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イネアさんの異世界冒険記  作者: 秋月イネア
2、テッドの章
8/9

5 何が、どうして、こうなった?

 迷宮都市に向かう道中、レンジャーのエドを仮の仲間に加えて移動中だ。

 あの後、数度のモンスターとの戦いを経て、中々身軽に動けるし、索敵もそれなりだと分かった。

 やはり索敵は金髪黒ローブ(イネアちゃん)が凄いのだが、彼だって普通に感知できる。問題ない範囲だろう。

 なので、黒ローブ(イネアちゃん)も途中から来る事は言わなくなった。


 その夜、不寝番の順番を決めつつ夜食を作っていた。

 簡単なスープなら作れるという彼の言を元に作っていた。

 ちょっとしたスープにパンと干し肉だ。スープがあるだけで非常に豊かな食卓に思えてくる。

 干し肉もスープに入れれば、少しは柔らかくなるのかな。


「やはり同い年の中でもテッドさんは、お強いと思いますよ。これで戦士レベルが7とか信じられません。」

「そ、そうかな。」


 褒められ慣れていないせいか、少し顔が熱い。

 きっと焚き火のせいだな。


「所でイネアさんはレベルおいくつくらいなんですか?」

「うーん。そういうのは秘密にしているんだけど。」


 ちなみに、聞いた時は顎が外れかけたが、火系魔法で14、杖術が31だった。

 なぜ魔法使いなのに杖術が強いのか。


 なお不寝番の順序はエド、僕、イネアちゃんである。

 うーん。しかし今日は張り切りすぎて疲れたのかな。やけに眠い。


「あら?眠たそうね。もう休む時間だし寝てもいいわよ。」

「うーん、そうするよ。」


「あ、イネアさんも寝ててください。僕の方はお気になさらず。」

「そう?丁度私も眠かった所なのよ。」


 すごく猫かぶりだな。睡眠はしなくても大丈夫だとか言ってた癖に。

 

「じゃあ、おやすみ…」

「おやすみー」


 そうして、結構深い眠りについてしまった。



~翌朝~



 ん~

 なんか怠いな。おかしいな。


「おはよー」

 目を擦りながら起きると…


 あれ?

 何?どしたのこれ?


「ああ、おはよう。」

 太陽は既に昇っている。つまり朝。不寝番はすっぽかしてしまったようだ。が?


「ねえねえ、なんでエドが縛られて寝てるの?」

「それはね、私を襲おうとしたからよ。」


「あーうん。そうだね、それは縛って当然だね。

 じゃあさ、あそこで縛られてる男たちは何者?」


「あれも私達を襲おうとしたからだね。」

「え?どいうこと?」


「私は効かなかったけど、テッドは一服盛られてたみたいね。」

「盛られて?え?」


「睡眠薬でも入ってたんでしょう?スープに。」

「え?でも先にエドが飲んだんじゃ。」


「むしろ最後じゃないとダメよねぇ。」

「えー。あーそうか。」


「つまり、エドに一服盛られて、男たちに連れて行かれて、奴隷として売られるところでした。ちゃんちゃん♪」

「えーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


「良かったわね、私が睡眠薬効かなくて。」

「あーハイ。ありがとうございます。」


 なんてこった。だからこんなに怠いのか。

 密かに危機があり、密かに回避されたようだ。

 しかもエドが最初から裏切り者?いや人買いの仲間?


「もしかして、相席の頃から?」

「そうよー♪」


 やけに嬉しそうだ。

 そうか、笑ってた理由が分かった。嘘吐きの演技に付き合ってたからだ。そして僕がまんまと騙されるのを分かってて、ほくそ笑んでいたのか。

 なんて性根が汚い!

 でも、人買いに売ろうとするエドと人買い達のほうがもっと汚い!


 あー危なかった。


「何か色々言いたいけど、とりあえずどうしよう。」

「リーダーにお任せするわ。」

 

