第128話「ノート」
前回のあらすじ
・ミカロは強制的に結婚させることになった。
・フローと再会し、協力することに。
「こんな格好になったの、アンタのせいだからな」
「メイド集団の中にスーツの男を入れてくれるとでも思ったの? ミカロならともかくあの父親は警戒して損はないわよ」
相変わらずのミカロに対しての威勢か。僕もやりたくはない。
「彼女を陰口するのはやめてほしい。確かに甘いけど、本当はみんなと優しくしたいんだ。アスタロトさんもわかっているだろう?」
「雰囲気が変わったわね。やっと関係が進展したのね。二年前から確定していたけど」
「それよりも、どうしてここに部外者がいるのか、説明してくれないかな? 場合によっては戦うよ」
「俺たちはワスポールを追っているだけだ。お前たち、いやタミア=スター家は被害者みたいなもんだな」
「ここじゃ気づかれるわ。場所を移動しましょう」
カフェ。場所としてはいいが、人が多いな。何を聞かれるかわからない。
「気に入らないかもしれないけど我慢しなさい。物騒な話でなければ分散する良い場所よ」
「僕もワスポールを何とかしたい。調査をしているってことは、何かしらの証拠が必要なんだろう?」
四枚の写真。どれも同じ男が映っている。指輪。だいたい検討はついた。けど変だ。
「西の五頭首、ワスポール・ジエール。彼は戦争に加担し、そのたびに金銭をせしめる益取りグループ。それだけならまだしも、女性の持っている権利や財宝のために数度結婚し、姿をくらましていた。それを受けて政府はいかなる結婚を無効とする罪を本人には通達のみで決定した。だけどミカロを踏まえれば三回目ね」
「まさかとは思うが」
「三人共おんなじ手口よ。許嫁制度は本人たちの了承があれば適応外だし、名前を公表しなければ知られることもない。こうして私達が監視していなければね」
今いる場所は変わらないか。フローのオレンジジュースが三つ並ぶ。
「ただ妙なことが一つあるとすれば、私達の方ね」
「大きな問題を抱えているとか?」
「おおむねはそうだけど、違うわ。その婚約の日に限って仕事が三倍以上に増えるの。腫れ物に触れないように動いていると私とギルは思っているわ」
「だが心配するな。今回は新規のメンバーを多く揃えた。意志を曲げない者たちを集めている」
回数としたら六、いやそれ以上。穴は一つしかない。
「悪い、用事ができた。急ぐぞフロー」
「う、うん。ごちそうさまでした」
先を塞ぐ矢。手で投げたのか。
「何をするかは知らない。けどアンタは式場にこない方が良いわ。嫌な価値がかかっているから」
五頭首。領土主たちの集合。彼女の部屋に何か弱点があるかもしれない。
本崩の音。彼女の姿が見えないほどの量。全部魔法の本だ。それぞれ線が引いてある。
「助けてシオンさーん!」
「今どかすよ」
山をどかした先。鍵穴。信じていたのか。
茶封筒。一冊のノート。これまでのことが書かれてある。セプタージュはない。
告白の方法。彼女が渡すはずもないな。
まずは綺麗なところ! でも夕日の見える場所だとシオンがセインを思い出しちゃうからそれ以外で。
ずっと好きでした、付き合ってください!←なんか勢いがましいかも。シオンの本心が聞けないかもしれない。
シオンは好きな人、いる?←エイビスにごまかしすぎだって言われた。やっぱりキツ過ぎず、ちゃんと気持ちを伝えられるやつにしないと。
大好き、大好き。←本当に言えるかな。私の方が恥ずかしくなっちゃいそう。そしたらシオンの返事どころじゃなくなっちゃう。
ごめん、好きになっちゃった。←ごめんってなに? 誰に謝ってるんだろ? すごくあざとい。
好きになっても、いいかな?←これこれ! 疑問形だからシオンも答えてくれそうだし、言うのもそんなに難しくない! これに決定!
持って行かなかったのか。一番後ろにもやけに書いてある。
シオンへ。
私はあなたのことが大好きです。口には恥ずかし過ぎて言葉にできなくてゴメン。きっかけはいろいろあったけど、やっぱり一番大きかったのは私たち、シオンが入る前のチームにいろんな世界を見せてくれたこと。
アスタロトに会わせてくれたこと。リラの弟子になって、彼女を私たちの輪の中に入れた日常を作ってくれたこと。エイビスに会わせてくれたこと。私が1人シオンの記憶を取り戻そうとしたとき助けてくれたこと。何度も何度も何度も何度も私を助けてくれたこと。
落ち込んでいる私に綺麗なものを見せてくれたこと。怒っている私を止めてくれたこと。こんな私を可愛いって言ってくれたこと。どんな服を着ても似合っているって言ってくれたこと。髪形を変えたらすぐに気が付いてくれたこと。そして何より、私の傍にいてくれること。そんなカッコよくて優しくて、でもちょっとだけ不器用なシオンのことが、私は大好きです。
今度書いてみるか。真っ赤になる顔を見て笑い合いたい。僕も大好きだ。
「シオンさん!」
鉄の着地音。体が動かない。眠い。
★★★
「シオンさん!」
朝。やられた。
「フロー、飛べるか?」
「それは無理だよ。落ちるならできるけど、場所と時間まではちょっと」
「わかった。それならある場所に着いたら、落としてくれて構わない。できるな?」
「うん、そうするよ。でもどこか指定してもらわないと」
「心配いらないさ。ミカロを信じているから」
デバイスの通信が終わっていない。
上空となると、さすがにコートが欲しいな。フローは何度もやっているのか。
都合よく白い場所は一つしかない。
「ここだ、頼むフロー」
「私は守護者として動くからね」
「できればミカロの近くにいてくれるとうれしいよ」
手を離し落ちる。門前。道を塞ぐ三人組。
コートを預かってくれるわけじゃなさそうだ。
「通してくれないか。大切な人が待っているんだ」
「申し訳ない。ドレスコードのない方はご退場願います」
短刃。すぐに決めるか。
「お引き取りっ」
「邪魔だ」
砕ける鉄。手入れの届いていない刃。雇われ人か。
「武器を捨て、手を頭の後ろに置け!」
銃に剣。数百人はいるか。スーツが同じ。
「掃討せよ!」
紐の付いた矢からの電撃。煙の香り。
「炎爆!」
僕もろともやる気だったな。
「Kさん。一般人巻き込んでいますよ」
「リオース、お前目がなくなったんじゃねぇのか? どうみても手配書の写真通りだろ。お前、名前は?」
アスタロトとギルの驚き顔。ヒラユギの挑発、受けてやるさ。
「シオン・ユズキだ」
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