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ひとひらの花びらに思いを(未)  作者: 御山野 小判
第三章 始まりの予感
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第七話 魍魎の憂鬱 その六

 そしてそれから二人は使用人達によって自分達が泊まる部屋へと案内された。そう、おかしな誤解がない為、今回はちゃんと隣同士の別々の部屋へと。それにどこかホッとしながら、魔法使いはその部屋で一人息をつくと、夕食までの時間は暇になるなと、旅の疲れを癒すようソファーに身を持たせかけた。そしてしばし体を休めていると、やがて不意に、


 トントントン


 と、扉をノックする音がしてきた。それになんだと思って魔法使いはその扉に寄り、開けてゆくと……、


「あ、あの……」


 緩いウエーブのかかった金髪の、どこか奥ゆかしさを感じさせる美しい少女がそこに立っていたのである。そう、それはまるであのシェーラのような。その少女はうつむき加減でどこかおどおどとした態度をしながら、


「あの、私……」


 だが、魔法使いはそれを胡乱げな眼差しで見つめると、


「なんだ、エミリアか。何の用だ」


 悩む様子もなくそう言い放つ。


 そう、それは変装したエミリアであった。髪形も変わり、化粧も施され、雰囲気は大分変わったものになっていたが……正真正銘の。すると、あっという間に見破られてしまったそれに、エミリアは面白くないよう頬を膨らませながら、


「なんだはないじゃないですか。せっかく一生懸命変身したのに」


 それに魔法使いはフンと鼻で笑い、


「どんなに化粧しても、エミリアはエミリアだ。顔は変えられんってことかな」


 せっかくの苦労、だがそれはあっけなく否定されエミリアはガックリとくる。そして、そんなに似てないかしらと、エミリアは心配になって部屋にある鏡に寄ってじっとその姿を見つめてゆくと……。


 ふむふむ、いやこれは、


「なかなかいけてるじゃないですか」


 まんざらじゃないようにそう言う。

 そう、自分の部屋に入り、早速変装に挑戦したエミリア。かつらをかぶって、化粧を施し、鏡を見てみれば……。


 うん、髪型が変わるだけでも大分印象が違うではないか。


 そうして面白いような気持ちになると、試しにここへとエミリアはやってきたのであった。まあ、結果は玉砕だったが……。そして更に、


「仕草だって研究したんですよ」


 そう言ってエミリアは気を落ち着けるよう咳払いをすると、


「あ、あの……私……いえ、よく分かりませんが……」


 どこかおどおどと、躊躇いを見せるような表情で、エミリアは魔法使いに向かって言う。そう、鏡に向かって何度も練習したこの仕草、ほらほら見て見てと魔法使いに訴えかけるかのよう。するとそれに魔法使いは、渋い顔をして手を振ると、


「やめてくれ、おまえがやると気味が悪い」


 あまりにもそっけない言葉に、再びエミリアはぷっと頬を膨らませた。


「もういいです! お師匠様は全く……夕食の時、ブロウ氏に見てもらいますから」


 そう、ようは依頼人が納得してくれればいいのだ。なので無理やりそう言い聞かせると、夕食時にはあっと言わせてやると胸に誓い、エミリアは再び自分の部屋へと戻っていった。


   ※ ※ ※


 そして夕食時、エミリアは言葉通りあの格好で食堂に現れると、その姿をこの家の家族の者達に早速披露していった。そう、かつらをかぶり化粧を施し、シェーラの気分になってにっこり皆へと微笑んで。


 確かに魔法使いが言った通り、シェーラとは顔が違うエミリア。だがエミリアもシェーラ同様美少女と呼ばれる部類の者であったから、同じような背格好もあいまって、雰囲気はどこか似たようなものをかもし出していた。そして元は貴族であるだけに上流の仕草も完璧であるエミリア、公の場に出ることに何ら問題はなく、更にあれから十分行ったシェーラの言葉遣いや仕草の研究の成果もあって、その変身振りは中々なものをみせていた。それにはブロウ氏も大満足といった感じで、うんうん頷きながらその姿にじっくり魅入っていっていた。当然の如く、隣の席のシェーラもエミリアの変身には驚いたような表情をしており……中々悪くない彼らの反応であった。