 こんな時にだけリーダーって言うなよ。あいや最近はそうでもないか。

「お任せって言ったって、どーすりゃいいんだ?」


「突き出すも良し、ここで殺して埋めてしまっても良し、放置しても良し。」

「なんか三択…つか実質は二択か。」


「彼らからすれば死の一択ではないかしら?縛り首になるか、殺されるか、野垂れ死ぬかだから。」

「突き出したら、とりあえず収監されてもしかしたら、戻ってこれるかも知れないじゃん。」


「まあ、そうかも知れないわね。」

「まあ、良くて奴隷として売っぱらわれるか…まあ突き出そう。未遂に終わってるし。」


「ちなみに、夜私が言われたセリフを聞いてたら殺してたかもね。」

「何を言われ…って、なんで嬉しそうに言ってるんだよ。怖いなぁ。」


 男たちは、三人か。少ないな。まあ、睡眠薬で寝てるハズだったしな。

 ついでに四対二で数的にもあちらが優位だが。


「うーん。せっかくレンジャーが入ったと思ったのに。」

「一応、憶えておくと良いわ。

 『都合がいい事は百回中一回だけ』よ。」


「あー確かに、ご都合過ぎたか。まあ確かに。」

「もうちょっと、浮かれてたね。」


 えーとイネアちゃんに出会えたことは、非常に不本意ながら都合がいい事だったから、あと98回は、都合が良い事が起きないって事か。


「そんなでも無いと思ったんだけどな。所で、こいつら起きてるよね?静かだね?」

「口も結わえてあるから。」

「なるほど。」


 そうこうしているうちに、朝食も終わって出発となる。

 縄で数珠つなぎに縛っているので、先頭が僕で一番後ろがイネアちゃんだ。


 うーん、町が近いのかお昼になって休もうとした時には町の壁が見えた。

 お昼は後回しにして、突き出してしまおう。



「どうも?どうしたんですか?」

 町の門を守る衛兵だろう。


「どうもこうも、襲われたので捕まえて連れて来ました。宜しくお願いします。」

「ふむ、詳しい内容を聞こうか…」

 チラチラを後ろの4人を見る。一人では対応しきれないと見て、5人ほど連れてきた。


「おい、ヤヌークじゃねえか、どうしたんだコレ?」

 衛兵の一人が言う。知り合いのようだ。


 衛兵が勝手に猿轡を外す。

「お、おい。」

 何を勝手に。


「こいつらが襲ってきたんだ!魔法使いにやられた!」

「あ?」


「なんだって?」

「おい、どういう事だ。」


「いやだから、この3人組とエドが組んでてですね。夜襲ってきたんですよ。」

「嘘つけ!俺らが休んでる所を襲ってきた!財布とかもかっぱらいやがって!」


 なんという頭が痛くなる。なんと往生際が悪いのだろう。

「それは、いかんな。」


 ん?


「おい、なんでヤヌーク達を襲ったんだ?」

「いやだから、襲ってきたのはあいつらで…」


「おい、ヤヌーク達の縄を解け!」

「はい!」


 ちょ、なんだこれ?

「さて、襲撃犯の盗人が、どうなるか解ってるんだろうな。」

「はあ?なんで!?襲ってきたのはソイツらで…」


 はたと気付く。こいつらに包囲されてる?

 襲ってきた奴3人に加えて完全武装の6人と、エド。

 10人に囲まれてる。


 どどど、どういうことだ?

 え、どういうこと?


 ぞぞぞっと背中になんか変なのが這いまわるような感覚。

 いやな汗が垂れる。


「っち、テッド。どうやらグルみたいね。」

「マジか。」


「さあ大人しく…」


 言うやいなや、イネアちゃんが何かを地面に叩きつける。

 すると白い煙が一気に吹き上がる。


 なんだ!?

 煙で何も見えなくなった。目に煙が入るし鼻からうへえ。ゴホゴホ。


「こっちよ!」

「逃がすな!」

「おい、俺はちげーよ!」


 エドが居た方向に向かって走る。そしてエドを跳ね飛ばしてから煙から逃れる。


「えーと、こっちよ。」


 うおおお、こんな所で悪者に捕まってたまるか!!


 僕らは森に入る。幸いな事に荷物は下ろしていなかったので食料はあるが、森のなかは魔物でいっぱいだ。


「おい森に逃げたぞ!追え!」


 どうやら追ってくるようだが、僕らも森の奥深くへと逃げていった。

 ああーなんでこんな事に。


 そうして、とある岩陰まで逃げると、一息つく。

 森のなかでも開けた場所にあるようだ。


「ふう…一体何なんだよ。」


 泣きたくなってくる。先日から引き続き、一体何が起きているのか。


「ヤヌークって言ったっけ?あいつらと、町の衛兵はグルね。」

「うえええ…」

 

