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七つの星の英雄~僕は罪人~   作者: ミシェロ
第11章「セプタージュ」
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第104話「金髪の彼女は澄まして笑う」

前回のあらすじ

・ウルカ、シャルルフォーゼ、もう一人のメンバーとチームを組むことになった。

ウルカさんが奇襲に動く。


「チェインさん、来てくれたんだ!」


「今日はそっちサイドじゃないの。本気で来ないと負けるわよ」


 彼女は指から紫色の光を発し、ウルカさんは彼女にしたであろう頬ずりを透明な壁にしている。いつもあれをしているのか。エイビスに真似をされたらたまった物じゃない。皮膚が燃えあがりそうだ。


 彼女はウルカさんから核を取り上げ白煙のする箱の中へとしまう。空いた左手から飛んできた便箋。


「一人だけが読むことを許すわ」


「今回はシオン君のおかげで力を温存できたからね。任せたよ」


「異論はない」


「はい」


 半ば強引ではあるが、三人に認められてしまった手前引き下がるわけにもいかない。三人の背で一枚のカードに目を合わせる。黒い背景には血で書かれたドクロのマークに「宿泊地を奪取せよ」とあった。


「無事に果たせるといいわね」


 空気を体に変換したような閃光の動き。ガード空しく彼女の拳は直撃した。壁が衝撃を忘れたように逃がさず僕の身体を砕く。朦朧の視界で彼女は虫を噛ませたように笑う。課題を伝えさせない算段か。


「実践に油断は禁物。命があるだけ運がよかったわね」


「アースベント!」


「どうかな?」


 重力に身を屈めたと思えば、エネルギー球を地面にたたきつけると立ち上がり、僕の攻撃を右手で防ぐ。透明な空間が彼女と両手斧の距離を阻害している。当然彼女に傷はない。距離を取って四人で集まるか。


「大丈夫ですかシオンさん?」


「出血は気にしないでください、慣れていますから。重力だけは効いてくれるみたいですね」


「自己紹介が遅れました、私は――」


 名前を知る余裕もなくチェインさんは歩くように空間を削り接近する。ウルカさんとシャルルフォーゼさんの姿が見えない。もう一度喰らうか。


「ペルシュタントレイズ!」


 エネルギー拳を突きだし、大波に乗ったウルカさんが姿を見せる。拳に水を構え、隣のマシュさんは音なく倒れた。彼女は首を振る。


「双方の力を使うと、よくこうなるんです。気にせず接近してください」


 彼女に背を見せた。青ざめた顔で言ったとは思えない最高の指示だ。


「空羅泉!」


 目の前が蒸気に包まれ、腹から体を誰かに抱えられる。手の感触はどこか覚えている気がして抵抗する気にはなれない。


 闘技場の裏。森林に囲まれた場所で止まると、横にはシャルルフォーゼさんの顔。予感は的中していた。


「すみませんシャルルフォーゼさん。マシュさんを助けてくれて」


「心配するな、本来であれば実力奉仕が上等。敵を前に戦闘を投げだすなど、市民を捨てるのと一緒だ。裁かれるべきは私さ」


 チェインさんとの実力を見極めることができただけでも満足。けれど彼女はそれよりも他人の正義と離れていることに対して後ろめたさを感じているようだった。


 救われたことは事実だ。彼女は見える範囲であれば衝撃波を発生させて鉾と体の間に壁を作る。そのせいで全ての一撃は無効化されチャンスは消え去る。けれど状況は拮抗したままの状況だった。油断してくらった初撃を除けば、チェインさんは僕らの撤退を望んでいたのかもしれない。


「我々を試している、さっきまでそう思っていたがどうやらそうではないらしい。シオンへの一撃は洗礼にも見えた」


 思えばさっきからそうだ。僕らの闘争心を揺さぶるだけで、仮面の男は何一つとして僕らに求めてこない。この戦いで何をしてもよい、僕は宣戦布告を頭に浮かべひそかに安らいだ。