 それに不安だったエミリアの気持ちもようやく収まりをみせると、とりあえず突破した第一関門に、安堵してホッと息をついてゆくのだった。


 そうして見たかやったぞと心で師匠に言いながら、エミリアは食卓の席につくと、ナイフとフォークを手に取り、早速皆と共に食事へと入っていって……。だが、こういう時にも更に仕草を研究すべきかと思って、エミリアはシェーラの食事姿を観察してゆくと、やはり……、


 うーん、固い。


 これも真似せねばいけないのかと、エミリアは悩む。だとすると、この特徴ある動きはかなりの難度。エミリアはどうしようかと考えるが……だがそこまでやるのはさすがに面倒くさかった。なので、これで依頼主さんが満足しているのだからまあいいかと判断して、エミリアはいつもの如くの優雅な手つきで夕食へと手をつけていった。


   ※ ※ ※


 そうして日にちは変わって翌日。とうとうパーティーの日がやってきた。


 それはこの屋敷にとって大事な一日。その為もあってか、屋敷の者達は皆緊張感を持って、忙しくあちらこちらと動き回っていた。


 だが、そんな人々の迷惑も顧みず、エミリアはあれから変装が楽しくなってしまって、朝からその姿を家の者達に披露すべく、やはりこちらもあちらこちらと歩き回っていた。掃除をしている人を見つければその背後に回り、「あの……」。テーブルをセッティングしている人を見つければその横について、「あの……」と。勿論あくまで慎ましやかに、大人しく。そう、一応その行動には屋敷の地図を頭に叩き込む……という意味もあったが、あくまでそれは建前で。そうして色々な人にその姿を見せて回っていったが……だがしかし……。


 一方の魔法使いは、会場の大ホールに足を踏み入れ、その構造を確かめていた。


 すると、そこでまず目を引いたのがベランダにも通じる大きな窓。恐らく一番注意せねばならないのはここだろう。そう思って魔法使いは一つ一つの窓により、鍵はかかっているかと全ての箇所を確かめていった。取り敢えず、パーティーの時もこの窓は開けないことをブロウ氏から確認している。普段でもここには鍵がかかっていることを聞いてはいたが、一応念の為にと一つ一つ丁寧に。


 そしてこの部屋に出入できる扉はあと一つ。それは玄関へと続くこの部屋の出入り口であった。来客が出入りできる唯一の扉、そこには従僕が立ち、入ってくる者を一人一人チェックしてゆくという手筈になっており……。取り敢えず、しっかりと押さえてはいる窓や扉。だが……外を見遣れば、そこには広々とした見晴らしのいい庭が。昼間はこれほど監視しやすい場所はないが、パーティーは夜、何者かがここに近づいてきても、すぐ気がつけるかどうか、魔法使いの胸には不安が残った。そして、


 さて、この中で魍魎はどうでてくるのか。


 自信と不安を綯い交ぜにさぜながら、そう魔法使いは考え込んでゆき……。するとその時、


「お師匠様~」


 不意に背に声がかかり、何だと思って振り返ってみれば、そこには、


「エミリア……」


 そう、エミリアの姿があった。それは、当然の如く変装姿のエミリアであり、その表情にはどこか疲れたようなものがにじんでいた。そして、そこから魔法使いはすぐに察する。そう、


「は、みんなに見せてまわってきたのか?」と、


「はい……でも、みんなすぐ私だって見破ってしまうんです。なんだか、ショックです」


 再び自信がないように肩を落とすエミリア。すると、それを見て魔法使いは、


「家のものはシェーラ嬢を知っているからな。まあ、パーティーに来る奴らは彼女を知らないんだ。多少へましたって問題ないだろう」


 だがそれに、思わずといったようエミリアは一つ大きなため息をつくと、


「だといいんですけど……」

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