第126話「寝水」
前回のあらすじ
・最後の一人となるも、最前線機関には加入しなかった。
・ミカロと恋人になった。
「フェーゼちゃん、男に不慣れだからね。嫌悪したいであげてね」
「炎帝さんを見習うよ。それとありがとう、いろいろ相談して気分が悪くならなかった?」
「これからより苦しい戦いに挑むことに比べれば、シオン君ほどじゃないよ」
「どうかな。そっちは大変そうだけどね」
「それも承知の上だよ。あそこの角でミカロちゃんが休憩しているから、行ってあげなよ素敵な彼氏さん」
両手にグラスを持ち、進む。妙に緊張が走る。考えすぎか。
緑髪が見えた。
「あ」
「……」
セインはシャルルフォーゼさんと会話中。やってくれたな。わかった。これくらいなんとかしてみせるさ。
「昔のこと、今でもときどき思い出すんだ。僕が一人外で遊んでいたら、キミが現れた。きっと相手役として呼ばれたのかな。そのときはセインとも会えなかったから、より楽しかった。次に会ったのは、奪還したとき。覚えてはいなかったけど、恩返しになれたかな」
彼女がこくりと頷く。眼は合わせてこない。
「どんな出来事があったのかは知らない。でも、外を見る機会が少なかったと思うんだ。優雅で料理も洗濯もできて日々勉強する行動力がある。傍にいてくれたら僕にとってうれしくても、エイビスの邪魔になってしまう。一緒に来てくれなくても構わない。僕は」
「せっかくのご提案ですが、わたくしはシオンさまたちと行動を共にいたします。確かに見てみたい景色、料理などはありますが、自分と同じ命運をもう生み出したくはないのです。例え無鉄砲な言動だと分かっていても」
それでこそエイビスだ。肩の力も消えた。
「シオンさま、少し失礼してもよろしいでしょうか?」
「構わないよ」
理解しているとさすがに言いづらいか。僕を見るなり彼女は腕に力を入れた。自分を見ているみたいだ。
「いるかい?」
「うん、ありがと。ウルカ、調査みたいに質問してきたよ。あの人に彼氏ができたら反撃してやるんだから」
一気飲み。根ほり葉ほり聞かれたんだろう。助かった。さすがに話し疲れたか。
「ねぇ、どうして助けに来てくれなかったの? ずーっと待ってたんだよぉ?」
「ほら、ミカロが倒した二人組に用があって、助けに行けなかったんだよ」
「でもセプタージュのときはチームでもないのに助けに来てくれたじゃん! ウソツキ!」
なんか変だな。力を感じない。
「そんなこと言うお口はー、こうして塞いじゃいまーす」
頬に右手。誰だ、中身を入れ替えたやつは。
頭を掴む右手。爪がくい込んでいる。体がない。
「ダメぇ。シオンは私のだからー」
「まさかアンタ、これでナニしようとしてんの?」
「ご、誤解ですよ。ミカロが確認しないで飲んだみたいで」
「へー、ベッドに誘い込んでどさくさに紛れて。ずいぶん良い、ゴミぶんじゃない。なんだかウラヤマシイワ」
「話聞いてます!?」
瓶を口に突っ込み、苦い味わいが流れていく。終わればさすがに気にしないだろう。
浮かんでいるみたいな感じだ。それに疲れが起きてきている。
「そんじゃ第二ラウンダァー! なに無視してんの。そんなときにはスポドリでも飲んでしゃっきりしなさいよ」
「ちょっとシャル、やりすぎ! 大丈夫シオン君? シオン君!」
★★☆
真っ暗だ。心地いい。誰かが運んでくれたのか。セインかな。後で礼を。
同じベッドにミカロ。しまった。今の声で目が開いた。
昨日のように頬に手を添え、唇を近づける。柑橘の匂いがする。一度だけなのが乏しい。
「シオンの計画が終わるまでは封印してもいいかな。嫌じゃないけど、みんなの迷惑になるかもしれないし」
「いいよ。ミカロが好まないことをするはずないだろう?」
「変に格好つけなかったら、良い言葉なのになぁ」
「じゃあ契約のキスを」
「……うん」
着替えを済ませるなりノックの音。さすがにセインたちとは違うか。
「待たせたね」
「いえ、二人には色々と特別な準備が必要ですから」
「それ、みんなに言わないでよ。そういうやつ嫌いなの。また昨日みたいにされても困るし」
「かしこまりましたわ。皆さん御集まりですので、急ぎましょう」
入り口に五人の姿。始めるか。
袖。ミカロの手。
「私、家に戻って話さなくちゃいけないことがあるの」
今日は二十を過ぎた彼女の誕生日。心が落ち着かない。
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