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七つの星の英雄~僕は罪人~   作者: ミシェロ
第12章「二十歳の約束」
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第130話「印」

前回のあらすじ

・Kたちがワスポールを抑えようとするも、上位の鉄裁勲衆によって妨げられた。

・そこに彼よりも期日の早い人物が現れた。

「どうしたミコト? 未来の妻を取られたことを今更後悔しているのか?」


「もう十分だろう。これ以上はキミの望むものは生まれてこないさ」


「いいだろう、ただ力の収まりがつかんので許せ」


 紫の煙。側面が砕けていく。体をかわしている。


「こんなことをしてただで済むとでも?」


「お前たち五芒星に未来はない」


 嘲笑った。五芒星。知らない。


「それもよいだろう。俺は未来への原石を見られればいい。暇なお前たちよりはまともに動いているぞ」


 舌打ち。気持ちはわからない。


「帰る」


「飽きた」


 その割に足が遅い。まだ終わっていないが。


「どうして何もかも破壊してしまうのでしょうね。おかげで直すのが大変ですよ」


「知るか。それならお前が代わりに話をすればよかったんだ。人に任せて上手くいくなど、虫が良すぎるだろ?」


「悪くない言葉ですけど、それなら直すの手伝ってくださいよ」


 瓦礫が戻っていく。刃でやられたら面倒だ。


「いつまで睨んでいるつもりですか? あいにくお金は有り余っているので」


「まだ外に誰かがいるような気がして。ありがとうございます、ミカロを助けてくれて」


「キミを助けるつもりではなかったけれど、まぁ彼女のことなら気にしなくていいよ」


 差し出した許嫁の文書。今度はミカロの手判まである。


「これはキミを守るための最期の切り札。お父上さまが考えたことだろう。スター一族と聞けば、ワスポールみたいな輩が万人は集まるからね。早く相手を作っておくに限るよ」


 燃えた。


「邪魔者は退散するとしよう。行きますよ」


「分かっている。ただ一つ貴様を面白いと思えた。そこで礼にこれを渡す。来たるべき時まで持っていろ」


 言うべきじゃなかった。悪化よりましか。カード型の紙。普通だ。


 右手。感触は思ったよりも痛くない。


 他に誰もいなくなった。終わったのか。


「そんなに顔を赤くできるなら、大丈夫そうだ。これ、返しておくよ」


「まさか、読ん」


 自分の体に寄せつける。耳に息がかかってくる。


「よかった」


 肩に涙。止まらない。


「私、怖いの。この先何があるかわかんないし、もしかしたらシオンが殺されちゃうかもしれない。そんなだったら」


「大歓迎だよ。僕を倒すことのできる人だったら負けても構わない。殺されたとしても、ミカロを守れればそれでいい。だからもっと素直になってほしい。今一番隣にいてほしい人は、誰なのか? ここなら聞いている人もいないし」


