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異世界に飛ばされたロボット  作者: フィーネ・ラグサズ
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対話

腕組みをしながらトーマス少年は唸っていた。

目の前には自分の倍近い身長の鎧がある。

一週間ほど前に現れた異国から来た騎士だ。

正確には異国から来たらしい騎士だ。

彼の家は代々から騎士向けの鎧を作っている。

父が鎧を作っている様子を見て育ってきた彼はその辺の大人よりも鎧を知っている、と自負していた。

見たこともない鎧だな、と軽く流していたが、彼の弟のジョンが騎士の背中を登って落ちそうになったことをきっかけにこの騎士に強く興味を持ったのだった。

弟から助けてもらったと聞いた彼は、弟と一緒に騎士の元に行き、無礼を働いたことを謝り、それでも助けてくれたことを感謝した。

しかし、騎士はそれに対して何も反応をしなかった。

怒っているわけではなさそうだが、許しているようでもなく、何を考えているのかわかなかったのだ。

異国から来たのだから言葉も通じないのだろう、とまわりの大人たちはいうが、それでいいのだろうか、とトーマス少年は思ったのだった。

もし、そうなら、何もわからないまま、この騎士はここにいることになる。

言いたいことがあれば言え、相手の言葉は聞け、と言われて育ったトーマス少年にとって、想像するだけでも不快だった。

どうやったらこの異国の騎士と会話できるだろうか、と彼はずっと考えていた。

しかし、良い答えは出ないまま、時間だけが過ぎていく。

「トム、何やってんの?」

「なんだ、アンか。邪魔しないでよ」

「邪魔って何さ」

「俺はこの騎士さんと話すにはどうすればいいのか考えるので忙しいの」

「喋れない人と話せるわけないでしょ」

アンは冷めた目で騎士を見る。

騎士は身動きひとつせずにその場にいる。

そして、アンはトーマスに耳打ちする。

「あの騎士は危ないってお父さんとお母さんが話してた」

「バカいえ、この騎士さんはジョンが背中登って落ちそうになったのを助けてくれたんだぞ。危ないもんか」

「そういうふりをしているだけだよ」

アンは疑り深かった。

トーマスは騎士の方を向いて、

「なあ、騎士さんよう。何か言ってくれよ」

それでも騎士は応じない。

「言葉がわからないならわからないなりになんかしてくれればいいのに」

「なんか……?」

「言葉の意味がわからなくたって、手を横に降ったりできるでしょ。聞こえなかった、とか」

「それだよ、アン!」

トーマスの大きな声にアンは体をびくっとさせて、

「大きな声を出さないでよ」

「身振り手振りだよ。簡単なやりとりならそれできるよ!」

「でも、それは相手が意味わかってなかったら無理だよね」

「あー……」

アンの指摘にトーマスは頭を抱えた。

「お兄ちゃん、アンお姉ちゃん、どうしたの?」

やってきたのはトーマスの弟のジョンだ。

「騎士さんと話すにはどうすればいいのか考えてたんだよ」

「無理なんじゃないって私は言ってるんだけどね」

「んー」

ジョンも腕を組んだ。

兄弟そっくりだ、とアンは思いながらジョンを見た。

「あ、でも、肩車する時にちゃんと向きを変えてくれたよ」

「……本当か?」

「うん、ほんとだよ! 広場に並んでたみんなを肩車してくれたよ」

アンも腕を組んで改めて考えなおすことにした。

「ねえ」

「なんだよ、アン」

「言葉の意味はわかってるんじゃないかな」

「は?」

アンの意外な言葉にトーマスは間の抜けた声を出した。

「だから、返事の仕方を教えたらいいんじゃないかな」

「なるほど」

とトーマスは意識して大きく首を縦に振った。

「騎士さん、わかった時はこうやって首を縦に振るんだよ」

と騎士に話しかけてみるがやはり動かない。

やっぱり、無理か、とトーマスが諦めかけた時、騎士はゆっくりと首を縦に振った。

最初、何が起こったのかわからずトーマスも、アンもぽかんとした。

ジョンはやったぁ、と声をあげて喜んだ。

「じゃあ、ずっと、聞こえてたんだ」

首を縦に振った。

「なんで喋らなかったの?」

今度は動きがない。

「うーん、なんだろ」

「喋らないんじゃなくて喋れない?」

やはり動かない。

「ねえねえ、違う時はどうすればいいのか教えてないよ?」

とジョン。

「あ」

と二人。

「わからない時はこう」

ジョンは首を横に振ってみせた。

改めてアンは騎士に問いかける。

「喋らないの?」

首を横に振った。

「喋れない?」

今度は首を縦に振った。

「そっか、喋れないんだ……」

「でも、他の国から来たのにすごいな、騎士さん」

「ねえねえ」

とジョン。

