第121話「最前線の掟」
前回のあらすじ
・指が治っていた。
・シェトランテに手加減をして倒した。
光に触れるとやはり体の中に入っていく。次に狙うとしたら、なんで彼女がここにいるんだ。おそらく相手は気づいていないと思うが。
飛び上がり気が付けば首を掴まれていた。動かしても意味がない。背中の両手斧も届かない。
「彼女はリーダーではない。残念だったな」
まさか自ら言うとは思わなかったが、それよりも彼女が重要だ。血が走るほどの目力が伝わって来る。
足で振り掃い両手斧を使って牽制していく。横を透明な何かが通り過ぎた。頬に血の流れる感覚。これが能力か。
剣じゃない。細い何かだった。なら一時のタイミングを狙えばいい。
「くっ!」
勢いに重さが変わった。剣と似ている。見えないのは面倒だな。対策だけでもハズレが多い。
振りかぶる動き。見えないが動きやすさからして鎌か。僕の知っているものならなんでも使えそうだな。
「シオンさん!」
周囲の重圧が増していく。本来なら足を踏み出すことさえ難しい。動けない敵なら透明は関係ない。
眼球を狙った攻撃。震えている何かを握った右腕。彼女の言葉を少しだけ思い出しかけるところだった。
『明日は魔法武装を封印しなさい。さもなくば、また三指になるわよ』
それを使わずとも倒す方法はあるだろう。けれど彼女を信じずにチームとは呼べない。いくら君の考えが正しくともね。風は僕を好んでいるんだ。
「凪貫!」
音の不良まで加えた。これならさすがに倒せたか。透明な壁が見える。砕けてはいない。そこに押し付けられていたのは女性に投げられたマシュさんの姿。光の壁を掴み体に取りこんでいく。
「面白いね。けれど私が上手だったようだ。この状況を君ならどうする?」
両手斧の下部を押さえる反応がない。それより今はこの二人だ。光を纏った両手斧が透明な武器の正体を照らす。部分だが、無いより有利だ。なんだ。背中に何かついているが、わからない。銃にしてはやけに平べったい。
「女は任せろ」
「そういいたいですが、準備中みたいです。二人で倒しましょう」
飛び出すなり女性はこちらに来た。逃げないのか。一撃を試して分かった。体が妙に柔らかい。僕の両手斧と彼女の剣を縫うように曲げて避けている。拳に武装をしていると分かっていても攻撃が当たらないんじゃ埒があかないな。
「獅子炎!」
炎があれば逃げ道を防げるか。ここは戦法を変えよう。わざわざ二人で大技を使う意味もない。
「光鎖!」
「一気に決めるぞ」
相手が引きちぎる前に勝負を決める。右ストレートをかわし、両手斧を頭にたたきつける。壁に打ち放ち念のために光鎖を四肢に。
「桜燐月!」
「……気持ちがよかっただろう? 自分のお気に入りを使えたような笑みの表情をしていたからね」
「かはっ」
接近しても間に合わず彼は剣を彼女から抜いた。捨てると僕に大砲を構えるような恰好を取り、嗤う。
「キミにはこれがお似合いだよ」
「風をなめないでください。彼女が怒りますよ」
急接近に使ったのは良かったが、彼女を守りきれなかった。運命が笑っているのか。
「ならキミは自由に戦ってくれ」
何かが迫ってくる。冷たい感覚。鉄骨か。
弾くのは難しくない。何か変だ。彼の手はウルカさんの首を掴んでいた。何かが切れるような音がする。
「手をどけろ」
「キミがやってみればいい」
羽の砲撃が見える。彼の前で両手斧を引き、貫く。微かに揺れヒビの入る音がする。二個目も使ってやる。このまま吹き飛ばせ!
「凱初貫徹!」
割れた。彼を吹き飛ばすと反動で僕まで喰らっていた。動きはない。もう一人はウルカさんが倒している。中央に降り立ってメッセージのように天を指すなんて、なかなか悪くない最後じゃないか。
悲しいのに笑ってしまう。
ウルカさんが謝りに来るかもしれないな。きっと全身から滝を流すに違いない。けれどその情景が霞んでしまうくらいに悪くない最後だ。
ありがとう。
「ホント、男ってのはどうしてこう恰好つけたがるのかしらね。劣化にはなるけど我慢してもらうからね」
触れるなと言いたかったが仕方ない。彼女は小指をしまい、壊れたゴーグル片手に歩き出す。さすがにミカロも終わっただろうし、そろそろ終わった後の行動を確認しておこう。
☆☆★
いないな。小さいノックの音。僕が少し先だったのか、きっと明日は雨が降るな。開けるとやっぱり不運がいた。
「ここだと誤解されそうだから、入ってもいいかしら?」
水色に光り浮かび上がる小指。眺めていると安堵してしまう。彼女はムカデのような鉄製の装着具を置く。サイズが似ている。
「最初は信じていたわ。今日一日だけなら、なんとか小指も薬指も保ってくれるんじゃないかって。けどやっぱりアンタがバカなことだけは忘れていたわ。そっちがまだ付いているだけでも感謝すべきね」
「セプタージュで休むことは認められていない。体調管理するのも最前線の掟だからね」
「撤退すると思っていたわ。今は確かに一時、けれど指があるかどうかは選択の先。指をなくした代償は得られたの?」
言っても意味がない。F.Z.さんを仲間として引き抜こうとしているなんて考えを話せば邪魔をしてくるだろう。あえて泥水を啜ったんだ。ここは澄まし顔で忘れている余裕ですり抜けよう。
「後悔はしてないのね。けどこれを付けないと体は正しく動いてくれないわよ。威力は現状の半分くらいになると思う」
「既にこれを付けられているのに、そんな話に乗ると本当に思っているのか?」
「そんな卑怯なことするわけないでしょう。アンタも言ったように今は平等のはずよ」
半減か。ここまで来て罠なんて心配している場合じゃないな。毒だったとしても何とかなるだろう。
「わかった。始めてくれ」
「そういうと思っていたわ。力を入れたら残っている部分がなくなるから気を付けなさい」
小さな動物が血管を通り過ぎるような感覚。動かしているのに認知できない。少しだけ気持ちが悪い。小指酔いになりそうだ。
彼女は明後日ぐらいには今まで通りに動かせると言っていた。間に合ってはいないが、力道としては問題ないはず。にしてもなんだか眠くなってきたな。
僕を掴んだ。
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