 なんかいきなりお尋ね者になりそうだな。困る。


「ちょっと待ってね。」

 ごそごそと荷物を漁って、地図を取り出した。


「今このへんね、町の名前は『ジーン』か。で、領主はこっち。迷宮都市に領主が居るから目的地って事ね。」

「うん。」


「街道は追っ手というか手配が回りそうだから、通常のルートだと補足されてしまう可能性があるわ。」

「いっそ、迷宮都市を諦めるか。」


「町の衛兵がグルだからって、領主までグルとは思わない。だから、追っ手というか手配より先に迷宮都市まで行って、領主に直談判できればなんとかなるかも」

「うーん。なんとかならなかったら?」


「その時はこの国に絶望して潰すわ。」

「おいおい」


 本気でやりそうな冗談を言ってくるが、確かにソレでダメなら国に絶望するしか無い。

 別の国に逃げるのが良いだろうか。

 というか、あの場でイネアちゃんが蹴散らしても良かったような気が。まあ、文句は言うまい。


「で、この街道はこの大森林と山を大きく迂回しているわけよ。そしてこの山の麓が迷宮都市である『デニム』があるわね。」

「ふむふむ。」


「つまり、この森を一直線に突っ切れば、追手より早く着く。多分、寝ずに行って2日くらい。」

「う…む?」


 えーと、なんて言った?

「え、突っ切るの?」

「ええ、そうよ。寝ててもきっと襲われるから、寝ずに突っ切ったほうが良いわね。」

「おいおい」


「ちなみに初心者パーティなら無謀な選択だから、選択しないでね。」

「え、ちょ、待って」


「さあ、ご飯食べたら行きましょう。気配もあるから、食べながら移動するわよ。」

「え、え、えーーー!!」


 


 ずんずか進む。街道を往く速度で森の中を進む。

 ありないと思いつつも、ついて行けてる自分が憎い。

 

 程なくして、ゴブリンの集落が見えてきた。こちらをゴブゴブいいながら指差して、そして武器を構えて待ち構える。

「直線で進むと集落みたいね。」

「そうですね、どちらに迂回すべきでしょうか。」

 話しつつも、足は止まらない。


「冗談。私が半分マジなんだから、あの程度の障害、横たわった灌木くらいの障害でしか無いわ。」

「え?」

「突っ切るわよ」

「えーーーー」


 ゴブリンの数がすごい。200は居る。戦力にならない子供を含めてだけど。

 うーん。メスゴブリンって居るのかな?見当たらない。


 立ちふさがるゴブリン。そして舞い散るゴブリン。崩れ落ちるゴブリン。

 矢は地面に落ち、僕はその様子を真後ろから眺める。

 

 歩みは止まらない。

 速度は落ちない。


「はい、ちょっと通らせて貰いますよ。」

 元凶がそんな風に軽く言う。どの口が…と思わなくもない。


 そして村の中央に来た時、左右から攻撃を受けるも全て弾き返す。

 棒がよく見えないんだけど、全て棒でどうにかしてるよね。


 ゴブリン達は絶望的な表情をしている。

 もう全滅するのか。いや逃げるべきだ。みたいな相談をしている気がする。


 だが僕らはそんなゴブリンを尻目にとっとと村を抜ける。

 追撃はない。


 ちらっと後ろを見ると。こちらを眺めているゴブリン達。

 一体何だったんだ。と、言うような良くわからない顔をしている。

 意外に表情豊かなんだなー。と思いながらすぐ後ろを着いて行く。


 マジで突っ切ったよ。

 本気モードすごいな。


 日が傾いてくる。それ程歩いているが、襲ってくる奴はそれなりにいる。

 主にゴブリンだがたまに、その辺に生息してるベビも襲ってくる。

 でかいやつだが、頭を消し飛ばされて転がっていた。


 無論棒で吹き飛ばした。

 魔法使いなんだよな?

 

 何度か世の中の理不尽を噛み締めながら、ずんずん進む。

 直線上に滝が見えた。

 こちらが下だ。


 ここどうするんだろ。

 そう思っていたら、ぐいっと襟とお腹を持たれる。


「え?」

 ぽーんと投げ飛ばされると、僕は滝の上にある茂みの突き刺さった。

 

「な、ななななな」

「驚いてないで行くよ。」

 

 いつの間にか登ってきた…多分跳んできたイネアちゃんに引き起こされて進む。

 もう滅茶苦茶だ!


