焦燥
視点が変わります。(次話からまた戻ります)
―――見失ってしまった。
わたしたちは焦っていた。
―――あの子は、どうなってしまったんだろう。
わたしたちが産み育て、常に身近にいた『その子』は、今、なぜかわたしたちの近くにいない。
―――いったい、どうしてこんなことが。
こんなことは、今までに一度も無かった。そもそも本来、あり得ないことだった。
わたしたちは混乱した思考を鎮めて、何度も反芻した考えを再び呼び起こした。
考えろ。なぜこうなってしまったか。わたしたちはこれから、どうするべきか。
―――憎い。
しかし、わたしたちはまたしても、ふつふつと怒りを覚え、冷静さを欠いていった。目の前を稲妻が走る。
いつの間にかわたしたちは、天空を走る、虚栄の稲光の最中にいた。
―――憎い、憎い
あの、忌々しい人間ども。わたしたちと『あの子』を引き離した、人間ども。そうだ、あいつらが、こうなってしまった原因に違いないのだ。
怒りが生み出した、虚栄の稲妻が身体を打ち、わたしたちは怒りに身を任せた。けれど、それは不毛なことだ。わたしたちは理解していた。わたしたちが怒ると、『あの子』は傷つき、悲しんだ。そして最後にはいつも『あの子』は、その怒りをふんわり包み込んで、言ってくれたのだ。
お父さん、大丈夫、大丈夫だから。
気がつくと、天を切り裂く稲妻は、包み込むような温かい雨に変わっていた。
その雨には、わたしたちを探す『あの子』の気持ちが詰まっていた。不安、心配、寂しさ、愛しさ。それらは、はちきれんばかりにわたしたちを包み込む。
雨の中、時折、『あの子』とわたしたちがつながるのが分かった。
そのうち、『あの子』もわたしたちとつながるのが分かったのか、雨の中に微かな喜びが混じり始めた。
わたしたちは、雨を抱き、泣いた。
よかった、よかった。まだ手遅れではない。
見えないだけ、感じないだけだ。『あの子』はまだ、側にいる!