2 僕の冒険はまだ始まってすら居ない
…ほんとうに町までぶっ通しで走った。
僕は門前でゼエゼエを息を切らせている。
「だいたい40kmを5時間か、その年にしては良いタイム何じゃないかな。歩きよりマシといったところか。」
何を、言って、いるんだ、ぜえ、ぜえ
イネアちゃんは、並走&敵への対処をしといて息も切らしていない。
そして、へばったら蹴られたりした。
本当に立てなくなったら回復魔法で回復させてもらったが、その上で走らされた。
「最近暇だったけど、これはいい刺激になるね。ちゃんと育ててあげるからねぇ」
自分勝手過ぎる理由で良くわからないけど、鍛えてくれるなら助かる。
僕には右も左もわからない世界だからね。
でも、なんだろう、いい予感がしない。
いや、これも罰と思って甘んじて頑張ろう。
僕はぜえぜえ息を切らせているが、今は街に入る際の順番待ちになってる。
町の周りに壁が張り巡らされ、ちょっとした砦というべき規模になっている。
そのため、出入りは基本的に門でしか行われないため、個別にチェックしているのだという。
もちろん犯罪者は門前払い&捕縛になるのだろうけど。
「さて、落ち着いたら順番を待ちながら、今後の話をしましょう。」
今後の訓練方針だろうか。
あまりキツすぎない様にお願いしたいところだ。
「その前に、テッドくんのステータスを教えてくれる?」
まあ鍛えるなら元となる性能を知っておくべきではあるね。
名前:テッド
職業:村人 Lv5 体力:8 敏捷:10 知力:8 生命力:9 魔力:0
特性:なし
技能:羊飼いLv5 鉈Lv2
鉈Lv2は薪割りで鍛えただけだ。魔物と戦うなんてしたこともない。
僕は正直にステータスを教えた。
「ふーむ。それはなんとも…年齢相応というか普通というか。」
はいはい、普通ですよ普通。
「そして魔法の素質はまったく無さそうだ。」
魔法の素質ある人の方が珍しいんだけどね。
噂では5~6人PTで一人か二人いればいい方らしい。
中には全員使えないと言うこともあるとか。
「で、最終的にはハンターとしてやって行きたいって事で良いのよね。」
「はい。」
「なら、まずは基礎だね。君はまだスタートラインにすら立っていないことを自覚しよう。」
そうだよなぁ、駆け出しというか初心者と言うか、そんなんだからなぁ。
がんばろう。
「返事は?」
「あ、は、ハイ」
「元気ないねぇ」
「すいません」
ご覧のとおりへばっているので。
そうこうしているうちに、僕らの番になった。
「次の人」
「はい。」
イネアちゃんは何かのカードを渡した。
「7級ハンターで、ここのギルドをベースにしているという事は帰還だね。」
「そうです。」
「はい、ありがとう通っていいよ。」
彼女の審査はすぐに終わった。
「あとついでに、彼の身元引受人やってます」
「ほう、というと?」
こっちに話が回ってきたようだ。
「村から出てきたばかりなので身分証明書がありませんが、村人だった事は保証します。」
「あ、ここから北西にある、レオネ村から来ました。」
「ふむふむ、レオネ村だね。何をしに来たんだい?」
「冒険者ギルドで、その仕事を探そうかと。」
「ほぉ、その歳で独り立ちとはすごいね、でも君の歳だとご両親が心配するんじゃないのかな。」
「いえ、両親は亡くなっていますので。」
「あーすまない。ふむふむ、では問題なしだね。通っていいよ。」
「ありがとうございます。」
なんか緊張した。
やっぱり大きな町だけあって、しっかりしているんだな。
「さて、まだ日は落ちてない。先ずは職安で登録をしてから準備を進めましょう。」
「は、はい」
職安…職業安定所かぁ、ハンターになれるかなぁ。
「何、緊張することはないよ。良く日雇いの仕事や、スキル持ちの人材を斡旋する仲介業者みたいなもだから。」
穿ちすぎな説明だが、確かに僕くらいの年齢の子も働いているという事だし、頑張っていこう。
職業安定所で交付されるハンター証。
僕が知っている内容だと、外で単独または複数人で魔物を狩ったり、山野にしかない珍しい植物などを集める仕事―を、することを許可する証だ。
何を退治して欲しい、採ってほしい等の依頼を請け負って報酬を受け取るものの他に、肉や角毛皮など素材などを独自で獲って販売しても良いというものだ。
次に、さきほどイネアちゃんが言っていた7級ハンターというのは、その強さの格付だ。
基本的に7級ハンターなら、単独で7級相当の魔物や動物を狩れる。という指標になる。
退治依頼等はその指標に従って行われるそうだ。
「7級ハンターって何を倒せるのが指標なの?」
細かい指標は分からないので聞いてみた。
「ゴブリンを単独で狩れる。だったかな。」
200匹撲殺してるのだが、そこはカウントされないのだろうか。
職業安定所の大きな扉を開けて入ると、外よりも騒がしいく感じた。
若い人と年配の方が多いようだが、荒くれ者と呼べる人は少ない。
壁際のベンチで休んでる、スキンヘッドで厳つい目の人と目があった。あ、ごめん、視線はやや上見てました。
その視線に気づいたようで益々厳つい目になっていく。
僕は目で礼をすると別の場所を見る。
さっきのはハンターの人だったのかなぁ。
「テッド君は字が書けた?」
「あ、書けません。」
「代書代なんてないよね。」
「おいくらなのでしょう。」
「何、たったの100リーンだよ。」
ひゃ、100リーン!?