 日が落ちてようやく魔法を使った。

 光源が僕らの上から照らしてくれる。


 これで夜間も迷いなく進める。

 足元も不注意にならないくらいに見れる。


 もちろん、昼間の比ではなくゴブリンとかが現れるが瞬殺していく。

 夕飯は食べ歩きだった。


 疲労で足が遅くなると、ヒールをかけてくれる。

 そして休憩もなく歩かされる。


 ある意味拷問だが歩ける。

 疲れた気がするが、元気がある。

 訳がわからない。


 

 翌日になる。眠い気がするが当然休みはない。

 眠そうな顔をすると、「醒めよ」とか言いつつ魔法を使ってくる。

 多分眠気を飛ばす魔法なんだろう。良くわからない。

 

 眠い気がするし疲れた気がするが、元気だし眠くない。意味がわからないが進むことは出来た。

 昼ごろになって、やっと休憩だ。

 トイレ休憩だったが、暫く休めた。


 そして、どうにも森の雰囲気が変わった気がした。

 休憩も終わり、水分を補給したら早速出発となる。


 ここからはオークが出てきた。

 どうやらゴブリンゾーンは終わって、オークゾーンらしい。


 だけど、オークもゴブリンと変わらない。

 瞬殺されるには変わらない。


 夕暮れ時になると一際大きなオークと、取り巻きの集団が現れる。

 オークの集落が後ろの方に見えた。

 

 勿論進路上にある。

 しかも大きな屋敷?が進路上にある。

 歩みは止めない。


「えーと、勿論…」

「ええ、勿論突っ切るわ。」

 

 大きなオークは僕だったら10回死んでも倒せ無さそうな強さがありそうだ。

 超怖い。


 そんなオークを吹き飛ばし、屍の上を歩く。

 僕は怖いので迂回した。


 オークたちが必死になって僕ら…というか、黒い金髪の悪魔(イネアちゃん)と戦うが、どうにもならない。

 流れ弾がこちらに来るが、それも弾かれる。


「なんか、マンガにあったわね。直進する奴。」

「マンガってなんですか?」

「そのツッコミは想定外だったわ」


 なんだかわからないが、不合格らしい。不機嫌になった。

 不機嫌さは周りのオークで発散される。


 オークの村に入っても歩みは止まらない。

 一際大きな建物に近づくと、なんか豪華な装飾のオークが現れる。


 なんか吠えているような気がするが、勿論何を言っているかわからない。

 色々怒っているんだろう。その気持はよく分かる。


 手下が襲ってくるも瞬殺。

 矢や槍が飛んでくるも効かない。


 豪華なオークは今までで一番賢明な行動を取った。

 逃げたのだ。

 逃げたオークは追わない。

 奴は助かった。


 そしてずんずん建物に近づき、中を突っ切り、壁を粉砕して外に出る。

 

 オークの村を出た。

 オークもいい迷惑だったろうなぁ。


 数多くの命が失われたオーク達ではあるが、或いは嵐が来たかのようなものだ。天災だと思って気を取り直して欲しい。

 ちょっぴり同情したのだった。


 しかし森のなかは歩きにくい。地面は柔らかいし、草の下に何があるかわからないし、穴が空いてても気づきにくい。


 獣道が唯一歩きやすいという。しかし襲われやすくもあるという皮肉。

 

 そうこうしていると、山の麓まで出る。

 流石に山を登って降りてなんてしてられないので、そこは少し迂回。

 勾配があるためにやっと迂回である。

 

 山の麓って言っても森の中。上り坂になるな―って所を同じ高さの場所を平行移動する感じで進む。

 

 再び夜を迎え、朝になり昼となる。そして、迷宮都市の市壁が見えてくる。

 マジで2日で着いた。すげえ…


「さて、ちょっと宿に泊まって仮眠取ったら領主の館へ行くわよ。」

「はい」


 眠い。確かに眠い。でも疲れはあんまりない。回復魔法すごい。

 眠気も飛んでるが眠い。眠くないが眠い。

 この感覚を誰かに伝えたい!けど上手く言葉にできない。

 多分横になったら一秒で寝れる。でも寝ようと思わないなら寝ない。訳がわからない。

 

 そうして門の前まで来た。

「入れてちょうだい。」

「何か身分証は?」

 ハンター証を衛兵に見せると、入市税を払って中へ。

 ハンター証すげー便利だな。


「ところで安めの宿はどこかしら?」

「あー初めてか。あっちの通りにあるよ。わかりやすい看板がある。」

「ありがとう。」


 うーん、はやく寝たい。

「ようこそって言われなかった。なんかくやしい。」

 細かいなぁ。


 そうして宿に行くと直ぐに部屋に入って寝る。

 細かいやり取り?忘れた。眠いから記憶の彼方です。


 体拭きたいけど、まずは…寝る…よ…


Zzz

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