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七つの星の英雄~僕は罪人~   作者: ミシェロ
第11章「セプタージュ」
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第103話「青髪の彼女は微笑む」

前回のあらすじ

・エイビスが西のメンバーとして、セプタージュに参加する。

・エイビスの恩人:シャルルフォーゼと出会った。

 ホテルを飛び出し集合場所に着くと、受付の兵士さんは僕の寝癖を見て怪訝な表情で僕の目を見てきた。やる気はあると心に念じたが、その顔は変わらない。テレパシーは信じているほうだ。


 グループをアルファベットで伝えられ、順番待ちのように列を揃えて待つみんなのところに案内された。にしてもDか、デスにならなきゃいいけど。


「全員の集合を確認しました」


「下がれ」


「かしこまりました」


 兵士が逃げ去るほどの速さで僕らとは反対側へと向かうと、話をしていた男は列を横切っていった。


鳥に似た赤いトサカの付いている鉄仮面、体のほぼすべてを金剛製の鎧で覆い、見るに不気味な黒のマントをはためかせるその姿はなんとも熱気を思わせる。きっとあの中は熱籠る気候からすれば汗まみれに違いない。僕なら5分ともたないだろう。


 列の先頭に配置された鉄台座に登り、全員の視線が彼に向く。最低限両目と口だけが開けられているようでそこだけは彼を見ることができる。眼は太ったような丸。口は真っ白く清潔だ。マスクやメガネのように他の人は持っていないトサカがやはり気になってしまう。きっと隊長クラスだろうし、威勢だけってことはないだろう。


「よく来た諸君、この場は戦場と思っていい。今となりにいる存在は時に協力相手でありライバルでもあるだろう。キミらにとっての最善手を選べ。成功を祈る」


 兵士たちは終わりとともに拍手をしたが、僕たちの中ではちらほらだ。それより戦いたいという人たちが結構多いのだろう。


 進行の指示でチームごとに揃い、顔を合わせた。好き嫌い関係なく知り合いが多かったので誰かいるだろうと思ったが、残念ながら知り合いはいない。一人に関しては運がないというわけではないが。


「まさか同じチームになるとはな。よろしく頼む」


「よろしくお願いします。シャルルフォーゼさん」


 昨日の知り合いとはいえ、まだ完全に信用できるわけじゃない。町から離れて生活をしているくらいだ。真に協力関係になるにはまだまだ足りない。


 私にも挨拶をしてほしい、と言わんばかりに無言で笑顔を僕に突きつける青長髪の女性。シャルルフォーゼさんは無視しているみたいだが、これじゃ連携に支障が出そうだ。


「シオン・ユズキといいます。あなたは?」


「ウルカ・ウルディーシャ。よろしく。2人の邪魔をする気はなかったけど、わすれられているような気がして、さっきはごめんね」


 確認もなしに彼女は僕の両手を掴みまるで投げとばすように手を振りまわし握手を交わした。女性にしては珍しく拳の力は鉄のようだった。武装のメンバーに対して素手のメンバーが構成されているのがなんとも計算深い。


「セインちゃんの言う通りだ。良い目をしてるね」


「セインを知っているんですか?」


「彼女と同じ地域だからね。だけどそれより気になるのは……」


 ウルカさんは構わず僕の懐に近寄った。距離を詰めるたびに宝石のように輝く瞳にはなぜかどこにでもある布製の水筒が映っていた。彼女は不思議なばかりにそれを覗きこんだまま黙った。


「これ、中央地のお水かな。飲んでみていい?」


「どうぞ」


 ここの水だろうと味も見た目もさほど変わらないはずだが、彼女の言葉は最新鋭の毒に興味を見せる科学者のような真剣さがあった。セインについて何か話ができると思えば安い条件だ。


「どうぞ」


 含むと同時、彼女の顔は目をより開き、瞬き激しく衝動を見せた。走り足りないように足を上げ下げし、最後の喉越しまでゆっくりと水を飲んだ。少しだけ自分の水が飲みたくさせられるような味わい。けれど彼女は2口目を含んだ。


「美味しいね。雑味はあるけど味はすっきりしているし。混合種ってやつかな。悪くない味だね」


 まるで食初めのスープを口にしたような言いぶりだ。困ったことにさっきここらで水を補給したことはバレているらしい。彼女はまだ何か話したそうに僕に近づく。叫び声が耳に入ったみたいに彼女は誰かに目線を合わせ、口をつぐむ。その先には壇上に立つ仮面がいた。


「ずいぶんと呑気なものだな。戦士の精鋭が聞いてあきれる。これを見てもまだ談笑を続けようと思うか?」


 彼の言葉に応え浮かび上がる7つの画面。そこにはどの7人も悪魔の手下に似た黒い生命体と交戦していた。ミカロが敵を斡旋する様子を脳に染み込むほど焼き付ける。


「貴様らの追伸端末に自動受信させていたが誰も気づかぬとはな。散れ」


 全員が七方に飛ぶ。幸運にもルートは重ならない。デバイスを耳に装着しても声は聞こえてこない。映像だけが頼りか。


「4人目を探すのは容易ではなさそうだ」


「なにせ7人もいますからね」


「そうでもないよ。北のメンバーは闘技場に3人いたから、4択まで絞れているハズ。確証とはいえないのが残念だけど」


 各エリアから1名と考えれば簡単だが、シャルルフォーゼさんは外を知っているはずもない。何よりそれを決めつけさせようとしている気もする。一番安心できそうなのは連携だ。ちょうど攻撃に手を焼いている人物が1人だけいた。



