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七つの星の英雄~僕は罪人~   作者: ミシェロ
第11章「セプタージュ」
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第109話「赤髪の女性は挑発する」

前回のあらすじ

・馬牛は倒したかと思えば姿を消し、男が現れた。

「久しぶりの交戦に高揚した。礼を言おう。そして謝罪する、我は四人に怨恨があったわけではない」


「どうかなぁ。私に突進してきたときすごく面白そうな顔していたけど」


「あれは緊迫の決断を試しただけだ。予想がつかないものゆえ楽しんでいた。それより貴様、名をなんという?」


「シオン・ユズキです」


「シオン・ユズキ、我らの国を見たいとは思わぬか?」


 彼に賛成すればきっと多くの獣を見ることができるのだろう。おそらく彼よりもっと強い存在も。誘い方が少し強引だけれど、聞かれる前から答えは決まっている。


「せっかくの誘いですが、僕はやり遂げないといけないことがありますから」


「そうか、ならば一人で戻るとしよう。消えた仲間は妙機が教えてくれるだろう」


 馬牛は姿を消し、デバイスはマップを呼び出し一つのポイントを赤点で示す。地点の名前とは思えないF.Z.の詳細。イニシャルか。残念ながらシャルルフォーゼさんとは合わない。けれどウルカさんは気になるようにマップを覗きこんだまま離れない。


「ウルカさんの知り合いですか?」


「うん。他のチームにも貸しを作れそうだしせっかくだから助けに行こうよ」


 とはいえ他のチームまでメンバーが欠けているとは思えない。シェトランテに聞かれるのもまずい。ウルカさんの口を塞ぎマップを閉じる。闘技場の入り口からする靴と地の擦れる音。振り返ると足を止めた。


「シオンさま、お力添えをいただけませんか?」


 白い和服を見にまとい細刀をもった姿だったが、顔は間違いなくエイビスだ。確かに剣より似合っている。エイビスさんの主軸だったのか。自然と心に安堵の火が灯る。


エイビスのマップにはS.Aの表示。シャルルフォーゼ・アティラの名前と一致している。うれしさもあるが、よく僕の場所がわかったものだ。どこかに発信機でもつけられているのか。


服中を探ってみても変なものは見つからない。気のせいか。


「機械は使用していません。ミカロにお願いをしてシオンさまの元へと移動する秘儀を仕込んでいただきましたの」


「そういうことか。構わないけどできれば教えてほしかったよ」


「申し訳ありません。ファイスさんがいたものですから」


 エイビスが名前を語った僕の不甲斐なさを示すような目。共同していたはずの自分たちが拳を交えるのは心が痛いし望むべき形じゃない。彼女に問題を押し付けているようで自分が嫌になる。


「そうか、でも今は前に進もう。エイビスは戦いたくないと考えるのならそれでも僕は責めないよ」


「はい、今にすべき事を実行しませんと。そこで提案なのですが、お二人のどちらかと行動してもよろしいでしょうか?」


 マシュさんは緊張からか「自分は選ばれませんように」と目を逸らし、ウルカさんは「ここは僕が行くよ」と言ってほしいかのように闇を持ったような目で僕を見る。


 咳払いで誤魔化し、手を差し伸べる。


「ウルカさん、お願いします」


「嫌だよ、シオン君が行きなよ。彼女が困っているのに何もしないの?」


「わたくしはファイスさんにシオンさまとお会いしないことを条件に単独行動を許されているのです。ですから、今はお二人のどちらかとお願いしたいのです」


「……わかった私が行くよ。構わないよね、シオン君?」


「シャルルフォーゼさんをお願いします」


 エイビスは僕たちに深々と頭を下げると、静かにウルカさんとその場を離れていく。まさか僕の部屋を水浸しにしたりしないよな。


「どうしますかシオンさん?」


 ポーチから飛び出していたはずのエチケット袋が姿を消している。少し恐怖だが気にしたら負けだ。せっかく時間があるなら僕らもF.Z.さんに会ってみよう。ひょっとすれば何か良いことが起こるかもしれない。


「この人を助けに行きましょう」


「知らない人ですよね。何か考えがあるんですか?」


「上手くいけば貸しを作れると思います」


「なら早く行きましょう。飛んで行きますか?」


「目立たないように歩いていきましょう」


「はい」


 もしかすればファイスと出くわす可能性もあるが、それより他のチームと結託するほうがずっと有利だ。


 歩き出して数分、問題と出くわしてしまった。通りとして進みたい側面に金銀コンビ、セインのチームが考えをまとめているようだ。


 ミカロもいるから穏便に済ませることもできそうだが、誰かも知らないF.Z.さんに会ってくると言えば絶対に「付いて行く」と言うに決まっている。本音を離せば納得してくれるだろうが、セインもついてきそうだ。


