第125話「離れない」
前回のあらすじ
・セインたちとの激戦かと思いきや、現れたロゼ。
・反則負けで退場したが、F.Z.が目の前に。
「五門・明星神樹」
大きい。避けたのに表情に変化がない。力なら勝てるだろう。
正面を弾き、腕を張った。来い。
「六門・閃獄峡鎖」
稲妻。賭けをして助かった。剣を抜こうとするも、動かない。
「三連・髄震!」
吹き抜ける風。
「龍火!」
点から実体化する炎。
「結終!」
氷の塊。火はまだ燃えている。右手のせいか。さすがに疲れた。少し横になりたい。
「ほら、まだだよ。シオン君が倒れたら、再戦になっちゃうんだから」
「セイン。どうして?」
「シオン君は私があの毒でやられると思ったんだ。失礼しちゃうなー」
「てことはまさか?」
両手斧を見せるなり彼女は両手で空を指す。特殊デバイスが赤い。僕のとは違う。
「物騒だよシオン君。それにこれ」
口に突っ込んだのは試験管。飲んだらミカロが。水だ。まずい。
「大丈夫だよシオン君。毒でも神経のやつだから、体に害はないよ。興味があったんだろうね」
「最初からそう言ってくれ。おかげで汗が湧き出てきた」
「ちゃんと拭いてよ。じゃないと助けないからね」
「もう自分で歩けるよ」
「まぁシオン君としては一人で入りたいよね」
わざわざここに来させたんだ。どうせ目的はアレに決まっている。扉を開くと、兵士やロビンさんたちが通路に跪き、奥には金飾の椅子に座る男。笑顔にはなれないな。
「勝者よ、機関長の前へ」
おかしい。さっきまでの疲れがない。彼がやったとは思えない。
言われるがまま応接間へ。話すにはあと十八人ほど足りない。
「しきたりのようなものだから一応聞いておくよ。我が機関に加入してはくれないかい?」
「せっかくの誘いですが、遠慮しておきます。果たさなきゃいけないことがあるので」
「気になるね。どんなことを?」
「多くは話せませんが、あなたも対象の渦中にいることは間違いないです」
リーダーにしては損な爆笑。けれどすぐに殺気に変わった。
「わかった。試してみるといい。うちのはなかなか面倒なのが多いからね。覚えておくよ、シオン・ユズキ」
「失礼します」
姿がない。わざわざやる必要はなかったのに。小さい女の子が近づいてくる。
「どこに配属された。私のところかナ?」
「すみません。外でやらなきゃいけないことがあるんです」
「シオン、私達のところにいてほしいナ」
頬を膨らませ扉への道を塞ぐ。賭けの対象になっていなければいいが。
「また会う時まで楽しみにしていてください。いつか来ますから」
「ダメ。シオンここにいる。わかったかナ?」
出る最後まで彼女はむくれたままだったが、ナイフを振り上げはしなかった。
それに友人に刃を向けたくはないな。
セインは戻ったのか。ここからが本番だ。
緊張の手で扉を開く。バルコニーの先、髪をかき分け彼女を見る。夕日に光る七色の輝き。綺麗だ。
「ずっとそばにいてほしい」
駆け出し唇の感触。今度は罪悪感のない味だ。少し甘酸っぱい。気分転換に使ったのか。彼女の涙が止まらない。感覚が面白く忘れられない。何度でもしたくなってしまう。息が流れてくる。
「私も大好き。絶対にシオンから離れないよ」
指ですくったのに、まだ出てくる。本音が飛び出してきたのかな。目を瞑った。
ノックの音。メイドさんだ。花吹雪は持っていない。
「こちらを」
小さな便箋。パーティールームへお越しください。名前がない。セインの話だと明日のはずだ。
「私はこれで失礼します」
ベッドに座る。連絡するべきか。
「行かないの?」
「いや、行こうか。さすがに罠じゃないだろう」
「その前に聞きたいことあるんだけど」
「あの後のことかな?」
「それもあるけど、私の好きなところ教えてよ」
デジャヴだ。思いついた。
「好嫌がはっきりして、それを誰にも譲らないところが好きだよ」
「そ、そう。へー」
顔が赤い。せっかくだから今のうちに仕返ししておくか。
「今度は僕の好きなところ教えてほしいな」
「また今度ね。早くしないと誰か待っているかもだし」
逃げた。壁にでも追い込まないと答えてくれそうにないな。
扉を開けるなりミカロを抱きしめるウルカさん。後ろにはシャルマーナ。ドレスコードではないにしろ、スカートを着ている姿に違和感がする。
「やっと来た。それじゃあ私が代表して、かんぱーいっ!」
僕の知っている人しかいない。隠すつもりはなさそうだな。
それにしても明日出てきてもおかしくないほどの風格整った銀ケースにシェフ。あの人でしかできそうにない芸当だ。
「さてと、ミカロちゃんはちょっとこっちに来て。聞きたいことがあるの」
「う、うん。向こうで話してるね」
「わかった。ミカロも楽しんで」
少し面倒だな。誓約としては何も間違ってはいないが。
エイビスもいる。目を逸らされた。明日は彼女の意思を尊重しよう。
ちょうどいい。彼らと話をするか。
近づくなり赤髪の女性が道を塞ぐ。良い判断だ。
「やめろベル。ここは戦場じゃない」
「けどこいつは」
「セインさんの顔に泥を投げるのか?」
「……わかった」
この二人はもしや。気持ちが湧くのもうなずけるな。隣に座る。
「ニンバス、炎帝たちのいる町で襲ってきたのは君たちだろう?」
「気づいていたのか」
「確信はなかった。でも動きが似ていたんだ」
「それで、俺たちを機関に突きだすと言いたいのか?」
「それもいいけど、教えてくれないか。どうして僕を狙う」
ベルさんが彼の膝に手を乗せ、話を逸らした。彼女の反対する声。一筋縄とはいかないか。
男がこちらに振り向く。
「深くは話さない。俺たちの目的はただ一つ、エイビス様をお守りすることそれだけだ」
「興味深い。それなら僕に協力してくれないか。エイビスと一緒に行動できるし、悪い条件じゃないだろう?」
考えるのか。となると邪魔なのはアレか。
「いいだろう。エイビス様がそう望むのであれば、協力するまでだ」
「よかったよ。それより彼女は君たちを知っているのかい?」
「貴様には必要のないことだ」
鋼みたいだ。一通の紙にナンバーを書き、渡す。仲間が増えたことに変わりない。
重力を知らず逆立つ赤髪。なんだこの仕事を終えた樽の量は。三つ、いや七つくらいあるか。もう一人に服がないのは酔っているせいだろう。
まだ飲み足りないらしく、僕を見ても殺気が消えていない。
「約束、覚えていますか?」
「二言はない。支援はする。賛成ではないがな」
「ふ、そんなこと言って本当は親しい友ができたのが初めてで恥ずかしいだけであろう? さっきまで見えた顔の寂しさが消えておる」
「なら両手で目を開くといい。千本桜が見られるやもしれんぞ」
ここらへんで失礼しておこう。お酒を飲まされるかもしれん。
「待て」
耳元がくすぐったい。
「名はフェテルゼウスだ。忘れるなよ」
「はい、フェテルゼウスさん」
「そうか、そんなに飲みたいのなら入れてやる。グラスがないか。しょうがない直接」
「まだ用事があるので、僕はこれで失礼します」
冗談には聞こえなかった。話をしたことが少ないのだろう。
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