「この人です。向かいましょう」


「フォーメーションか。こっちの魔法使いは構わないのか?」


「まだ言ってなかったね。私が魔法を使えるからシオン君の直感が正解だね。行くよ、ウェリオ!」


 彼女が水手で地面をたたくと、空に浮かぶ3匹のボールのように丸い魚が姿を現した。毛玉のように柔らかく包んでくれる触り心地が最高だ。彼らは目的の位置が見えるまでに上昇する。


「善は急げ、突入!」


 砲弾のごとくに闘技場へ飛び込むと、悪魔たちは僕らを見る。その中心には瞳に光を灯らせた女性。瓦礫など気にすることなく、魚たちは胸ビレを楽しそうに動かした。シャルルフォーゼさんは彼らを撫で、顔に皺を寄せる。


「無謀すぎるぞウルカ!」


「その話は後で。私は時間を止める素晴らしいことをしたんだよ。仲間は誰一人倒れさせやしないからね。水龍波!」


 龍頭部の形をした水の一撃は器用に女性だけを避け、円に囲む悪魔たちを宙に誘う。やれやれとシャルルフォーゼさんの怒りまでも飛んでいる。


「あの仮面に話をされるのも面倒だ。今は後回しにしよう。ケガはないか?」


「はい。アレだけには気をつけてください」


 ティアラのように三つ編みで彩った。山吹髪の少女が刺した先は赤い数字。それは数を減らし0へと近づいている。


 悪魔たちは止まることなく僕らへと足を進める。


「数字が動いたままだ。きっとメンバーが違うのだろう」

「大丈夫です。一人だけチームメンバーを知っているんです。ウルカさんは私のチームと聞いています」


「そっか、私がウルカだよ。キミのことも知りたいけど、まずは彼らをなんとかしないといけないみたいだね。シオン君、さっきのお水もらっていいかい?」


「ええ」


「2人は個別で撃破に動いてくれ。彼女は私が守る」


「「了解」」


 一体一体はまるで機械のように円を囲むように距離をつめる。両手斧の一撃は想像するよりはるかに軽く彼らに喰いこむ。胴体と足を千切るだけで消えてくれるおかげで数に恐れはない。このメンバーのパワーバランスは思ったより悪くない。


「風嵐・威武風!」


 風の魔法が飛ぶように僕を誘い、一撃は周囲の悪魔を散らす。怪しいと考える間もなく背後の一体に水の一撃。


「よそ見は危険だよ、シオン君」


「なんか変な予感がしたんです。気のせいならいいんですが」


「二人ともふせろ!」


「準備できました」


 静かに天高く空へと手を広げ、彼女が勢いよく目を開いた瞬間再認識した。ここには日常なんてものはない。僕らは怪物だ。


 悪魔たちは宙に浮かび、彼女の操るまま黒いボールへと姿を変えて固まる。


「焦点一殺・斬桂!」


 剣の一閃は全ての悪魔を散らし、周囲の黒い影は消えた。闘技場に入ってから6つの画面は見えなくなり、他の戦況はわからない。制限時間も困ったことに止まらない。


「何か来るぞ」


 散り散りになった黒い粒子は重なり合い、大きな図体を作りあげ影を増し鉄に似た皮膚を見せる。


「ヌォオオオ!」


 残された時間は1分とない。口を開くことなく敵に駆け出す。


「一人で向かうなシオン! ウルカが散らす!」


「……俺に任せろ」


 水はやってこない。洗礼の鉄拳を寸時のところでかわすとそれは足場へと変わった。


「双燕・斬烈!」


「ヌオオオオオ!」


 風は左右の腕へと飛び上がり、痛みに体を翻す姿を前に両手斧は笑う。


「陣風龍牙!」


 全身を伝わり拳、動揺の顔面は二つに割れていく。休むことなく右クロス、左クロス、朦朧の顔に両手斧を空へと掲げ、勢いよく振り落とす。


「銀乱震舞!」


 砕けていく亀裂は勢いを増し、大岩のようにその身体は地面に落ち、風に飛んで行く。ウルカさんは暴れる黒いビー玉を水に包み僕に笑顔を見せる。彼らは手を伸ばすように体を広げるだけで、くっつくには至らない。まさかあの一瞬で気づいていたとはやはり化物集団のようだ。


「これが核で間違いないよ。残った粒子は私たちには影響ないだろうから、放っておこうか」


「核ごと貫こうと思ったんですが、僕もまだまだですね」


「それは少し違うかな、君の攻撃は私が防がせてもらったよ。これはある人の所有物でね。きちんと返さないとどんな面倒を言われるかわからないからね」


 聞き覚えのない声に身構える。桃長髪の女性が透明な床を飛び降り、僕に怪訝なため息を浮かべている。化物を見るような顔が少し嫌いだ。時計はまだ止まらない。

Twitter「@misyero1」で更新情報を確認できます。

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