第124話「強いからこそ支配する」
前回のあらすじ
・全員から一人の勝者を決める課題のルール。
・ヒラユギに勝利した。
「シオンはどうするの? 私はできるなら戦いたくないけど」
「そうもいかないさ。セインならきっと攻撃してくる。エイビスと合流しよう。そうしておけば少なくとも出会っても撤退してくれる」
地震を感じる揺れ。偶発的に起こるはずもない。どこに行ったかと心配していたけれど、そこにいたのか。
動かない石像。彼女は細剣で僕の頬を突いた。
「見せてもらおうか。どちらが強いかを」
「待ってシオン、相手なら」
「私に任せて」
ミカロの手を弾き現れた川。形が整うと彼女は拳を見せつけた。
「フェーゼちゃんについてだったら、この中で一番詳しいからね」
紫電。本人が言ったことなら考えるべきではないか。
「お願いします、ウルカさん」
「うん」
道に佇む女性とバイク。彼女は僕を見るなり笑った。
「私が相手だよ、シオン君」
洗脳もありえなくはないか。
「川遊びのときにやった失敗を覚えているかい?」
「本気を出して熱湯で勝負したことだね。あのときママが鬼のように怒っていたよね」
勘違いか。セインは誰かに協力する質ではないと思ったんだが。
「逃げられるかと思ったけど、もう一人いるみたい」
「そう、できることなら降伏が望ましいけど、自分たちのことを思えば戦うのが無難よね」
シェトランテ。誰がリーダーとも思えない。身を寄せた方がいいな。ここまでくれば彼女を狙うほかない。
「やらせないよ。光香炊翔!」
熱い。蒸気か。どちらかと言えば電撃なのか。さっきのようにはいかないか。
「封輪栓!」
光の物体化。水とほとんど同じか。夕日すら見えない。
「昨日実はセインをソファーに寝かせて俺は床で横になっていたんだが、気づいたか?」
「そんなはずないよ。私が起きたときシオン君は私の膝上にいたんだから」
まぁ内心では分かっていたが。
拍手の音。誰だ。
「くっ!」
ガラスの割れる音。赤いゴーグル。戦況としてうれしいが、破損している部分はどう見ても銃撃の跡に見える。乱入者か。
黒鎧。おかしいな。温度が低い。
なんだ。体の力が入らない。
吸収して、確かめるか。
「カハッ」
セインも倒れている。あいつがやったとみて間違いないか。ただ気になるな。防御は万全だと信じたいが。
「有者とほざく輩がいるからどれほどの実力かと期待したんだが、勘違いだったようだ。いや、君が強すぎるのかな?」
隣の赤鎧が誰かを顔から持ち上げ連れてくる。緑髪は彼女しかいない。力を解放しかけた。
「離せ。彼女との勝敗はついているだろう」
舌を出した。汚いもので彼女に触れるなっ!
「かっ」
赤鎧。動きが見えなかった。乱入者とは思えない。刺客とも考えにくい。
「すまないね。彼女は細胞を調べたのだが、少し異質でね。ぜひとも研究に協力してもらいたいのだよ。そういった意味では僕はキミも知りたいね」
「悪いな。先客がいるんだ」
「リナ、お帰りのようだ」
赤鎧。防御が間に合わない。鉄だけかと思いきやそうでもない。考えがまとまらない。
「すまないね。けれど仕方ない。拒んだのは他でもない彼だ」
「シオンさま!」
「心配するな。君の代わりくらいは務めてやろう」
指弾き。動きが止まった。いや、かすかに震えている。
「ずいぶんと一方的ね。反撃はしないのかしら?」
何回立ち上がって来るんだ。まるでゾンビだな。今回が本物とも思えないが。
表情は変わらないか。試験管が4つ。何とかするか。
「倒れている4人が助かるかどうかは君次第だ。まぁ観察結果から言って君がそうしないとは考えにくいがな。使い時があってちょうど良かった。こうしたほうが盛り上がりそうだからな」
「やるわよ」
「わかっているさ。ただ、ありがとう」
「ずいぶん余裕そうね」
「恐怖を知らないだけだよ」
ロゼの正面にリナの姿。もう脱出してきたのか。シャルマーナさんが通り抜けるも、紫鎧が塞いだ。さすがにこれを使うか。
術封巻。機械だと信じよう。
反撃をするよりも拳が早い。水で防いでもほとんど意味をなさないか。正面、横、斜め。腕を散らすか。
なんだ。水が弾けない。それどころか崩壊していない。左手に妙な流れ。ウルカさんの指に繋がっている。青顔に笑顔で僕を見る。
「水も使えるなら、先に言ってよ。協力しそこなっちゃったよ」
「そんなことありませんよ。おかげであっちの計算には入っていないみたいです」
「ちっ。私を不快にさせた罰だ。お前が飲め」
「水夢。シオンさまは考えなしのお方ではありません。あなたとは違いますので」
「アルルシアス!」
鎌の人型か。攻撃を受けないにしろ、時間がある。移動する時間に攻撃も無理か。解く。
「珠水!」
吹っ飛んだ。最小サイズなら何とか戦力になるか。
水の壁で押さえつけておけば動くことはないだろう。スキを見せろ。
口を開けた。中に繋がれ!
「っ、泡沫珠!」
動かない。拘束したいが、そうできるほどのものがない。跡にならなきゃいいが。
「シオン、美味しいところはあんたに任せるわよ」
F.Z.さん用だったけど仕方ない。残り全てを使う。
下半身、上半身、両手斧。それぞれに一つの魔法。さすがに触れられはしないだろう。
「ロゼっ!」
半透明の緑の壁。彼は僕を嗤ったまま。指を揃えた男。誰だ、昨日まで見てきた人物にはいなかったはずだが。
-乱入を観測。反則負けを宣告します-
デジタル音声。彼はそれでも僕を睨む。
「助けはいらぬと言ったはずだが?」
「緊急のお呼び出しでしたので。処罰は私が受けます」
「いい、気が失せた」
殺気がない。意味は伝わっているみたいだな。
背を向け歩き出す。
「私は強い。だからこそ何者も自由に支配してよいと考えている。それが違うというのなら、君が強くなって証明して見せてくれ」
すがすがしい笑い、姿を消した。ミカロたち、シャルマーナも戦闘不可にされている。残った人数はだいぶ少ない。
試験管。まだ残っていたか。
「シオンさま、二人を」
腹から飛び出した剣。赤い刺繍が全体に広がっていく。倒れる奥で剣士が笑う。
「全く気持ちの悪い連中だ。人のために何かをしようなどと、理解に堪えん。どうしてこうもこの男を守ろうとするのだ」
使用していなくてよかった。
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