「そんなに喋っても騎士さん、お返事できないよ?」

トーマスとアンは顔を見合わせた。

「今だって騎士さんははい、といいえ、しか言えないから……」

トーマスはしばらく考えて、

「はいといいえで答えられるように工夫すればいいんだな」

騎士は首を縦に振った。

「ジョン、すげぇなぁ」

トーマスは弟の頭を撫でる。

「アンもすげぇよ」

「ついで扱いしないでよ」

「あ、わりぃ」

「はいといいえだけだと会話するのは難しいわね」

「それはどんどん教えていけばいいんじゃないか?」

「何を?」

「それは、こう、何かだよ」

トーマスの頼りない言葉にアンは大げさにため息をついてみせる。

ジョンは二人をきょろきょろと見てから首をかしげた。

騎士も彼に倣った。


「これは決闘だからな、殺し合いじゃないからな!」

トーマスは物言わぬ異国の騎士に決闘のルールを説明していた。

説明すれば首を縦や横に振っているのである程度は会話は成立しているはずだ。

だが、どれぐらい正確に理解しているかはわからず、トーマスは不安だった。

言葉をいつものように教えていたら、騎士のハル・ノイマンがやってきた。

「彼に言葉を教えているのかい」

と聞かれ、そうです、とトーマスははっきりと答えた。

「すごいじゃないか。君の名前は?」

トーマスが胸を張って名乗ると、

「トーマスか。これから彼と決闘をすることになった」

ハルの言葉にトーマスが驚いているとさらに、

「ルールをどう説明するか困っていたんだ。トーマス、君の力を借りたい」

と言われさらに驚いた。

騎士にお願いすることはあっても、お願いされることはめったにないことだ。

だから、トーマスは勢い良く、

「はい、喜んで!」

と言った。

言ってしまった、というのが正しいかもしれない。

トーマスは不安を覚えていた。

もし、この決闘でこの騎士がハルを殺すようなことがあれば大問題だ。

殺し合いではない、と言葉を変えて何度も説明しているのだが……。

「お兄ちゃん」

「ん?」

「訓練って広場であった?」

ジョンの言葉にトーマスはしばらく考える。

もし、この騎士が広場の様子を見ながら言葉を覚えたのだとしたら、練習や訓練という言葉を使っても、結びつける行いは見つからないだろう。

喧嘩は何度かあったと聞いているが、殺し合いに比べれば決闘に近いだけで、決闘ではない。

「一番近いのは訓練なんだけどなぁ。なんだっけ」

「模擬戦?」

とアンが答える。

「そう、それ。決闘ってあれに近いだろ」

「うーん、今から見てもらうのはできないよねえ」

三人は腕を組んでしばらく考える。

「アンお姉ちゃん」

「なぁに?」

「絵を見せたらどうかな?」

「アン、お前、絵なんて描いてたのか」

「悪い?」

「いや、こう、がさつな感じがあっ」

みぞおちに一発食らってトーマスが無言になる。

かばんからクロッキー帳と鉛筆を取り出すとささっと描き始めた。

そして、描き上げた絵を順番に見せる。

まず一枚目の絵では軽装で木製の剣を持った兵士二人が対峙していた。

「武器は怪我をさせないようなものを使うの」

騎士は動かない。

二枚目で戦う様子が描かれているが、血などは出ていない。

「怪我はさせたらダメだからね」

三枚目では兵士の一人が剣を手放していた。

「相手が剣を手放したらそこで終わり」

騎士は首を縦に振った。

三枚目には先ほどまで戦っていた兵士二人が握手している様子が描かれていた。

「こんな感じのことをするの。わかった?」

騎士は再び首を縦に振った。

そして、もうひとつ動きを見せた。

左の肘を左手で掴んだ。

右手が何かを掴んで引っ張り出している。

黒い金属の板だった。

「これは――」

と手を伸ばしたアンを騎士が制止する。

「それ、魔獣を真っ二つにした剣じゃないか」

いつの間にか復帰したトーマスが縁を見てみろよ、と言葉を続けた。

「薄くなってる……?」

騎士は左手で右の肘を掴み同じように黒い剣を取り出して床においた。

「何をやるかは伝わったようだなぁ」

トーマスが肩から力を抜きながら言った。

緊張していたらしく、体のあちこちがこわばっていた。

「アンの絵に救われたぜ」

「でも、こうやってずっと説明はできないなぁ」

「なんでだ?」

「トーマスだって家の手伝いしてるでしょ。私だって手伝いがあるの」

「あー、そうだなぁ」

「それにそんなに上手じゃないし」

声の調子からしてこちらが本当の理由かもな、とトーマスは思ったが伏せておく。

扉をノックする音がして、こちらが返事するよりもはやく扉が開いた。

「時間です。騎士殿はこちらに。皆さんは観客席に移動してください」

案内の兵士に連れられて歩いて行く騎士を三人は見送った。

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