表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14卒、無い内定。――ぼっちの就活日記  作者: 五条ダン
第三章 ダーク・ゴーストライターという仕事
16/28

ゴーストライターと思考の墓場


 ゴーストライターのアルバイトをはじめてから二週間が経つ。

 ゴーストライター、幽霊物書き。


 ゴーストライターは、感情を持たない。心を持ってはいけない。


 僕ら幽霊物書きに依頼されるのは、「嘘を書くこと」である。



 健康サプリメントの効果の解説、美容化粧品の体験談、エステサロンの口コミ、リボ払いクレジットカードの便利さ、情報商材でお金儲けに成功した物語、開運印鑑の御利益への御礼、パワーストーンで恋愛成就したストーリー……etc


 そんな、心にも思っていないことを書かなくてはいけない。ひたすら書かなくてはいけない。


 すべて、読者を騙すための文章である。悩みを抱える人に優しく手を差し伸べ、商品を買わせるための物語を偽らなくてはならない。


 ボクがやっているのは、そういう仕事だった。



 バイトのノルマは一日一万文字。

 じつは、ぜんぜん、たいしたことがない。


 商品勧誘のテンプレート文章なんて目をつむっていても書けるし、実際のところドライアイがひどいので目をつむって、ブラインドタッチで打っている。


 心にもない文章であっても、キーボードのタッチタイピングはやがて思考と同一化する。

 あとは、パソコンのまえに座って目を閉じているだけで、勝手に文章が書き上げられてゆく。


 アフィリエイトに用いられる商品勧誘の文章などは、頭を空っぽにして書かなければ精神がおかしくなってしまう。逆に頭を真っ白にしてさえいれば、一万文字でも二万文字でも書くのはたやすい。


 慣れてしまえば、ぼーっとしているだけで、いつの間にか書けてしまうのだから。



 このバイトは、在宅ライターと比べればはるかに文字単価が良かった。

 10,000文字/日で、6,400円/日も貰える。文字単価は1文字0.64円。


 ふつうの在宅ライターだと、文字単価が1文字0.2円が相場であるので、これは破格の待遇である。


 報酬的な意味でも、適性的な意味でも、ゴーストライターのバイトはボクにとっては最高に恵まれた仕事であるといえた。



 ただひとつ、良心を痛めることを除いては――。



「今の職場には満足しているよ。コミュニケーションも必要ないし、文章を書くだけでお金が手に入る。商品紹介記事も、偽の体験談も、会員勧誘記事も、《創作世界でいつも嘘をついてきた》ボクであれば、まったく苦にならず記事を量産できる。自分はこの仕事に向いていると思う。

――、でも、本当にこれで良いのだろうか。嘘を書くことで、大切な何かを失っている気がするんだ」



 ボクは、エア友だちである江安くんに問いかけた。

 江安恒一、ボクの創作した偽りの親友。


 江安くんはしかし、言葉を返してはくれなかった。彼の声が、ボクには届かなくなっていたのだ。



「江安くん、江安くん…!」

 ボクは彼の姿を求めて何度も名前を口に出した。

 

 ふと我に返ると、目の前のモニターには、心が欠片も篭っていない電話占い体験談の文字列が連なっていた。



《私もここのサービスのおかげで人生が変わりました!! 今ではカレシとラブラブです!!!》



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