 辺りを見回し目線は僕へ。


「シオンに決まってるじゃん」


 服が違うせいかいつもより彼女が近くに感じる。触れるたびに小さく反動が帰ってくる。誓いもしていないのに、唇を交わす僕らは罪深い。


 顔がさっきより赤い。いたずらが過ぎたな。


「嫌だった?」


「恥ずかしかった。誰かに見られながらとか、絶対に無理」


「それはそうと、一つ相談だ。許嫁になってくれませんか?」


「分かってるよ。どうせあの人たちと面倒事を。今なんて言った?」


 言葉が引きつっている。さっき約束したばかりなのに。


「僕と結婚してくれませんか?」


「急すぎるでしょ、いくらなんでも!」


「またもし何かあったときに救えないよ。だとしたら今ここで許嫁もなるのが一番じゃないか」


「悪くないとは思うけどさ、段階とかあるじゃん? そのパパとママもまだ認めてないだろうし」


「ミカロならお父さんやお母さんの考えに関係なく答えを出すと思うけど?」


「まぁ、そうできなくもないけど」


 足音。鬚の貫禄もあってスーツ姿が似合っている。僕は知ることのないものだろう。


「スター一族の規則には反するが、互いに愛し合っていることが証明できれば、問題ないだろう。早速記入してもらおうか」


「ええ、望むところです」


「ちょっとシオン! パパもなんでそんなにすぐ対応できるワケ?」


「僕を信じていないんですか?」

「シオン君を信じていないのかい?」


 ゆっくりと頷く。その顔は怒りを込めるように頬を膨らませていた。証明の写真に至るまで。


 確かに魅力はない。


「シオンさん、本当のお兄ちゃんになるんですか!」


「違うから。フロー、後ろ持ってくれない? どこかで引っかかりそうで怖くて」


「うん、あ」


 倒れかかるミカロ。どうしても正面でしか押さえられなかった。柔らかい感触が支配していく。


「大胆だね、お兄ちゃん」


 セインによく似ている。花を投げつけてやりたい。


「このバカー! もう知らない!」


 久しぶりの割になかなか痛い。なんだかんだ初衝撃だ。


「待ってお姉ちゃん! 私も手伝いに」


「次の職務がある。行くぞフロー」


「待って、私は二人を守るから」


「その必要はないとのお達しだ。また会おうシオン・ユズキ」


 カキョウさん。あの人に頼んで嫌いな食べ物でも聞いておくか。僕の百倍は思いがあるだろう。


 妙に距離を置いて座った。無理が過ぎた。


「痛くなかった?」


「大丈夫だよ。こんなの放っておけば何とかなる」


「そんなわけないでしょ。こっち向いて」


 絆創膏。少し不思議な感覚だ。


「今、私が持ってること変だと思ったでしょ?」


「違うよ。ミカロも人のことを考えるようになってきたのかなって思っただけだよ」


「どうだか」


「ケガはなかった? まぁさっきに比べれば、余裕だろうけど」


「なんともないよ。ありがとう。それとさっきのは気のせいだから! ルールには反してないでしょ?」


 折れておこう。後が大変だ。認めてほしいに違いない。


「これシオンが書いたの?」


 便箋。首を振る。罠ではなさそうだ。


「あ、パパがからだ。え」


 固まったまま動かない。読んでみるか。


 スター一族と西の頭首が本日の列車を貸し切ったため、通常での運転は夕方までとさせていただきます。ということなので、よかったら二人で泊まっていきなさい。使用人には休暇にさせてあるから、存分に。


 やられた。シェトランテに水上バイクを頼みたいが、無理そうだ。


 彼女はより一層僕から離れた。さすがに同意だ。覚悟も何もなくなってしまう。


「僕は宿でも探すよ。明日は駅で待ち合わせしよう」


 袖を掴まれた。力が入っていない。


「彼女を一人置いていく気?」


「しょうがない。お運びしますよ」


 意外と軽い。また顔が真っ赤になった。


「ちょっ、そこまで言ってない! 早く降ろして!」


「どこに傷が残っているかわからないんだ。着くまでは静かにしておいてよ」


「わかった。ひゃい! どこ触ってんのバカ!」


 指を揃えただけでこの反応。おまけに無抵抗な人物にむけての力とは思えないパンチ。どうして寄り添ったときはお構いなしなんだ。


 明かりすら付いていない。誰か泳いでいないといいが。


「降ろすよ」


「ちょっと待って、このまま進も。そうじゃないと足踏んじゃいそうだし」


「それもそうだね」


 何とか彼女の書室。やっと電気がある。ずいぶん身勝手だな。


 落としてしまった大量の書物。さすがに見ていないとは言えない。


「はい、これで最後」


「全部読んだの?」


「ううん、読んだけど興味がないのは忘れてる。でもためになったよ」


「そっか。シャワー浴びてくる?」


「うん、ってシオンは入らない口ぶりだけど。やめてよね、本当にほっぽりだすよ」


「一緒に入りたいみたいだね」


 痛い。今度は足か。見境ないな。


 寝室。相変わらず暗い。汚れが見えない、毎日やっているのか。彼女なら嫌がりそうだ。


 裸足の足音。飛び込んできた。


 上位を奪われるなり、彼女は目を逸らした。


「今日は約束破ってもいいかな。いろんなことがあったから、収拾つかなくて」


「ミカロは悪い子だ」


「そんな私が大好きなシオンも同じくらいだと思うけどね」


「そうだね」


「んっ……」


 ラベンダーの香り。いい匂いがする。彼女の腰に手を合わせた。


「電気、消して?」


「わかってるよ」



☆☆☆



 珍しく目覚めがいい。さすがに足止めは止んだだろう。


Kたちはなぜ待ち伏せをしなかったのか。まだ解けない。


「やっと起きた。昼まで寝てるかと思ったよ」


 毛布で体を隠す一糸まとわぬミカロ。もしかしたら猫とか怪物の顔に変化するのかもしれないな。


「恥ずかしさは昨日で消えたみたいだね」


「違う。シオンが出てくれないと安心して着替えられないの」


「やれやれ」


 彼女の書室本でも読んでみるか。何かヒントになるかもしれない。


 薬草種、調合法、属性。あった、術式展開。


 読めない。ミカロはよく理解できるな。いや、仕掛けがあるのか。


 逆さ。変化はない。


「シオン大変! 柵の外に大軍が」


 五十はいる。駅まで配備していそうだな。あの暗がりにしては仕事が早い。


「どうするの?」


「対峙してしまったからには、仕方がないこともあるさ」


 玄関を出るなり武装の音。さすがに距離がある。


「進撃ィ―!」


「風鈴!」


 二対の衝撃波。ミカロが飛んで行く。


「伊月風斬!」


 風の刃。だいたいは倒れているか。


 Kさんじゃない。しらばっくれたのか。


 水色髪の男。どこから現れた。


「悪いがこいつらは俺がもらう」


 列車。行先だけが幸運だ。


「いったい何の用だ」


「告げられたことだけを述べる。エイビス・ラターシャ、重大。直ちに合流せよ、とのことだ」


 嘘とは言い難いな。彼女も頷いた。

Twitter「@misyero1」で更新情報を確認できます。

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