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七つの星の英雄~僕は罪人~   作者: ミシェロ
第11章「セプタージュ」
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第123話「玉」

前回までのあらすじ

・エイビスとミカロが互いに戦闘、それを止めると告白を受けた。

 通りの十字路。地図は間違っていない。誰もいない。罠にしてはずいぶんと雑だ。彼女の仕業とは思えない。


 専用端末に一通のメール。ルールか。


 ゴール地点であるセプタージュ本部まで辿りついた一人が勝者。条件として他のメンバー全員がリタイヤしているか、全体人数において過半数以上の賛成を得ている必要がある。


 前者はわかりやすいが有者だけを好む人がいるくらいだ、後者はほぼ成立しないだろう。


 そう主張するかのように、桃色髪の女性は僕を見るなり睨む。


 攻撃してくるのか。反撃したものの衝撃がない。手の内を見せあっているから体は無傷。ただどうしても敵とは思えない。両手斧を下に向けてしまう。


「シャルルフォーゼさん、僕は戦いたくありません」


「勝者の座を渡せと?」


 到達に遅い側面の攻撃。剣なら弾かずとも避けるのに難しくはないが、僕の弱点を見抜いたのか。


「もう一人のエイビスさんが見ていたらどう思いますかね」


「彼女をどうした?」


 動きが止まった。光を目に送り時間を稼ぐ。鉄の衝撃音。誰かが近づいている。男は姿を現し彼女にのしかかった。目がヒラユギに似ている。


「こいつは貴様が対峙していいものではない。別の相手を探すことだな」


「断る。お前などに機会を渡す意味などな」


「ならこうするしかない」


「があああああっ!」


 放った片腕が空を舞う。痛みを握り隠し、顔を上げていく。確かに殺し以外は違反じゃない。死んでいなければ星は時間にもよるが体を修復してくれる。痛みだけが思い出。気に入らない。