代書たかいよ。
手持ちは260リーン。宿に泊まるお金を考えれば、早急にどうにかしなければならない。
「ハァ、まあ私が書くから良いよ。」
受付から受け取った板に、必要事項を書いて、僕に渡してくれた。
字書けたんだね。
代書代払わなくてラッキーと思っておこう。
「えっと?」
「あっちに新規兼用の窓口があるから、そこで登録してきなさい。30リーンもあれば登録はできるから。」
げっ登録でもお金かかったのか。
流石町はお金がどんどん飛んで行く。
速く稼がないとね。
「新規登録お願いします!」
自分の番になったので、例の板を渡した。
イネアちゃんは、依頼の完了報告に行ったらしい。
「はいよ、24リーンだ」
登録料を支払う。何が書いてあるかわからないが、小さな木の板に何やら焼き入れてあるようだ。
暫くすると、イネアちゃんもやってきたが、手にはなにか薄い木の板を持っている。
「これ、受理しといて」
「なにこれ?」
「明日のお仕事?」
おぉ、早速仕事しないと、飢え死んでしまうよね。
いったい何の仕事なんだろう。
「受付はあっちの窓口だから、がんばって」
よし初仕事だ。がんばるぞ。
僕は早速窓口に行って受付を済ませた。
「それでは朝、8時正門前に集まってくださいね。」
受付のおば・・・年配のお姉さんから、仕事の集合場所の説明を受ける。
それまでは自由時間だ。さてと、走って来た疲れもあるし、宿をとって寝たい。
特に何事も無く、職業安定所の外へ出る。
早く休みたい。
えーと、一般的な宿だと素泊まりが500リーン。朝夕付きが1,000リーンでらしい。
だがそんな金はないので、100リーンで泊まれるオンボロ宿に泊まる。
町の片隅にある、ほんとうにボロい宿だ。
ボロい宿だが、まあその代わり、部屋が別々になれるわけだ。
気まずくならなくて良いので助かる。
のこり136リーンを何度も数え、夜も更けたのでそのまま寝る。
次の日の宿代しか無いのだ、どうにかして食いつながないと。
朝、宿の朝食を食べ、正門前へ向かった。
イネアちゃんは既に出かけていたようで挨拶もできなかった。
そういえば、仕事ってなんの仕事だろう。
特に必要な物を言われなかったので、きっと手ぶらで行っても平気なのだろう。
正門前には力持ちぽい方々が集まっていたが、なんとも場違いに思えてくる。
「はーい、街道整備の仕事の人はこちらですよ。えーと、全員揃ってるみたいですね。」
街道整備?
受けた依頼は街道整備だったのか。
具体的には、何をするんだろう。
「これから一ヶ月間宜しくお願いしますね」
ま、待って!一ヶ月も!?
キャンセルしたい!猛烈にキャンセルしたいが…確か違約金とか発生するからそれをしたら、僕の懐が終わる。
キョロキョロと涙目になって周りを見ていると、遠くのほうでニヤニヤと笑っている黒ローブの少女が居た。
確信犯だ!これなんていう嫌がらせだよ!!
あーもう!やってやる!やってやりゃーいんだろ!!!
一日目
ただがむしゃらに土を掘り返したり、ゴミを捨てたりした。
寝る頃になると、腰と腕と足が猛烈に痛かった。
食欲はないと言ったが、食べないと保たないぞと言われて無理やり食べた。
二日目
一日目より悪いスタートである。体がダルい。けどやらなきゃいけないから、無理やり動いた。
腰と腕と足は昨日より痛かった。
三日目
二日目の朝よりは少しだけマシだ。
考えようによっては、朝夕ご飯が食べれるので、食費的に助かるお仕事なのかもしれない。
だがこの重労働は無い。つらい。
四日目
けが人が出た。たまたま居合わせた黒いローブの少女が颯爽と現れて治していた。
近くの森で薬草採集をしていたらしい。
一体ダレナンダロウ(棒)こんちくしょうめ!
