装発光!」
光が彼らの目線を奪い、その瞬間僕の隣にまるで疾風が通り抜けたような感覚がした。
「天元陣・神矛羅!」
彼女の剣も光輝きまるで流星が通り過ぎたように彼らには聖剣の一撃が飛び込む。やっぱりリラーシアさんの強さには何か秘密がある。彼女が否定しても僕がそれを暴くべきだ。そんな気がする。
彼女の攻撃を2人は意外にも無傷となる形で避けたが、最後の一撃に彼のお気に入りの右肩の相棒が爆発するのが見えた。よし、と言いたいところだけど、このままだと制限時間の方が先に来てしまう。ここは無理をしてでも前に出るべきか?
僕が考えている矢先、2人は一つの木に集まり意見を交わすと僕たちを見つめ、炎のカーテンを見せ、それが消えたとき彼らの姿はなかった。
「大丈夫2人共!?」
「はい、なんとか問題ないです」
「よかったぁ」
「それにしても時間がかかりましたね。道に迷っていたんですか?」
「それが通信機器が全部通じないから走るしかなくって......ハァ、疲れたー」
「お疲れさまです。後は......」
彼女は雨の降り注ぐなか燃え残っている自分の家と見つめあっていた。不思議と彼女が悲しみに包まれているような気がしてくる。
この家にはやっぱり思い出があるのかな。ミカロは彼女のために服や必要なものを集め始め僕もそれに協力しようとしたけれど、ミカロに睨まれ僕は遠慮した。きっと女性にしかわからない何かがそこにはあるのだろう。
そう納得して僕とミカロはリラーシアさんが正星議院に戻るまで彼女に付き添い、その場を後にした。そこには不自然に接続された露台のある家だけが残っていた。
僕は分かれる前、散々ミカロに敵がどのような人物だったのか、それは記憶に響くものがあったのか反省会のようなものをさせられた。僕は素直に彼女の質問に答えたものの、彼女はリラーシアさん1人に攻撃を任せたことが気に入らないようで僕を責めた。
僕は彼女に強い女性は不思議と信用できると誤魔化そうとしたのだけれど、当然ミカロには通用しなかった。
僕は彼女に無理やりこれからは女性を守るように戦います。と言わされようやくベッドに就けた。その瞬間隠れていた疲れが姿を現し僕は考えようとしていたことを忘れ眠ってしまった。
★☆☆
僕はクエストを終えてセレサリアさんから次の資料をもらい、目を通して僕の記憶に何か関連するものがないかどうか考える。今度は大量の写真集だ。
こんなものをミカロが見たら速攻破り捨てられそうなので、僕はいつもの寝床で彼女が不可侵の空間で自分だけの世界にこもり始めた。
と思った矢先にデバイスに呼び出しの文字が浮かび上がる。差出人はMickalo Tamia......いや、彼女は恩人であり責任者でもある。僕のことを人一倍心配してくれるのも当然か。
“今どこにいるの?”の問いに僕は素直に答え、写真集を閉じて正星議院のロビーで彼女と会うことにした。
日が陰り始めたころ、大理石の床で反射した陽光が暗い部屋を輝かせていた。僕たちは窓際のベンチに腰掛け話を変えた。彼女が何を言いたいのかは理解できている。
僕はあの日以来リラーシアさんと顔を合わせてはいない。もちろんわけアリだ。一緒に戦った時、俄然弟子にしてほしいと言いたくて喉まで出かかっていた。
僕に宛てた彼女の手紙がその言葉を封印した。その中にはいい知らせと悪いものの2つが綴られていた。
「先日の戦闘を経て思うことが2つあります。
1つはあなたに興味が復活したことです。戦闘方法にはまだ粗が見られますが、もし騎士団にいれば私の隣にいたとしてもなんら不思議ではなかったでしょう。とはいえ誘うつもりはありません。あなたにはそれ以上前に問題がありますので。
2つは彼らのことです。私たちの部隊を中心として調査にあたっています。破壊した砲撃機をもとに入手先や特殊地域でしか手に入らない主成分がないかどうか鑑識を行っているのですが、2日以上経った今でも決定的な証拠には至っていません。ですが時間の問題でしょう。また姿を現す方が早いかもしれませんが」
彼女の文字には迷いがなかった。それを読み取った僕には姿なき彼女に否定することができず納得するほかない。そして見せたくなかったのか便箋の一番下に小さく文字を綴っていた。
「あなたは絶対に今回の出来事に目を瞑ってください。ミカロに他言も無用です。彼女に言ってしまうとあなたは否定できなくなってしまうでしょうから。先の戦いで意味は書かずともわかるはずでしょう」
彼女の言うように僕を避ける理由は嫌でもわかる。そしてミカロにそれを言えばどうなるのかもわかる。すぐにファイスたちを呼び起こして彼らを探しに向かうだろう。
それを否定できるほど僕は彼女を否定できる立場じゃない。彼女の意見を聞けばきっとファイスたちも明るさ満面の笑顔を見せて協力してくれるのだろう。
興味が湧いてしまった。間違いなく彼らは僕の何かを知っている。リラーシアさんの心配の気持ちだけはくみ取る。けど僕が先に進むためには障害でしかない。
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