5 何が、どうして、こうなった?
迷宮都市に向かう道中、レンジャーのエドを仮の仲間に加えて移動中だ。
あの後、数度のモンスターとの戦いを経て、中々身軽に動けるし、索敵もそれなりだと分かった。
やはり索敵は金髪黒ローブが凄いのだが、彼だって普通に感知できる。問題ない範囲だろう。
なので、黒ローブも途中から来る事は言わなくなった。
その夜、不寝番の順番を決めつつ夜食を作っていた。
簡単なスープなら作れるという彼の言を元に作っていた。
ちょっとしたスープにパンと干し肉だ。スープがあるだけで非常に豊かな食卓に思えてくる。
干し肉もスープに入れれば、少しは柔らかくなるのかな。
「やはり同い年の中でもテッドさんは、お強いと思いますよ。これで戦士レベルが7とか信じられません。」
「そ、そうかな。」
褒められ慣れていないせいか、少し顔が熱い。
きっと焚き火のせいだな。
「所でイネアさんはレベルおいくつくらいなんですか?」
「うーん。そういうのは秘密にしているんだけど。」
ちなみに、聞いた時は顎が外れかけたが、火系魔法で14、杖術が31だった。
なぜ魔法使いなのに杖術が強いのか。
なお不寝番の順序はエド、僕、イネアちゃんである。
うーん。しかし今日は張り切りすぎて疲れたのかな。やけに眠い。
「あら?眠たそうね。もう休む時間だし寝てもいいわよ。」
「うーん、そうするよ。」
「あ、イネアさんも寝ててください。僕の方はお気になさらず。」
「そう?丁度私も眠かった所なのよ。」
すごく猫かぶりだな。睡眠はしなくても大丈夫だとか言ってた癖に。
「じゃあ、おやすみ…」
「おやすみー」
そうして、結構深い眠りについてしまった。
~翌朝~
ん~
なんか怠いな。おかしいな。
「おはよー」
目を擦りながら起きると…
あれ?
何?どしたのこれ?
「ああ、おはよう。」
太陽は既に昇っている。つまり朝。不寝番はすっぽかしてしまったようだ。が?
「ねえねえ、なんでエドが縛られて寝てるの?」
「それはね、私を襲おうとしたからよ。」
「あーうん。そうだね、それは縛って当然だね。
じゃあさ、あそこで縛られてる男たちは何者?」
「あれも私達を襲おうとしたからだね。」
「え?どいうこと?」
「私は効かなかったけど、テッドは一服盛られてたみたいね。」
「盛られて?え?」
「睡眠薬でも入ってたんでしょう?スープに。」
「え?でも先にエドが飲んだんじゃ。」
「むしろ最後じゃないとダメよねぇ。」
「えー。あーそうか。」
「つまり、エドに一服盛られて、男たちに連れて行かれて、奴隷として売られるところでした。ちゃんちゃん♪」
「えーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「良かったわね、私が睡眠薬効かなくて。」
「あーハイ。ありがとうございます。」
なんてこった。だからこんなに怠いのか。
密かに危機があり、密かに回避されたようだ。
しかもエドが最初から裏切り者?いや人買いの仲間?
「もしかして、相席の頃から?」
「そうよー♪」
やけに嬉しそうだ。
そうか、笑ってた理由が分かった。嘘吐きの演技に付き合ってたからだ。そして僕がまんまと騙されるのを分かってて、ほくそ笑んでいたのか。
なんて性根が汚い!
でも、人買いに売ろうとするエドと人買い達のほうがもっと汚い!