「お前の弱点はわかった。有者には程遠い、やめておけ」


「力は殺すためにあるんじゃない。守るために存在しているんだ」


「知ったことか。どう使おうが自由だ。あるのは勝敗のみ」


 大振りをし過ぎか。攻撃が当たらない。さすがに覚えられてはいないだろう。


『命を削る。それを君はできるのか?』


 覚悟はできている。目線を横切る通知の数がそれを増長させる。勝者の文字をミカロとヒラユギが舞う。十数人はもう倒したのか。


「死ね!」


 建物が一つの球体を作っていく。少しずつ近づいてきている。一つ一つの瓦礫は僕を避けていき、彼の唖然とする顔が映る。冷や汗が静かに垂れ、彼は膝をつく。


「動くな。そうすればセプタージュも退場させてくれる。反撃しようなんて考えるなよ」


 震えている。けれど立とうとはしない。ここは目を瞑っておくか。瓦礫と衝撃の音。紫の髪が反動に揺れる。


「それが本性か。処刑の時間じゃ」


「本当に協力してくれないのか?」


 点を並べるばかりか。いつも通りで行こう。体力を無駄に消耗する。


「あいも変わらず殺気で渦巻いているな。なぜ彼をそこまで狙う?」



「貴様には関係ない。去れ」


「ファイファムさん、もう一人をお願いできますか?」


「今回だけだぞ」


 正面突破。やはり力でなら押し切れそうだ。それに距離を取らなければ奇術を使用されることはない。


 両手斧の手前で止まる左拳。彼女も体術を身に付けたか。正面斬りを弾いても、それが邪魔をする。このままじゃ防戦一方か。


 左裏から現れた剣先。狙いは彼女に変わりない。ここを叩く。


「画竜点」


 上空からの攻撃。やっぱり隠れていたのか。目の前には赤髪。顔に覚えがある。


「手助けは無用と言ったはずじゃが?」


「そんなこと言って防戦一方じゃ進まねぇ。二人でやるぞ」


「……本当に戦うのか、ファイス?」


「俺はお前が正しくないと思う。それだけだ」


 煙幕。ファイスはまだ僕の能力については気が付いていないのか。風が吹きすさび体を覆う。その油断をもらってやる。


 自慢の右拳。考えることは同じか。拳の動きがおかしい。


 頬の傷。正面には腕と刀。頬から生臭い匂い。


「離れていろ、ファイス」


 両手斧だけに風を集約させ、角の形に留める。光と闇の翼。彼女も隠していたか。


「迅雷!」


 左肩。地面を擦ったせいで前が見えない。


「巨人の」


 風のブーストパンチ。まだだ。この程度じゃ止まらない。


「風導!」


 階層くらいの穴。これなら簡単には来られないだろう。左手もさすがに限界か。


 おかしい。ヒラユギがいない。逃げるような理由もないはずだが。


 三角の黒帽子で顔を隠し、彼女は三日月の口をした。


「ごめんなさい。もらっちゃったわ。むしろ感謝して。面倒事が一つ減った」


 零れる赤い水。異空間から逃れてきたのか。紫髪がゆらゆらと風に流れる。


「よもやスキを見せるとは思いもしなかった。命を乞いても何もせん。そのまま眠っていろ」


「そうね。あなたが泥にならなければいいけど」


 泥に姿を変えヒラユギごと異空間に入っていく。偽者か。そのまま消えてしまった。


 奥に誰かいる。降伏はしてくれないだろうな。


「出てきてくれ。いるんだろう?」


 挨拶代わりの奇襲。剣でよかった。構えに見覚えがある。


 回すような剣さばき。おかげで次の動きが読みにくいな。


「ひどいじゃない。無視する男は嫌われるわよ?」


 降り注いだ黒柱。さすがにやられてはいないか。声はやっぱり彼女か。ヒラユギは遊ばれているようだ。暇を持て余している顔だ。


「悪いけど、一位だけは渡せないのよ。インジュラ・ヘルエス」


 鉄扇子。彼女が攻撃を弾く。灰のように散った。両手斧で受けていたら危なかった。


 飛び蹴り。彼女も見覚えがある。シャルマーナは無視か。敵にさせられるのもわかる気がする。また近づいてくる。


「七門・苦遠」


 橋ほどの大きさの五枚刃。激戦区に迷いこんでしまったか。セインが走行する後を彼女が後を追っていく。とりあえず彼だな。


 打撃に欠けているのはわかった。対峙してこない。風で速度を上げる。


 拳が入りこんだ。イツキの斬撃も間に合わない。彼女から叩く。


 足を掴まれた感触。ミカロじゃできるわけがない。シャルマーナ、奥に鉄扇子。飛び上がる拳の彼女。風を一度捨てる。


 感覚が消えた。緩んだせいで彼女よりも上を飛んだ。まだ挟み撃ちができるだけまともか。


 石の砕ける音。また偽者な気がする。それにしてはやけに丁寧な池だ。本物を思わせる。血を振り掃い、彼女は僕を睨んだ。


 背後から剣。払い除け刀と対峙する。疲れの色がない。


 彼女の後ろにも拳。外を弾き飛ばし、横振り。さすがに奇術も使ってこないか。とはいえ邪魔だ。嬉しいことに彼女も背中を見せた。



「紅蓮乱舞!」


「空輪天結!」


 高速での十突き。力で押しきれた。炎上しなかっただけまだ助かったな。


 彼女も同じ方向へと飛んでいく。


 立ち上がる二人の正面にミカロ。


「時間は稼ぐけど、5分で何とかしてね」


「大丈夫だ。それだけあれば嫌でも決着がつくよ」


 彼女の後ろに炎の柱が並んでいく。ありがとう。


「あの女は後悔するだろうな。二人で戦えばまだわからなかったものを」


 残りは四つと少しか。ここはもらうしかないな。


 地面が変だ。異空間の色に似ている。


 正面に右、斜め。速度が上がっている。それに少し見にくい。光が入りこんでくる。


 もう一度来い。来た。


 暗闇からヒラユギの背。刀が対峙した。血を吐いた。まだスキがあるか。


 焦点が合わない。取っておくつもりだったけど、使わないと無理そうだ。


 全量を使った一撃。彼女には少し足りない。いや、彼女が拒んだ。刀と共に横になった。


 ひとまず彼女を探す。たぶん倒れてはいないだろう。


「とどめを刺さないのか?」


「元からそのつもりだよ。ヒラユギは僕の計画に必要なんだ」


「甘いな。それに加入するつもりもない。いずれまた姿を見せる。それまでは決して誰にも負けるな」


「楽しみにしているよ」


 押しのけられるような突風。二人が倒れている。三人の通知。ひとまず激戦区はなくなったか。時間稼ぎと言っていたわりに責められない笑顔だ。

Twitter「@misyero1」で更新情報を確認できます。

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