第105話「銀髪の彼女は請う」
前回のあらすじ
・ミカロとセイン、金銀コンビと再会する。
・セインとシオンのチームで共闘することになった。
宿泊地正面には男が一人。待っているのは僕らではなく、仲間だろう。それが来るまではしばらく動けないな。誰かに雀の涙ほど期待していったん退こう。
「ミカロ、戻りますよ」
「そのことなんだけどさ、今日になんとかして取り返せないかな? その、大切なものを忘れてきたこと思い出したの」
「ダメですよ。今動いたら――」
「わかってる。けど、どうにかできないかな。私とシオンならできると思うの。わがままでごめん」
やれやれしょうがない。一応セインに伝言を送って、正面を再度確認。男に動きはない。
「今日で終わりじゃないですから、無理はしないでくださいよ」
「うん、ありがとう」
セプタージュを忘れてしまうほどに彼女の太陽はキラキラと輝き目を奪われかけた。正面の男が消えている。
「隠密にしてはずいぶん青春くすぐる甘い世界にいるじゃないか。制裁が必要だね」
コウモリの集団が僕らに覆いかぶさろうと囲み、ミカロの風は僕らを建物の天井へと送る。よく見ると羽がない。それらはくっついたかと思えばさっき見たような悪魔へと姿を変えた。チェインさんが言っていた貸者とは彼のことだろう。困ったことに彼女同様に白衣に似た服装だ。
LSは全員で七人。周りを見渡していないってことは偶然にも一人のところを選べたみたいだ。実力は二人分だということを除けば幸運か。
ミカロなら嫌がりそうな薄装の和服に身を包み、鉄扇子を構える。初めて見る戦法だが、おそらく接近ものだろう。
「シオン、隙を作るからその間にお願いね」
「そう上手くいけばいいけど、二人で隙を作ろう」
「ずいぶんと作戦をしゃべってくれるものだね。おかげで無駄な動きをせずに済みそうだ」
挑発するように黒墨を両手斧の形にしてから剣にすると、懐に飛び込むより先にやってきた。衝撃は重くない。手加減の感じもしない。
「軽いアタックですね」
彼ごと切り裂いても、それは黒墨に変わって床に流れていく。悪魔の攻撃もさっきより重いが防げないほどではない。当人はどこかに隠れている。余裕はそれだけならいいけど。
「どこを見ているのかな?」
短剣を右手に笑う言葉は鉄扇子の直撃で消える。手で取ると、周りには棘のように目には見えない細かい風が渦巻いている。喰らったらサメ肌のように継続で傷を受けそうだ。
「よそ見しない! 探すのはここをなんとかしてからね」
「わかっているけど、どうする?」
リベンジを喜びもしたけれど、正直なところ相性の悪さがさっきと変わらない。体がないのだから打撃は意味を持たない。砂にパンチをしているみたいだ。
「風球!」
高速回転するとともに、風が彼女の元へと集まっていく。それらは彼や悪魔もろとも包み込み、巨大な台風の卵となって姿を見せる。何も出て来はしない。良い策だ。
「不思議な力だ。まるでウルカを見ているような気分だ」
無数の武器を背に従わせ、またも余裕な表情で姿を現す。身代わりならわざわざこんな武装をしたりしない。本体だといいが。
「ずいぶんと余裕ですね」
両手斧は対峙した剣と綺麗に音を跳ね返らせた。耐久が強くなっている。やはり本物か。槍は僕を貫く。
「油断しているのはそっちだろう。武器1つで数十に台頭できると思ったのか?」
「狙っていただけですよ。誰だって一撃目は必ず隙を作ってしまいますから」
右手が黒く染まっていく。吸収しても何か変化したような感覚はない。彼の顔つきを残しては。
「ずいぶんと不思議な能力を使うじゃないか。これはどうする?」
惜しみなく降り注ぐ武器雨。吸収できても性質が理解できなければ意味がない。両手斧を振り回すだけで回避できても、彼に個数の制限があるわけでもない。賭けてみるか。
最接近し彼の残った剣と対峙する。毒を煮込んでいるような黒笑みと共に彼の腹から槍が再来した。まるで生まれるように武器たちが腹から芽吹いていく。
刃が肉を貫き、腹から血が流れてゆく。武器たちは真っ二つに折れて地上に降ってゆく。
「があぁぁぁぁぁ! 熱い! 何をした!?」
顔を出すと右肩に彼の顔がある。いや違う、彼の左肩に僕の顔がある。
「あなたの真似をしただけです。体を貫通させて武器を僕に命中させようとしたように、あなたの体に入りこんだんです」
「あり得ない、むしろ疑いたい。お前ほどの実力を持つ者がどうして一兵士でいる。東は一番戦力にはうるさい場所のはずだ」
「僕にもわかりません。宿泊地を解放してもらっても?」
彼は言葉を話すことなく1度うなずき姿を消す。やっぱり偽物だったか。それにしてはやけに本気でこちらを殺そうと動いていた気もする。けどえらく物分かりが良過ぎる。まだ中に誰かいるのか?
その前にミカロだ、まだ風球が消えていない。まさか出てこられないものだったりするのか。考えてもしょうがない。切ってみるか。
「せいっ!」
そこには風の中心で座り佇むミカロただ一人の姿。僕を信じていたと安心したいところだが、頭に手刀で叩く。風球は姿を消す。
「嘘でしょ!? 何だシオンかぁ、驚かさないでよ」
逃げるように隙間から黒墨が空を舞って行く。その方角は宿泊地の反対。彼の頷きはあながち嘘ではないらしい。それにしてもずいぶんと呑気なものだ。ずっとそうしていたのか。まぁ敵を留めるために必要だったのだろうが、盗めたらほしいくらいに羨ましい。
「解放は成功しましたけど、みんなが僕らだけを入れてくれるとは思えない。大切なものを回収したらすぐに戻りますよ」
「そうだね。セインさんも放っておけないし」
彼女も確かに大事だが、何よりわざわざ仲間を増やせる機会を捨てる意味もない。ミカロは清潔に過ごせないことを嫌がるかもしれないけれど、ここはおとなしく従ってもらおう。
大切なものは本当だったようで、帰ってきたときにはポケットに宝石サイズのふくらみがある。意味合いを聞きたいがこの場を離れてからにするか。
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