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Border Violators  作者: 月見里 翔
第一章 発端
9/14

焦燥

視点が変わります。(次話からまた戻ります)

 ―――見失ってしまった。


 わたしたちは焦っていた。


 ―――あの子は、どうなってしまったんだろう。


 わたしたちが産み育て、常に身近にいた『その子』は、今、なぜかわたしたちの近くにいない。


 ―――いったい、どうしてこんなことが。


 こんなことは、今までに一度も無かった。そもそも本来、あり得ないことだった。

 わたしたちは混乱した思考を鎮めて、何度も反芻した考えを再び呼び起こした。

考えろ。なぜこうなってしまったか。わたしたちはこれから、どうするべきか。


 ―――憎い。


 しかし、わたしたちはまたしても、ふつふつと怒りを覚え、冷静さを欠いていった。目の前を稲妻が走る。

 いつの間にかわたしたちは、天空を走る、虚栄の稲光の最中にいた。

 

 ―――憎い、憎い


 あの、忌々しい人間ども。わたしたちと『あの子』を引き離した、人間ども。そうだ、あいつらが、こうなってしまった原因に違いないのだ。


 怒りが生み出した、虚栄の稲妻が身体を打ち、わたしたちは怒りに身を任せた。けれど、それは不毛なことだ。わたしたちは理解していた。わたしたちが怒ると、『あの子』は傷つき、悲しんだ。そして最後にはいつも『あの子』は、その怒りをふんわり包み込んで、言ってくれたのだ。


 お父さん、大丈夫、大丈夫だから。


 気がつくと、天を切り裂く稲妻は、包み込むような温かい雨に変わっていた。

 その雨には、わたしたちを探す『あの子』の気持ちが詰まっていた。不安、心配、寂しさ、愛しさ。それらは、はちきれんばかりにわたしたちを包み込む。


 雨の中、時折、『あの子』とわたしたちがつながるのが分かった。


 そのうち、『あの子』もわたしたちとつながるのが分かったのか、雨の中に微かな喜びが混じり始めた。


 わたしたちは、雨を抱き、泣いた。


 よかった、よかった。まだ手遅れではない。


 見えないだけ、感じないだけだ。『あの子』はまだ、側にいる!


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