あー危なかった。
「何か色々言いたいけど、とりあえずどうしよう。」
「リーダーにお任せするわ。」
こんな時にだけリーダーって言うなよ。あいや最近はそうでもないか。
「お任せって言ったって、どーすりゃいいんだ?」
「突き出すも良し、ここで殺して埋めてしまっても良し、放置しても良し。」
「なんか三択…つか実質は二択か。」
「彼らからすれば死の一択ではないかしら?縛り首になるか、殺されるか、野垂れ死ぬかだから。」
「突き出したら、とりあえず収監されてもしかしたら、戻ってこれるかも知れないじゃん。」
「まあ、そうかも知れないわね。」
「まあ、良くて奴隷として売っぱらわれるか…まあ突き出そう。未遂に終わってるし。」
「ちなみに、夜私が言われたセリフを聞いてたら殺してたかもね。」
「何を言われ…って、なんで嬉しそうに言ってるんだよ。怖いなぁ。」
男たちは、三人か。少ないな。まあ、睡眠薬で寝てるハズだったしな。
ついでに四対二で数的にもあちらが優位だが。
「うーん。せっかくレンジャーが入ったと思ったのに。」
「一応、憶えておくと良いわ。
『都合がいい事は百回中一回だけ』よ。」
「あー確かに、ご都合過ぎたか。まあ確かに。」
「もうちょっと、浮かれてたね。」
えーとイネアちゃんに出会えたことは、非常に不本意ながら都合がいい事だったから、あと98回は、都合が良い事が起きないって事か。
「そんなでも無いと思ったんだけどな。所で、こいつら起きてるよね?静かだね?」
「口も結わえてあるから。」
「なるほど。」
そうこうしているうちに、朝食も終わって出発となる。
縄で数珠つなぎに縛っているので、先頭が僕で一番後ろがイネアちゃんだ。
うーん、町が近いのかお昼になって休もうとした時には町の壁が見えた。
お昼は後回しにして、突き出してしまおう。
「どうも?どうしたんですか?」
町の門を守る衛兵だろう。
「どうもこうも、襲われたので捕まえて連れて来ました。宜しくお願いします。」
「ふむ、詳しい内容を聞こうか…」
チラチラを後ろの4人を見る。一人では対応しきれないと見て、5人ほど連れてきた。
「おい、ヤヌークじゃねえか、どうしたんだコレ?」
衛兵の一人が言う。知り合いのようだ。
衛兵が勝手に猿轡を外す。
「お、おい。」
何を勝手に。
「こいつらが襲ってきたんだ!魔法使いにやられた!」
「あ?」
「なんだって?」
「おい、どういう事だ。」
「いやだから、この3人組とエドが組んでてですね。夜襲ってきたんですよ。」
「嘘つけ!俺らが休んでる所を襲ってきた!財布とかもかっぱらいやがって!」
なんという頭が痛くなる。なんと往生際が悪いのだろう。
「それは、いかんな。」
ん?
「おい、なんでヤヌーク達を襲ったんだ?」
「いやだから、襲ってきたのはあいつらで…」
「おい、ヤヌーク達の縄を解け!」
「はい!」
ちょ、なんだこれ?
「さて、襲撃犯の盗人が、どうなるか解ってるんだろうな。」
「はあ?なんで!?襲ってきたのはソイツらで…」
はたと気付く。こいつらに包囲されてる?
襲ってきた奴3人に加えて完全武装の6人と、エド。
10人に囲まれてる。
どどど、どういうことだ?
え、どういうこと?
ぞぞぞっと背中になんか変なのが這いまわるような感覚。
いやな汗が垂れる。
「っち、テッド。どうやらグルみたいね。」
「マジか。」
「さあ大人しく…」
言うやいなや、イネアちゃんが何かを地面に叩きつける。
すると白い煙が一気に吹き上がる。
なんだ!?
煙で何も見えなくなった。目に煙が入るし鼻からうへえ。ゴホゴホ。
「こっちよ!」
「逃がすな!」
「おい、俺はちげーよ!」
エドが居た方向に向かって走る。そしてエドを跳ね飛ばしてから煙から逃れる。
「えーと、こっちよ。」
うおおお、こんな所で悪者に捕まってたまるか!!
