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14卒、無い内定。――ぼっちの就活日記  作者: 五条ダン
第二章 壊れゆく世界
12/28

クリスマスと運命の輪


 12月25日、クリスマスの朝だった。

 朝の清らかなる日差しを浴びて、ボクはベッドから起き上がりうーんと伸びをする。


 昨夜は恋人との素晴らしいひとときを過ごした。あたたかくて温もりのある、楽しい一夜だった。

――と、回想しながら、毛布で可愛く丸まっている《抱き枕》に愛しみを籠めて撫でてやった。ふぅ……。

 


 それから、ベッドの隣に吊るしておいた靴下の中身を覗き込む。サンタさんが内定通知書をプレゼントしてくれているかもしれない。しかし、靴下の中は、得体の知れない白い虫が這っていた他には虚ろな空洞だけだった。


 とりあえず何かを食べようと台所へ行って戸棚を覗いてみたが、空だった。仕方が無いのでパジャマの上からコートを羽織って、近くのコンビニへスナックパンを買いに行くことにした。


 徒歩15分ほどでコンビニに着く。自動ドアをくぐると、店員さんが眠そうな声でいらっしゃいませーと言った。

 店内で何となく見上げてみる。天井には万引き防止のためのミラーがあって、そこにはボサボサの寝癖のボクの姿が映っていた。

 なんだか悲しくなってきて、そそくさと会計を済まそうとする。そして店員さんからスナックパンとレシートを手渡しで受け取った。


 まるで初めて人からプレゼントを貰ったような気がして、ボクは嬉しくて、家に帰ってからしばらくコンビニのレシートを眺めてにやけていた。レシートの角を指でつまんでクルクルと回して筒状に丸めてゆく。そんな遊びを何度か繰り返して、意味もなく「ふふっ」と笑った。



 刹那――、鳴り響く携帯の着信音。

 跳び上がりボクは震える手で携帯電話の通話ボタンを押す。


『五条さんでいらっしゃいますか。先日の選考の件で少し折り入ってお話があるのですが……』

 どこか聞き覚えのある声だったが、心当たりがありすぎて分からない。毎週どこかしらの面接は受けている。


 結論から述べると、それはアルバイトの採用通達の電話だった。

 その会社からは先週にお祈りメールを受け取ったばかりだったが、どうやらバイトの中途辞退者が多かったらしく不採用だったはずのボクに白羽の矢が立ったようである。担当者から正月明けに来るように指示され、ボクは了承して電話を切った。


 新卒者就職応援プロジェクト※の件もあったので悩んだのだが、時給、社会保険、税金、給与振込日、交通費等を考慮した結果、バイトの方を選ぶことにした。

※中小企業庁によるインターンシップ制度


 ちなみに新卒者就職応援プロジェクトの助成金システムは


 (実習時間→日額助成金)

 4時間→5,000円

 5時間→5,500円

 6時間→6,000円

 7時間→6,500円

 8時間→7,000円


 という感じに1時間毎500円アップしてゆく仕組みなので、時給換算で考えるならば4時間の実習を受けるのが最も合理的である。

(ただし、4時間だけ働かせてくれる受入企業が少ないらしく、実際はなかなか4時間のみの実習は難しいようだ。また、既卒者の実習時間は7~8時間で固定される。詳しくはお近くのコーディネート機関で)


 新卒者就職応援プロジェクトについてはこれまでにも色々と書いてきたが、就職活動に行き詰っている者としては本当にありがたい制度だと思う。特に、バイト経験が今までになくて採用面接で突っ込まれて困った人や、職場での対人関係に自信の無い人、あるいはこれまでの就職活動で自信を失った人――そんなボクのような14卒無い内定にはこの制度は突破口となると思う。


 と、宣伝してみたのは良いものの、新卒者就職応援プロジェクトは2014年の2月末に終了する予定だそうなので、もしこの文章を読んでいる時点で過去の産物と化していたら許して欲しい。



 しかしながら、ボクはバイトの方の採用が決まってしまったので、新卒者就職応援プロジェクトは辞退することにした。バイトからの正社員登用と、インターンシップからの正社員登用、どちらが成功する確率が高いのかは分からない。それにどちらを選ぶにせよ、並行して通常の就職活動を進めてゆく必要はあるだろう。



 何気なく手元にあったタロットカードを引いてみる。

 出てきたのは《No.10 運命の輪 THE WHEEL OF FORTUNE》の正位置。



 辿り着く先は分からないが、運命が転換し進みだす、始まりの合図だった。


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