 まだ話をして間もない三人だが、なぜだか同じ目的を持っているような気さえした。運命は時計を握っているようだ。


「僕はクエスターをなくしたい。協力してくれないか?」


「私は協力するよ!」


「断る」


 色違いの一報は心臓を貫いたように血が流れていく恐怖が走る。桃髪の剣士は毅然たる態度で僕を見ている。


「私は今の生活に不満などしていない。むしろ多少の自由があるだけ十分なんだ。面倒事は嫌いでな。とはいえセプタージュは別だ。彼女の殺気は私も狙っていた」


「そんなこと言って本当は寂しいんでしょ?」


「本気でそう思うのなら一人にするがいい。私も本望だ」


 ウルカさんを油に利用し、彼女はデバイスでマップにさっきまでの位置を書きこむと、僕に送る。宿泊地に向かおう。チェインさんがおそらく一番の障害だ。


「再戦を望むのか?」


「いえ、おそらく不利になるよう仕組まれていたんでしょう。他のチームもそうしているはずですから、課題通り宿泊地を占拠している人物を目指しましょう」


 急速に接近してくる物体に反応するアラート音。その声はまるで溶岩から現れた怪物のように図太く低い、そしてうるさい。草むらを光輝く剣でかき分けると、金銀髪の女性たちが姿を見せる。10年ぶりのように銀髪の彼女は勢いよく飛び込んできた。


 マシュさんを後ろに避けるわけにもいかず、棒のように地面を転がると、僕の空を取って彼女は清純な笑顔を見せる。その顔はすぐに不安に変わる。


「大丈夫シオン!?」


「気にしていませんよ。いつものことですからもう慣れました」


「そっか、よかった。どうしてブレーキをかけなかったの、Shine?」


「逃走しようかと思ったんだけど、シオン君だと気づいた時にはブレーキかけると大事故になりそうだったから。でもミカロちゃんは守ってもらえて無事で良かったよ」


 立ち上がるとセインの後ろにはまるで護衛のように左右に男の姿。表情は仮面に阻まれ見えない。僕が近づくなり武装を構える。


「二人は同盟関係だから、無理強いはしないであげてね」


 気絶しているマシュさんはともかく、協力してくれそうなのは四人か。エイビスから連絡が来ないのは不信だが、他のチームと接触し過ぎるのは禁物だな。特にヒラユギと鉢合わせることだけは防ぎたい。


「Shine殿は何度かこの催しに参加したと聞く。通じるものはないのか?」


 全身を鋼に包み拳から音を発する男。セインは首を振る。


「いつも同じことはしないの。ただ、この課題を乗り切るには私達では戦力に差があるから、他のチームと協力する必要があるよ。例えばここにいるシオン君のチームとか」


「リーダーがそう思ったのだから間違いないだろう。アルメス、ここは素直に支持を受けるとしよう」


「承知」


 セインも逃げてきたのか。ミカロと一緒なら戦いようがあった気もするが、何か考えがあるんだろう。裏切る不安もあるけれど8人でいた方がまだ安全か。


「二人とも、構いませんよね?」


「うん、まさかShineとすぐに会えるなんてね」


「私も気にしない、マシュを守るだけだ。外に赴くのはお前たちに一任する」


「いいでしょう。Shine、ここは協力しよう」


「うん、よろしく! ところでシオン君たちの相手は誰だったの?」


「チェインさんです。僕は知らないけど、たぶん衝撃波の使い手だと思う」


「やっぱり今回はレジェンドスターのみんなが配置されているみたいだね。ちょっと厄介かも」


 レジェンドスター。確かリラーシアさんが修行の時にそれらしい人物と話をしていた。セインが言うように確かに一筋縄では倒せる相手じゃない。


「確か間違いなければ、東部統括の個人精鋭七人の呼び名か?」


「そう、だからツーマンセルで行動しよう。乱入が起こってもおかしくないからね」




 セインの作戦通りに動くのはそう難しくない。東と北の2箇所の状況を確認し、次の日に攻撃を開始する。それまでに誰かが攻略したとしても評価が少し変わるだけでさほど影響はない。


 北の宿泊地の情報も知りたいところだったが、自分たちの場所ゆえセインの命令を断れなかったが、ミカロと一緒に行動できる強みがある。それだけでもいいとしよう。

Twitter「@misyero1」で更新情報を確認できます。

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