表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

前編

Twitterのお題で書いてみました。

「3日以内に13RTされたら『だって、ヒロインじゃない』というタイトルで『ストーカー』の話を書きます」

 佐藤彩華さとうあやかは私の幼なじみで親友だ。


 私たちは桜の花が咲く、幼稚園の入園式で知り合った。

 長い髪に淡いピンク色のリボンをつけた彩華は、私と並んで、とても可愛らしく写真に写っている。

 私たちはおててをつないで毎日遊んで、小学校も一緒に通い、中学生になってからも一番の親友だった。

 中二の時に彩華が突然引っ越すことになって、少しの間バラバラになったけど、奇跡的に私たちは同じ高校に入学した。

 そして高二の今、彩華とは去年に引き続き、また同じクラスだ。


 パーン

 ピストルの音にハッとする。

 グラウンドに目を向けると、軽やかにゴールテープを切ってゴールした、彩華の姿が目に映った。

 女子のクラス対抗リレー、今年も彩華のおかげでうちのクラスが一位だ。

「彩華すごーい!」

「はやかったねー」

 アンカーの大役を務めた彩華の周りに、クラスの女子が集まっている。私がぼんやりと突っ立っていたら、彩華が私に気がついて、手を振りながら駆け寄ってきた。


愛菜まなちゃん!」

 うっすらと額に汗を輝かせ、にこやかに微笑む彩華は、まるで彼氏に駆け寄ってくる彼女のようだ。

 こんなに可愛い彼女がいたら、どんな男子でも大喜びだろう。

「さすがだね。彩華」

 私がそう言って微笑み返すと、ますます嬉しそうに彩華が笑った。

「ありがとう。でもみんなで頑張ったからだよ。愛菜ちゃんのことも応援するね。出番はいつだっけ?」

 私は慌てて彩華の前で両手を振る。

「いい、いい! 応援なんてしなくていいよ! 私が出るのはただの玉入れだし」

「玉入れ? えーっと、男子リレーの次だね」

 彩華がプログラムを見ながら確認してる。ああ、もういいのに。玉入れなんて地味な競技、応援する人なんていないよ。


 パーンとまたピストルが鳴った。ひと際大きい歓声に、私と彩華もトラックに目を向ける。

 二年生男子のクラス対抗リレーが始まった。

「あ、ウチのクラス一位だよ! がんばれー」

 彩華が声を上げて応援してる。

 いい子なんだ。彩華は。素直で真面目で一生懸命で。

 幼稚園の頃から可愛かった彩華は、そのまま美しく成長し、今では誰もが振り返る美少女だ。

 おまけに運動神経も抜群で、頭もいい。

 そう、彩華は何をやってもみんなの注目の的で、いつだってヒロイン。

 そしてそんな彩華のずっと隣にいる私は、何もかも平凡な普通の人。

 顔は悪くもないけど良くもない。成績は中の中。これといって得意なものもないし、何をやっても可もなく不可もなくといったところ。

 幼稚園の頃も、小学生の頃も、中学生の頃も、そして今も――私はいつもヒロインの隣で笑っているだけの、目立たない脇役だった。


「えっ、やだ、あの人すごくはやいー」

 彩華がそう言って私の腕をつかんできた。

 最下位でバトンを受け取った四組の男子が、ぐんぐん前を走る子たちを追い抜いている。

「あー、だめぇ、抜かされちゃうー」

 彩華が悲鳴のような声を上げている。トップを走っている、坊主頭で体だけはデカい野球部の山田が、四組の男子に抜かされそうになっている。

「わー、バカ、山田! 何やってるー!」

 私も彩華と一緒に叫ぶ。だけどゴール間近で山田は抜かされ、ゴールテープを爽やかに切ったのは四組の彼だった。

 誰? あの子。すごい。はやい。かっこいい。山田と違って、小柄だけどスラリとした体型だし、遠目に見たらイケメンそう。何部? 何て名前? あんな男子この学校にいたっけ?

「愛菜ちゃん?」

 ハッと我にかえると、隣の彩華がじっと私のことを見ていた。そして私と視線が合うと、ちょっと目をうるうるさせながら微笑んで言った。

「かっこよかったよね? 今の」

 私の胸がぎゅうっと痛む。


 幼稚園の頃好きだった、やんちゃなケンちゃん。小学校の頃好きだった、運動神経抜群の翔太。中学の頃好きだった、バスケ部キャプテンの遠藤くん。

 共通点のなさそうな私と彩華だけど、好きになる男の子はなぜかいつも一緒。そう、彩華も私も、スポーツマンタイプの男子にときめいてしまうのだ。

 だけどそのたびに私は、自分の想いをこっそりと隠して、彩華のために奮闘した。中学の時なんて、私が頑張ったおかげで、彩華は遠藤くんと付き合うところまでいけたんだから。残念ながら彩華が引っ越す時に、別れちゃったけど。