僕らは森に入る。幸いな事に荷物は下ろしていなかったので食料はあるが、森のなかは魔物でいっぱいだ。
「おい森に逃げたぞ!追え!」
どうやら追ってくるようだが、僕らも森の奥深くへと逃げていった。
ああーなんでこんな事に。
そうして、とある岩陰まで逃げると、一息つく。
森のなかでも開けた場所にあるようだ。
「ふう…一体何なんだよ。」
泣きたくなってくる。先日から引き続き、一体何が起きているのか。
「ヤヌークって言ったっけ?あいつらと、町の衛兵はグルね。」
「うえええ…」
なんかいきなりお尋ね者になりそうだな。困る。
「ちょっと待ってね。」
ごそごそと荷物を漁って、地図を取り出した。
「今このへんね、町の名前は『ジーン』か。で、領主はこっち。迷宮都市に領主が居るから目的地って事ね。」
「うん。」
「街道は追っ手というか手配が回りそうだから、通常のルートだと補足されてしまう可能性があるわ。」
「いっそ、迷宮都市を諦めるか。」
「町の衛兵がグルだからって、領主までグルとは思わない。だから、追っ手というか手配より先に迷宮都市まで行って、領主に直談判できればなんとかなるかも」
「うーん。なんとかならなかったら?」
「その時はこの国に絶望して潰すわ。」
「おいおい」
本気でやりそうな冗談を言ってくるが、確かにソレでダメなら国に絶望するしか無い。
別の国に逃げるのが良いだろうか。
というか、あの場でイネアちゃんが蹴散らしても良かったような気が。まあ、文句は言うまい。
「で、この街道はこの大森林と山を大きく迂回しているわけよ。そしてこの山の麓が迷宮都市である『デニム』があるわね。」
「ふむふむ。」
「つまり、この森を一直線に突っ切れば、追手より早く着く。多分、寝ずに行って2日くらい。」
「う…む?」
えーと、なんて言った?
「え、突っ切るの?」
「ええ、そうよ。寝ててもきっと襲われるから、寝ずに突っ切ったほうが良いわね。」
「おいおい」
「ちなみに初心者パーティなら無謀な選択だから、選択しないでね。」
「え、ちょ、待って」
「さあ、ご飯食べたら行きましょう。気配もあるから、食べながら移動するわよ。」
「え、え、えーーー!!」
ずんずか進む。街道を往く速度で森の中を進む。
ありないと思いつつも、ついて行けてる自分が憎い。
程なくして、ゴブリンの集落が見えてきた。こちらをゴブゴブいいながら指差して、そして武器を構えて待ち構える。
「直線で進むと集落みたいね。」
「そうですね、どちらに迂回すべきでしょうか。」
話しつつも、足は止まらない。
「冗談。私が半分マジなんだから、あの程度の障害、横たわった灌木くらいの障害でしか無いわ。」
「え?」
「突っ切るわよ」
「えーーーー」
ゴブリンの数がすごい。200は居る。戦力にならない子供を含めてだけど。
うーん。メスゴブリンって居るのかな?見当たらない。
立ちふさがるゴブリン。そして舞い散るゴブリン。崩れ落ちるゴブリン。
矢は地面に落ち、僕はその様子を真後ろから眺める。
歩みは止まらない。
速度は落ちない。
「はい、ちょっと通らせて貰いますよ。」
元凶がそんな風に軽く言う。どの口が…と思わなくもない。
そして村の中央に来た時、左右から攻撃を受けるも全て弾き返す。
棒がよく見えないんだけど、全て棒でどうにかしてるよね。
ゴブリン達は絶望的な表情をしている。
もう全滅するのか。いや逃げるべきだ。みたいな相談をしている気がする。
だが僕らはそんなゴブリンを尻目にとっとと村を抜ける。
追撃はない。
ちらっと後ろを見ると。こちらを眺めているゴブリン達。
一体何だったんだ。と、言うような良くわからない顔をしている。
意外に表情豊かなんだなー。と思いながらすぐ後ろを着いて行く。
マジで突っ切ったよ。
本気モードすごいな。
日が傾いてくる。それ程歩いているが、襲ってくる奴はそれなりにいる。
主にゴブリンだがたまに、その辺に生息してるベビも襲ってくる。
でかいやつだが、頭を消し飛ばされて転がっていた。
無論棒で吹き飛ばした。
魔法使いなんだよな?
何度か世の中の理不尽を噛み締めながら、ずんずん進む。
直線上に滝が見えた。
こちらが下だ。
ここどうするんだろ。
そう思っていたら、ぐいっと襟とお腹を持たれる。
「え?」
ぽーんと投げ飛ばされると、僕は滝の上にある茂みの突き刺さった。
「な、ななななな」
「驚いてないで行くよ。」
いつの間にか登ってきた…多分跳んできたイネアちゃんに引き起こされて進む。
もう滅茶苦茶だ!