・・・
十日目
体が着いてこれるようになった。
寝るとき痛みは然程もない。もしかしたら痛みに慣れたのかもしれないが。
十五日目
Lvは上がっていないのに、力がついたような錯覚を憶えた。
いつもより重いものは持てないが、往復の回数は増えた。
それにしても街道はこうやって整備するのか。なかなか重労働なんだなぁ。
二十日目
今日はゴブリンが出た。
五匹だったが、黒いローブの少女が颯爽と現れ以下略。
相も変わらず薬草採集のついでとの事だが、本当に一体彼女は何をしているんだろう。
この日、ゴブリンの強さについて聞いてみた。
聞いたおっさんも一対一なら勝てるが、あんなふうに瞬殺できるのは中々居ないという。
中堅の冒険者パーティーで、5匹を楽に狩れるとかなんとか。
100匹だと中堅パーティーでなんとか倒せるとか何とか。
そんな戦力評価を聞いた時、僕の村にたまたま来たのが、超強いイネアちゃんで良かったと思った。
強い強いとは思ってたけど、アレってカナリ強いんだなぁ。
三十日目
終わった!
やり遂げたぞーーーーー!!
町の正門前に移動して、監督役の人が解散宣言すると、どっと疲れが体に流れ込んでくるようだった。
依頼完遂の証を受け取ると、意気揚々冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドに入ると
「お疲れ様、ちょっとは逞しくなったかな?」
黒ローブの悪魔が居た。
経験値は仕事だと微増。何か倒さないと急激には増えないんだぞ。
こんな仕事で力がつくわけないじゃないか。
「あー確かに疲れた。もうこりごりだよ。」
「じゃあ完遂の報告行ってらっしゃい」
無論そのつもりだった。
並ぶこと数分、受付の人にギルドカードと完遂証明を渡す。
「完了報告ですね、お疲れ様でした。」
ふう、なんかとっても満たされた気持ちになった。
おばちゃんの声のが安心できるってのも、やるせなく感じるがまあいい。
「30,000リーンですね、はい。」
ファ!!!!!!!!!!!!!
ちょ、ちょっと待とうか。3万リーンだと!?
どういうことだ、いったい何があったんだ。
「あ、ありがとうございます。」
僕はぎこちなく大金を受け取ると、黒いローブの少女の方を向いた。
案の定ニヤニヤしている。
3万リーンといったらですね。金貨!!!
そう!金貨なんだよ!!!
はじめて触ったよ、金貨三枚。小金貨だけど、ほへぇ・・・
「失くしたり、盗まれないように気をつけなさいね。」
っは!そうだった、こんな大金を、こんな小僧が持ってるなんて狙ってくださいって言ってるようなもんだ。
「さて、ソレはソレとして、次はこの依頼ね。」
…え?
次の依頼?
「い、一日くらい休ませてくれても…」
「ふむ、よくわかってないようね。」
なんか溜息吐かれた。
そして近くのテーブルに座るように促されたので、座る。
「君には槍を扱ってもらおうと思う。で、まず、一般的な槍だけど、17万リーンね。」
なんだと!!
べらぼうに高いじゃないか!!
「練習用(棒)だと1000リーンでいんだけど、基礎体力が足らないので、基礎体力を上げつつお金稼ぎをしてもらっているのよ。」
いやだから、基礎体力もなにもモンスター倒してLvあげないとダメなのになぁ。
「基礎体力って…はやくモンスターを倒して、村人Lvを10にしたほうが手っ取り早いんじゃないかな。武器のためのお金が足らないのは分かったけど。」
「ああ、そういう勘違いね。」
勘違い?
「この世の中の全員がだいたいそういう認識だけど、Lvは単なるシステムアシストに過ぎないから、地力を上げたほうが有利なのよ。」
なんだ、その暴論は。
「それじゃあまるで、地力があれば、力9の人が力10の人に勝てるみたいじゃないか。」
「ええ、勝てるわね。」
驚いた、彼女はそのような事を信じているらしい。
昔の偉い人が試したが数値は絶対だったというのに。
「まぁ、信じないのも良いけど、教育方針は変わらないわ。」
まあ、お金が無いのは事実だしね。
「だいたい、武器だけじゃダメよね、鎧も買わないと。」
おお!鎧!!そうだった!!
「まあ予算15万でどうにかなるように調整するとして、それまでは地力上げ及び、お金稼ぎね。」
なんだってーー!
く、仕方ない。でも最低限冒険が出来るためには、17万+15万リーン以上必要だったとは。
「それに狭い場所用の装備も必要だから、どんどん経費が・・・」
そうか、サブウェポンも必要なのか。
前途多難だ、ぼくは冒険者もとい、魔物ハンターとしてはスタートラインにすら立っていないらしい。
が、がんばろう。