 遠回りするしかないか。マシュさんならともかく僕はすぐにバレそうだ。


「マシュさん」


 返事が帰ってこない。振り向く。いない。さっきまで後ろにいたはずなのに。まさか攫われたのか。はぁ、仕事は山積みだ。


「呼びましたか?」


「ええっー!?」


 押し倒され草むらの中彼女に口を押さえられた。セインたちの不審に思う声が聞こえてくる。炎使いがいなくて助かった。


「行きますよ」


 彼女は左側を指し、リンゴを置いてあった樽に落とす。倒れた先から水が流れると、三人は怪しさの的中と勘違いしてかそこへと進んでいった。重力もあながち面倒な障害になりそうだと分かる絵だ。


「助かりました。すみません、大きな声を出してしまって」


「いえ、視界空白を説明しておけばよかったですね。こちらこそ申し訳ないです」


 彼女が言うには重力で見えない壁を作り、視界を妨げることで透明に見せかけることが可能らしい。実際にしてもらうと確かに見えない。マシュさんは慎重なのでまだ実戦で使用したことがないらしい。使ってみればいいのに。


 既に廃れ明らかに誰も使っていなさそうな赤色の鉄倉庫。いかにも隠してありますという雰囲気がいまいち気にいらない。敵にさらわれたらマグマ海の上、剣山の上とか絶壁の丘につるされていてもおかしくないのに。頑丈という難易度だけは負けちゃいないが。


 奥に一人寂しくけれどきちんと座らせられている女性。目元はアイマスクで隠され見えない。進もうと足を上げると糸が光を帯びて笑う。太陽が沈んでいたら死んでいたな。そう簡単には解放してくれないか。


「マシュさん、ライトで奥を照らしてもらえますか」


「はい、こうですか?」


「もう少し上です」


 光が直線に伸びていき、糸たちが正体を現す。雲がいなくてよかったが天井には大量のギロチン。糸一つ一つに繋がっているに違いない。捕まっている彼女を想定しているのか、隙間は僕より小さい。重力がなければの話だが。


「お願いします」


 中心を起点に糸が外へと拡大していく。僕が通れるほどの一直線ができると足元を見つつ彼女の元へと足を進める。椅子の隣に着くと彼女は頭を動かし、見えないとわかっていても周囲に頭を動かしていく。そして僕の目の前で止まった。何かしらで僕を捉えたのか。


「取りますよ」


 アイマスクを取ったF.Z.さんの顔は解放の喜びからしかめ面へと変わっていく。ロープが千切れたかと思えば、上空のギロチンも散るように砕けていく。能力は刃物か。


 力の使い過ぎかそれとも後遺症と言うべきか、いつの間にか明かりは明後日の方角を向き、そこには震えるエチケット袋だけが映っている。マシュさんには後で謝ろう。


「F.Z.さんですよね?」


「それよりあの妊婦を介抱してやれ。見ていて心苦しい」


 重力症と言いたいが仲間ともいい切れない。言うことは聞いておくか。


「大丈夫ですか、マシュさん?」


「ウプッ……問題ないです。それより、F.Z.さんと話を」


「ええい、何を恥ずかしがっておる。そのようなものはこうやってドバッと出せばよい!」


 F.Z.さんがマシュさんの背中を手で叩きつけると、視界にコンポタージュが広がっていく。後ろからマシュさんの泣き啜る音を聞くと何ともいたたまれない。その張本人による満面の笑みを前に責めることができない僕もまぁまぁの弱者だ。


「やはり面倒事は一度に終わらせるに限る。そうは思わぬか?」


「そう、ですね」


 見間違いもなくマシュさんの黒歴史が作られてしまっただろう。できることならあのしてやったと言わんばかりの感謝を求めている挑発顔を殴ってやりたい。ミカロだったらそうしたかな。この奇想天外さを一番恐れていたんだ。


「まさか他チームに救われるとはな。いったい何が目的じゃ?」


 赤髪のF.Z.さんは5本の剣を背に武装し僕らを睨む。誰もが考えそうなことだが、僕はこういう殺気に嫌になれている。むしろデジャヴを感じる。


「F.Z.さんの邪魔をしようとは思っていません。チームの人にも。ただ僕に協力してくれませんか?」


「白紙の契約にサインをするとでも? そこまで言うのならキミが一番であり誰よりも我よりも強いと証明してくれるのだな?」


「わかりました。必ずあなたに認めてもらいますよ」


「期待していないが頑張れ。いずれ会う」


 F.Z.さんが遠ざかっても微塵も恥ずかしさはない。彼女も僕が一番であることを望んでいる。そう違いない。


 名前だけ聞きそびれてしまった。いや、いずれわかるだろう。


 マシュさんと分かれ宿泊地に向かう途中、一通のメールに足を止めた。文書には北宿舎に集合の伝言とハッタリのように綴るS.C.のイニシャル。本当に名前を周知させたくないらしい。相変わらず素直じゃない。

Twitter「@misyero1」で更新情報を確認できます。

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