「あ、うん。そうだね、かっこよかったね。彼女いるのかなぁ?」

 何気なく言った言葉に、彩華が少し哀しそうな顔をした。

 あっ、そんな顔しないで。大丈夫。私がなんとかしてあげるから。

「よし! 私が彼女いるか、探ってくるよ!」

「え?」

「大丈夫、大丈夫! 私に任せて!」

「愛菜ちゃん?」

 いつもみんなを応援してくれる彩華だから、私も彩華を応援してあげたい。


 放課後、彩華は駅前にできた新しいアイスクリーム屋さんに行きたかったみたいだけど、「また今度ね!」と断って、私は急いで教室を出た。

 普段彩華とは一緒に帰らない。校門を出て私は右に、彩華は左に帰るから、帰り道が逆なんだ。

 だからいつも彩華は他の友達と帰っていて、寄り道したい時だけ私と帰る。

 教室に残された彩華は少し寂しそうだったけど、友達がいるから大丈夫だろう。

 私は今日、やることがあるのだ。


 廊下に出て四組の教室へ行く。深く息を吸い込んで教室の中をのぞこうとしたら、中から出てきた人とぶつかった。

「いたっ」

「あ、ごめん」

 顔を上げて驚いた。あのリレーの人が目の前にいる。まさに私が探していた人。しかも近くで見るとやっぱりイケメン。

「だ、大丈夫?」

「は、はいっ」

 なぜか私は気をつけの姿勢でそう答えた。リレーの彼がちょっと照れたように、にこりと笑う。

 なんだ、ヤバい。笑顔すごくカワイイ。

「どうしたの? 広瀬」

「あ、うん。なんでもない」

 後ろから来た女子が彼に話しかける。広瀬……広瀬くんっていうのか。私は頭の中にメモを取る。

 そんな私を残して、広瀬くんは女子と一緒に歩き出した。私はこっそりとその後を追いかける。


 ふたりはおしゃべりをしながら廊下を歩き、校舎を出て、校門を右に曲がった。私の帰り道と同じ方向だ。今まで気付かなかったなぁ、彼のこと。

 私は少し距離を取りながら、ふたりの後ろを歩いた。ふたりは時々笑い合って、女の子が広瀬くんの背中をぽんっと叩いたりする。

 そしてコンビニの前まで来ると、角を曲がっていく女の子と手を振って別れた。

 彼女なのかなぁ……だけど並んで歩くふたりの間隔はなんとなくよそよそしかったし、別れ際もあっさりしていた。ただの友達なのかもしれない。

 彩華。まだ望みはあるよ。

 広瀬くんはそのまま真っ直ぐ歩いた。私は見失わないようにしながら、少し後ろを歩く。

 踏切を渡って、駅とは反対側の住宅街に来た。電車通学の私にとって、線路の向こう側は未知の世界だ。


 制服を着た広瀬くんの背中をじっと見つめる。こんな時間に帰るってことは帰宅部なのかな? それなのに運動部の連中をあっさりと抜かしてカッコよかった。

 あのリレーのシーンが頭によみがえって、ちょっと胸がドキドキする。

 と、突然広瀬くんが立ち止まりしゃがみこんだ。私は慌てて電柱の陰に隠れる。ちょっとはみ出ているかもしれないけど仕方ない。だって他に隠れるところないんだもん。

 住宅街の真ん中。人通りのあまりない場所。しゃがみこんだ広瀬くんは動こうとしない。

 どうしたんだろう。心配になって電柱から顔を出し、その姿をのぞきこむ。すると広瀬くんがそっと手を伸ばし、その指先をちろちろと動かした。


「あ、猫」

 私は思わずつぶやいた。広瀬くんの視線の先に、生垣の隙間から顔を出している、小さい茶トラの猫がいた。

 広瀬くんはその猫を呼ぶように、かすかな声で「にゃー」とか「みゃー」とか言っている。猫はそんな広瀬くんをじっと見つめて、様子をうかがっているようだ。

 カワイイ! 広瀬くんもだけどあの猫も。

 私、猫大好きなんだよね。弟が猫アレルギーで飼えないけど、道端で猫を見かけるとついこんなふうに立ち止まっちゃう。だから広瀬くんの気持ちはすごくわかる。

 すぐに駆け寄りたくてうずうずしていた。猫のそばにも、広瀬くんのそばにも。だけど私はそれをグッと我慢する。

 しばらく猫に「おいでおいで」と言っていた広瀬くんが、しびれを切らしたのか、じりっと猫に近寄った。その瞬間、猫はさっと生垣に引っ込んでそのままどこかに行ってしまった。

「あーあ」

 残念そうに立ち上がる広瀬くん。その時一瞬、広瀬くんが振り向いた気がして、私はあわてて電柱に隠れる。

 でも広瀬くんはまた、何事もなかったかのようにゆっくりと歩き出した。


 しばらく歩いた先にある、大きなマンションの中に、広瀬くんは吸い込まれるように入って行った。ここが広瀬くんの家。徒歩通学だったから近いのかと思っていたけれど、かなり近い。

 いいな、通学が楽で。私はこれから電車に二十分揺られて、帰らなくちゃいけないのに。

 スマホでマンションの写真を撮って保存した。

 明日彩華に教えてあげよう。広瀬くんの家。それと、広瀬くんが猫好きなこと。

 彼女がいるかどうかはわからなかったけど、私はなかなかストーカーの素質があるようだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