日が落ちてようやく魔法を使った。
光源が僕らの上から照らしてくれる。
これで夜間も迷いなく進める。
足元も不注意にならないくらいに見れる。
もちろん、昼間の比ではなくゴブリンとかが現れるが瞬殺していく。
夕飯は食べ歩きだった。
疲労で足が遅くなると、ヒールをかけてくれる。
そして休憩もなく歩かされる。
ある意味拷問だが歩ける。
疲れた気がするが、元気がある。
訳がわからない。
翌日になる。眠い気がするが当然休みはない。
眠そうな顔をすると、「醒めよ」とか言いつつ魔法を使ってくる。
多分眠気を飛ばす魔法なんだろう。良くわからない。
眠い気がするし疲れた気がするが、元気だし眠くない。意味がわからないが進むことは出来た。
昼ごろになって、やっと休憩だ。
トイレ休憩だったが、暫く休めた。
そして、どうにも森の雰囲気が変わった気がした。
休憩も終わり、水分を補給したら早速出発となる。
ここからはオークが出てきた。
どうやらゴブリンゾーンは終わって、オークゾーンらしい。
だけど、オークもゴブリンと変わらない。
瞬殺されるには変わらない。
夕暮れ時になると一際大きなオークと、取り巻きの集団が現れる。
オークの集落が後ろの方に見えた。
勿論進路上にある。
しかも大きな屋敷?が進路上にある。
歩みは止めない。
「えーと、勿論…」
「ええ、勿論突っ切るわ。」
大きなオークは僕だったら10回死んでも倒せ無さそうな強さがありそうだ。
超怖い。
そんなオークを吹き飛ばし、屍の上を歩く。
僕は怖いので迂回した。
オークたちが必死になって僕ら…というか、黒い金髪の悪魔と戦うが、どうにもならない。
流れ弾がこちらに来るが、それも弾かれる。
「なんか、マンガにあったわね。直進する奴。」
「マンガってなんですか?」
「そのツッコミは想定外だったわ」
なんだかわからないが、不合格らしい。不機嫌になった。
不機嫌さは周りのオークで発散される。
オークの村に入っても歩みは止まらない。
一際大きな建物に近づくと、なんか豪華な装飾のオークが現れる。
なんか吠えているような気がするが、勿論何を言っているかわからない。
色々怒っているんだろう。その気持はよく分かる。
手下が襲ってくるも瞬殺。
矢や槍が飛んでくるも効かない。
豪華なオークは今までで一番賢明な行動を取った。
逃げたのだ。
逃げたオークは追わない。
奴は助かった。
そしてずんずん建物に近づき、中を突っ切り、壁を粉砕して外に出る。
オークの村を出た。
オークもいい迷惑だったろうなぁ。
数多くの命が失われたオーク達ではあるが、或いは嵐が来たかのようなものだ。天災だと思って気を取り直して欲しい。
ちょっぴり同情したのだった。
しかし森のなかは歩きにくい。地面は柔らかいし、草の下に何があるかわからないし、穴が空いてても気づきにくい。
獣道が唯一歩きやすいという。しかし襲われやすくもあるという皮肉。
そうこうしていると、山の麓まで出る。
流石に山を登って降りてなんてしてられないので、そこは少し迂回。
勾配があるためにやっと迂回である。
山の麓って言っても森の中。上り坂になるな―って所を同じ高さの場所を平行移動する感じで進む。
再び夜を迎え、朝になり昼となる。そして、迷宮都市の市壁が見えてくる。
マジで2日で着いた。すげえ…
「さて、ちょっと宿に泊まって仮眠取ったら領主の館へ行くわよ。」
「はい」
眠い。確かに眠い。でも疲れはあんまりない。回復魔法すごい。
眠気も飛んでるが眠い。眠くないが眠い。
この感覚を誰かに伝えたい!けど上手く言葉にできない。
多分横になったら一秒で寝れる。でも寝ようと思わないなら寝ない。訳がわからない。
そうして門の前まで来た。
「入れてちょうだい。」
「何か身分証は?」
ハンター証を衛兵に見せると、入市税を払って中へ。
ハンター証すげー便利だな。
「ところで安めの宿はどこかしら?」
「あー初めてか。あっちの通りにあるよ。わかりやすい看板がある。」
「ありがとう。」
うーん、はやく寝たい。
「ようこそって言われなかった。なんかくやしい。」
細かいなぁ。
そうして宿に行くと直ぐに部屋に入って寝る。
細かいやり取り?忘れた。眠いから記憶の彼方です。
体拭きたいけど、まずは…寝る…よ…
Zzz